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研究代表者・研究課題

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【平成17年度採択】

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セキュリティ用途向け超高感度匂いセンサシステムの開発

都甲 潔

都甲 潔
九州大学大学院システム情報科学研究院 教授

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研究概要

 本研究では、目的分子と選択的に結合する抗体及び鋳型分子認識膜を、表面プラズモン共鳴センサ及び表面分極型センサと組み合わせ、イヌの鼻を超えるppt(parts per trillion)レベルの検出感度を有する超高感度匂いセンサシステムを開発します。当センサシステムから構築されるネットワークは、空港・鉄道等のセキュリティー、警察での爆発物探知等への応用のみならず、食品や水の品質管理も含め、安全・安心な社会の実現に貢献するものです。

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実証実験

 本研究では,ファーストステップとして,空港における(据え置き型装置である)X線装置などによる検査(1次検査)後の,2次検査に用いることを想定し,1分以内の検出を目標としてプロトタイプの開発を進める.持ち運び可能であり,手荷物などを専用のフィルタで拭き取り,サンプルを採取する.付着したサンプルを溶媒に溶かし,SPRセンサによりその場で測定を行う.2年度には,可搬型の爆発物探知装置の試作に着手し,3年度内に空港や税関などでの実証試験を試みる.次のステップでは,検出時間の短縮を目指し,気相で応答可能なセンサの研究を行う.本課題終了後2年以内に,数秒での検知の実現を目指す.これは,センサを移動させながら測定を行うことで爆薬の空気中の濃度勾配の把握が可能となることを意味し,爆発物の位置の特定,すなわち1次検査での使用を可能とするものである.


実証実験イメージ

実証実験イメージ

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重要技術

 武器の密輸やテロの防止のため,公共交通機関等における持ち込み禁止危険物および爆薬を,非接触でその場で物質の同定が可能な匂いセンサシステムを開発する.主なターゲットをトリニトロトルエン(TNT)やジニトロトルエン(DNT),RDX(Research and Development Explosive:シクロトリメチレントリニトラミンまたはヘキソーゲン)などの爆薬,およびICAO (International Civil Aviation Organization)タガンツ(taggants)と呼ばれる爆薬マーカーであるジメチルジニトロブタン(DMNB)とし,超高感度で高選択的に爆発物が検出可能な匂いセンサシステムを構築することを目的とする.


 表面プラズモン共鳴(SPR)センサおよび表面分極制御法抗原抗体反応鋳型分子認識膜と組み合わせ,匂いセンサ統合システムを開発する.


 表面プラズモン共鳴センサは,一種の屈折率計であるが,センサチップ(金薄膜)上の微量な質量変化を屈折率の変化としてとらえることのできる,非常に超高感度なトランスデューサである.金薄膜上に鋳型分子法や抗体で認識膜を作ることで,微量の化学物質の濃度定量が可能となる(図1).


 表面分極制御法とは,電極表面とターゲット分子を,表面の電気化学インピーダンスにより検出する,九州大学により開発された独創技術である.化学物質の吸着を反映するCPE(constant phase element)特性を測定する電気化学インピーダンス法と表面における分子との相互作用を表面分極状態で動的に制御する技術(表面分極制御法)を用いることで,電極表面の数オングストローム程度のごく近傍に関する情報を検出することができる.


図1 表面プラズモン共鳴センサ

図1 表面プラズモン共鳴センサ


図2 間接競合法

図2 間接競合法


  SPRセンサおよび表面分極制御型センサは高感度トランスデューサとして用い,また抗体及び鋳型分子認識膜は目的分子と選択的に結合する分子認識部として用いる.抗体が作製可能な化学物 質であれば,その抗体を使用することで,また抗体が作製できない化学物質に対しては分子鋳型法 を用いることで,幅広く様々な化学物質に適応可能である.開発する探知装置は,収集部,濃縮・捕 集部,検出(SPR,表面分極型センサ)部からなり,空気中に漏れ出る極微量の爆薬を収集し,検出 を行う.化学増幅法の1つとして,例えば分担者の三浦が開発した間接競合法(図2)と呼ばれる感度 増幅技術を用い,超高感度・高選択的検出を実現し,犬の鼻を超えるpptレベルの感度を実現する.


 抗体の作製が困難な物質に対しては,鋳型分子認識膜を適用する(図2).分子インプリンティング法を用いて,電極表面に分子構造の型を取り,センサの選択性および感度の向上を図る.


 爆薬であるTNTやDNT,RDXに対する抗体を独自に作製し,分子認識部として用いることで,爆薬に対して高選択的に検出することが可能となる.また, ICAOタガンツであるDMDBに対しては鋳型分子認識膜を作製し,対応する.


 さらに,MEMS(Micro Electro Mechanical System)技術の適用により,システム全体をポータブルなシステムとする.これにより既存の据え置き型の爆発物検出器とは異なる,麻薬探知犬や爆発物探知犬が活躍する現場での使用を可能とし,安全・安心な社会の実現に資するものとなる.

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