さきがけニュース
「生体分子の形と機能」領域

「生体分子の形と機能」領域濡木 理 研究者
  タンパク質合成酵素が「血管新生」の促進、抑制機能をもつことを その構造から解明
米国ネイチャー・ストラクチャー&モレキュラー・バイオロジー誌に掲載


 戦略的創造研究推進事業「生体分子の形と機能」研究領域(研究総括:郷 信広)における研究テーマの一環として、濡木理研究者(平成14年度採択)等による「ヒト由来トリプトファニルtRNA合成酵素の血管新生抑制機能の構造的基盤」が,米国情報誌「ネイチャー・ストラクチャー&モレキュラー・バイオロジー」(2004年2月号)に掲載され、1月13日付の日本工業新聞でとりあげられました.

 アミノ酸のひとつ トリプトファンを用いてタンパク質を合成する トリプトファニルtRNA合成酵素(TrpRS)は、少し小さいタンパク質(mini TrpRS)として発現される場合があります。このmini TrpRS は細胞外へ分泌されて血管内皮細胞の自死(アポトーシス)を促し、血管新生を抑制します。一方、近縁のアミノ酸 チロシンを用いてタンパク質を合成する チロシルtRNA合成酵素(TyrRS)は、アポトーシスを起こした細胞の中で分解され、そのひとつ(mini TyrRS)は、血管新生を促進します。これら2つの酵素が、本来の機能である「タンパク質合成」とは異なる「血管新生」という細胞機能を有し、しかも全く逆の生理活性を持つメカニズムの解明が待たれていました。

 今回の発表では、ヒト由来mini TrpRSのX線結晶構造解析の結果に基づいて、mini TrpRSに特徴的な4つの構造を発見し、これらの構造の変異体の生化学・細胞生物学解析を行うことで、mini TrpRSのtRNA [転移RNA(リボ核酸)] を認識するドメイン(構造、機能としてまとまっている領域)に挿入された8個のペプチド(短いタンパク質部分)が血管内皮細胞のアポトーシス、さらに血管新生の抑制に必須であることを解明しました。本結果により、血管新生によって引き起こされる失明や癌細胞の増殖を抑制する薬剤のデザインが期待されています.


氏  名 濡木 理(ぬれき おさむ)
所  属 「生体分子の形と機能」領域(URL:http://www.jst.go.jp/kisoken/presto/complete/biomolpresto/
研究期間 2002年10月〜2005年9月
研究課題 構造ゲノム科学およびプロテオミクスに基づく新規の遺伝暗号翻訳装置の同定と機能発現メカニズムの解明
所  属 東京工業大学 大学院生命理工学研究科 教授
Email onureki@bio.titech.ac.jp

【関連URL】

[研究者ページ] http://www.jst.go.jp/kisoken/presto/complete/biomolpresto/sub42.html
http://www.x-ray.bio.titech.ac.jp/


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