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研究代表者・研究課題

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【平成17年度採択】

【平成18年度採択】

【平成19年度採択】

多種類の危険・有害ガスに対する携帯型高感度ガスセンサシステム

山中 一司

山中 一司
東北大学 未来科学技術共同研究センター 教授

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研究概要

  安全のための重点課題として、多くの種類の危険・有害ガスを高感度で迅速に検知する技術が求められています。本研究では、球の弾性表面波(SAW)が平行ビームを形成して多重周回する現象を用いて吸着分子による特性の変化を高精度に計測するボールSAWセンサを高度化し、MEMSによるガス分離カラムと組み合わせて環境中の多種類のガスを検知し、センサネットワークに発信する携帯型の高感度センサを開発します。


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実証実験

  物理学の教科書には、音波や電磁波などのビームは伝搬するにつれて拡がると書かれている。これは回折という現象で、波を用いる素子の性能の限界をもたらす。しかし、軸受球の非破壊検査法の研究中に、これを超える発見がなされた。球の表面を大円に沿って伝搬するSAWは特別な性質を持ち、図1のように、球の直径と波長の幾何平均に等しい幅を持つビームは回折せず、どこまで行っても同じ幅を保つ。
  本研究では、この物理学の常識を破る発見、無回折・コリメートビームを応用して、環境計測やセキュリティー分野で強く要望されている多種類の危険・有害ガスに対する携帯型高感度ガスセンサシステムを開発する。これをボールSAWガスクロマトグラフ(ガスクロ)と名づける。
  ボールSAWガスクロでは、捕集器で採取され、ガス分離カラムで成分ごとに分離されたガス分子を、球の大円に沿って流し、大円を周回するSAWのコリメートビームと相互作用させて、その特性を変化させる(図2)。


球の大円に形成される自然なコリメートビームのエネルギー分布(理論計算)

図1 球の大円に形成される自然なコリメートビームのエネルギー分布(理論計算)


ボールSAWガスクロの構成

図2 ボールSAWガスクロの構成


  従来のSAWセンサは伝搬距離が短いので、微小な変化が検知できない(図3(a))が、球のSAWは100周以上周回するので、変化が増幅されて(図3(b))、音速だけでなく減衰の高精度測定も可能になる。
  この特長を用いて、10ppmから100%までの検出が必要な水素ガスをはじめ、2酸化炭素、水蒸気、メタノール、エタノールなど燃料電池関連ガス、および窒素、メタン、エタン、プロパンなど天然ガス関連ガス10種以上を検出するセンサシステムを開発する。プロジェクト終了後は、ポケットに収納して日常生活で使用し、計測データをセンサネットワークに発信する携帯型のガスクロを実用化する。この技術により 個人ユーザーにアレルギー原因ガスなどの有害ガス検知手段を提供するとともに、危険ガスの分析をオンサイト短時間で可能にして安全安心な社会実現に貢献する。さらに、 環境における危険・有害ガスの情報を時間的・空間的に蓄積することによって、広範囲な環境問題の原因解明と対策に有用な知見を得る体制の確立に貢献する。


従来のSAWセンサとボールSAWセンサの比較

図3 従来のSAWセンサとボールSAWセンサの比較


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重要技術

  本研究では、波動物理学とセンサ工学の融合による次の技術が重要なキーテクノロジーとなる。
(1)基盤技術
  弾性波は縦波と横波のモードが結合して電磁波(光)より複雑な特性を示し、平板結晶でも挙動は完全に解明されておらず、球のように伝搬につれて結晶方位が変化する媒体では、科学的にも未知の領域が多い。そこで結晶球の電極(図4(c))の方位、間隔、厚さ、材質などを制御してSAW伝搬性能の向上とボールSAW素子の高度化を図る。また評価装置(図4(a))の超高精度・小型化と、球状センサ(図4(b))に適したガス分離カラムなどの作製を行う。
(2)新しいガス分析法
  SAWの内部摩擦や電流誘起による減衰測定、ガス中への漏洩減衰測定、音速・減衰およびその周波数分散の同時測定、吸・脱着の反応速度論的解析などによるガス識別と分圧測定法など、ボールSAWセンサにより初めて可能になる新しいガス分析法を開発する。
(参加機関:東北大学、凸版印刷株式会社、ボールセミコンダクター株式会社、株式会社山武)


(a)評価装置とセンサモジュール(b)直径1mmの水晶球センサ (c) すだれ状電極IDT


図4 (a)評価装置とセンサモジュール(b)直径1mmの水晶球センサ (c) すだれ状電極IDT


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