本研究領域は、先端的ライフサイエンス領域と構造生物学との融合によりライフサイエンスの革新に繋がる「構造生命科学」と先端基盤技術の創出を目指します。すなわち最先端の構造解析手法をシームレスに繋げ、原子レベルから細胞・組織レベルまでの階層構造ダイナミクスの解明と予測をするための普遍的原理を導出し、それらを駆使しながら生命科学上重要な課題に取り組みます。
近年わが国では大規模なタンパク質の構造決定研究が進められ大きな成果を収めてきましたが、今後はその資源を礎に、生命現象の重要な担い手でありながら単独では機能しないタンパク質を動的に捉え、これが多くの生体高分子との相互作用で機能を発揮するメカニズムを追求することが大切です。たとえば多くの動植物の病気はタンパク質の異常に由来しますが、その原因を解明し、新規治療法や予防法を開発するためには、構造生命科学を基軸にした生命現象の理解が不可欠です。また、健康な長寿社会の実現、安全な食糧生産、環境問題の克服でも構造生物学的研究が求められます。こうした局面において構造生命科学は、生命現象を原子・分子レベルで時間的・空間的に解明して普遍的原理を導出し、さらには構造から生命現象を予測することで、こうした課題に応えるものとなります。
そこで本研究領域では、この構造生命科学を駆使して生命現象を支える重要な機能性素子である巨大複合体やオルガネラの動態解析、疾患の原因分子の特定とその構造の解明、構造的相互作用に基づいた創薬のためのリード化合物の分離などのほか、こうした研究を実現するに必要な先導的技術の創出を目指します。
大隈 良典 | (東京工業大学 フロンティア研究機構 特任教授) |
五條堀 孝 | (情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所 副所長 教授) |
嶋田 一夫 | (東京大学大学院 薬学系研究科教授) |
中島 元夫 | (SBIファーマ株式会社 取締役執行役員 CSO) |
箱嶋 敏雄 | (奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス研究科教授) |
藤吉 好則 | (名古屋大学大学院 創薬科学研究科教授) |
古谷 利夫 | (株式会社ファルマデザイン 代表取締役社長) |
山縣 ゆり子 | (熊本大学大学院 生命科学研究部教授) |
吉田 賢右 | (京都産業大学 総合生命科学部 教授) |
研究領域の概要で述べた構造生命科学は、現在、まだ揺籃期にあります。これを確固たるものにするためには、独創的な研究を展開する幅広いライフサイエンスの研究者たちと卓越した構造生物学的技術を持った研究者たちの叡智を結集した包括的な研究組織を構築・整備することが必要です。すなわちこれまで個別に推進してきたタンパク質の構造解析研究とライフサイエンスの機能解析研究が連携して研究プラットフォームを構築することが必要となります。そこで本領域では、ライフサイエンスと構造生物学が補完的に相互創出しながらインテグレーションを目指す先端的な研究に邁進します。
具体的には、
・ わが国がこれまで培ってきた構造生物学の伝統や科学力を継承・発展させ広範囲なバイオサイエンス研究と次世代構造生物学を融合させたライフサイエンスの新しい領域「構造生命科学」を駆使して生命科学上重要な課題に取り組みます。
・ タンパク質の「構造を解く」研究からタンパク質の「構造を使う」研究への飛躍を実現し、研究の社会還元を目指しますが、実践的な出口研究のみならず未来を志向した基礎的研究が含まれるものも歓迎します。
・ 結晶構造解析、溶液散乱、核磁気共鳴(NMR)、電子顕微鏡、1分子観察、分子イメージング、タンパク質複合体単粒子構造解析、質量分析、計算科学、バイオインフォマティクス、各種相互作用解析法など、ライフサイエンス研究の発展に資する基盤的な新規技術の創出や高度化を目指します。
・ 原核・真核生物を問わず生命現象の源である分子基盤の解明とその応用を目標とし、タンパク質のみならず、タンパク質と核酸、脂質、糖などの結合体や複合体の構造と機能の研究も奨励します。
・ 生体分子相互作用や修飾及び低分子化合物によるタンパク質の時空間的な変化を原子から組織レベルまで階層的に捉えることで可能となる分子識別機構の解明および分子識別機構を制御する新規分子設計に向けた要素技術の創出も追求します。
・動植物の病気の新規治療法や予防法の開発及び創薬に有用なリード化合物の分離につながる研究、食品の安全性に関わる食品添加物、食中毒等に関わる細菌・ウイルスに関する新たな検査法・予防法・治療法等の開発につながる研究及び環境問題等に配慮した植物の育成、バイオ燃料の開発等につながる研究等を対象とします。
・ 研究目標の成果を明確にするために、構造生物学者が代表となるか、もしくは構造生物学者を共同研究者として構成したチーム研究を重視します。
・上記以外の構造生命科学の発展に資する先導的で独自の視点からの提案も対象とします。
領域の運営に当たっては、CREST領域内の連携だけでなく、同じ戦略目標のさきがけ「ライフサイエンスの革新を目指した構造生命科学と先端的基盤技術」研究領域や、平成24年度に開始予定の文部科学省「創薬等支援技術基盤プラットフォーム事業」など、関連するプログラムや事業との連携を重視して情報交換や共同研究の場を設け、相加的・相乗的成果を挙げられる体制を構築します。
上図において「生命動態」は「生命動態の理解と制御のための基盤技術の創出」研究領域を、「構造生命科学」は「ライフサイエンスの革新を目指した構造生命科学と先端的基盤技術」研究領域をそれぞれ示します。