通信総合研究所の西坂崇之研究員(現在 学習院大学助教授)らの研究グループは、生体のエネルギー通貨であるATP(アデノシン3リン酸)を合成する酵素の中にある「F1-ATPase」と呼ばれる回転モーターにおいて、化学反応と力学反応を同時に観察することに世界で初めて成功しました.この成果は英国の学会誌「Nature Structural & Molecular Biology」の2004年2月号に掲載されました.
西坂氏らは、分子レベルの動きが検出できる全反射型蛍光顕微鏡に改良を加え、蛍光色素1分子の向きを5°程度の分解能で決定できる光学系を開発しました。この顕微鏡を用いて、分子モーターの動きを産み出すATPを分子1個のレベルで可視化しながら、同時にモーターの軸の回転を蛍光と異なる波長で観察しました。その結果、F1モーターの中に3カ所あるATP触媒サイトの向きと、回転軸の向きは完全に対応していることが分かり、他にもモーターのメカニズムを理解する上で重要な知見が数多く得られました. これらの成果は、「F1-ATPaseの回転触媒機構解明」という生物物理学上の大きな研究課題を大幅に進展させるものです。
なお、この成果は岡崎共同研究機構・木下一彦教授、東京工業大学資源化学研究所・吉田賢右教授のグループ、東京大学・野地博行助教授との共同研究の成果です.また、1つの生体分子に注目して化学・力学反応を画像化する新しい技術として、日本工業新聞(2004年1月20日号2面)にも取り上げられました.
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