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戦略的創造推進事業CREST研究領域 > 海洋生物多様性および生態系の保全・再生に資する基盤技術の創出

研究領域

戦略目標

「海洋資源等の持続可能な利用に必要な海洋生物多様性の保全・再生のための高効率な海洋生態系の把握やモデルを用いた海洋生物の変動予測等に向けた基盤技術の創出」

研究領域名

海洋生物多様性および生態系の保全・再生に資する基盤技術の創出

研究総括

小池 勲夫(琉球大学 監事)

概要

 本研究領域では、海洋の生物多様性および生態系を把握するための先進的な計測技術と将来予測に資するモデルの研究開発を行い、これらを保全・再生するために必要な基盤技術を創出することを目的とします。
 具体的には、海洋の生物多様性および生態系の研究で現在ボトルネックとなっている、環境を含む生物データの取得技術とその将来予測に注目し、(1)海洋生物やその周辺環境の広域・連続的なセンシング・モニタリング技術、生物種の定量把握や同定の効率化、および生態系ネットワークの解明等による基盤的な生物・環境データの集積に資する先進的な技術等の開発、(2)生態系や生物多様性の変動を把握し、生態系の将来予測に貢献する新規モデルの開発、研究を対象とします。 (1)、(2)いずれの研究においても対象とする生物群集や現象等を明確にする必要があります。また開発ターゲットに即した海洋現場での調査・モニタリングによる実証が要求されるため、その分野の研究者との共同研究を行うことも必要です。ただし、調査観測やモニタリングのみの研究は対象としません。
 従来の海洋研究の壁を乗り越えるため、工学やライフサイエンス等を専門とする幅広い分野の研究者と海洋生物・生態研究者との共同研究を重視します。
 このような研究を通して、生物への影響を考慮した海洋資源の持続的な利用や海洋保護区の設定などの海洋環境保全策の提示に貢献することが期待されます。

領域アドバイザー

青木 一郎 (東京大学大学院 農学生命科学研究科 教授)
岸 道郎 (北海道大学大学院 水産科学研究院 教授)
中田 薫 ((独)水産総合研究センター 研究推進部 研究主幹)
西田 睦 (東京大学大気海洋研究所 教授)
藤井 輝夫 (東京大学 生産技術研究所 教授)
松田 裕之 (横浜国立大学環境情報研究院 教授)
安岡 善文 (情報・システム研究機構 監事)
矢原 徹一 (九州大学大学院理学研究院 教授 )
和田 英太郎 (京都大学 名誉教授)

研究総括の募集・選考・研究領域運営にあたっての方針(平成24年度)

 近年、地球温暖化などの人間活動や、昨年3月に発生した東日本大震災などの環境変動の海洋生物への影響が懸念されています。将来にわたる海洋生物資源の持続的な利用や生態系への影響を考慮した海洋開発など、海洋生物多様性を維持しながら海洋からの恩恵にあずかることが人類の持続的な発展に必要です。しかし、海洋の生物多様性および生態系に関する学術的な知見は不足し、それを深めるための基礎技術、基礎データも充分ではないのが現状です。

 そこで本研究領域では、「社会インフラのグリーン化」や「地球規模課題への対応促進」の達成に資することを目指して、出口を明確にした計測技術と生物多様性・生態系モデルの研究開発を行うことを目的とします。

 出口としては、多様な生態系における海洋生物多様性・環境の保全策の効果的な実施、海洋生物資源の持続的な利用、地球温暖化や巨大地震・津波などの大規模自然災害に伴う海洋生態系への影響把握と早期回復等のための改善策の提示などの研究が考えられますが、本研究領域の主眼はあくまでこれらの研究の基盤となる技術・モデルの研究開発にある点に留意してください。

 なお、本研究領域では海洋における遺伝子、種、生態系、すべてのレベルの生物多様性を研究対象とします。海域も沿岸、外洋、深海、珊瑚礁など、全ての海域を対象とします。また、物質循環により得られる海洋の生態系サービスなど、生態系の機能を中心とした研究も対象とします。昨年度の公募では38件の応募があり、そのうち13件が面接選考に進み、最終的には5件の課題を採択しました。

 選考の観点としては

  • ・海洋での生物多様性・生態系研究のボトルネックが具体的に提示され、それを解決するために新たな技術開発の確かなイメージが提案されているか
  • ・既にある技術・手法での観測・調査が研究の中心になっていないか
  • ・提案されているモデルに新規性はどこまであるか

 といった点を重視しましたが、上記の観点について十分な説明のない提案も多く、残念ながらこれらは不採択とさせていただきました。そこで、今年度の公募では昨年度の観点に加え、より具体的な選考方針として、下記の点を重視して選考を行います。

  • ・より研究の焦点を絞った、コンパクトな研究提案(種別T)を優先
     (目的が明確でない、高額の研究費の提案は評価しない。種別Uの提案にはより大きなアウトプットが求められる。)
  • ・観測が中心の研究は対象外(観測はあくまで実証・検証のため)
  • ・工学、ライフサイエンスなど異分野の研究者、企業が技術開発の中核を担っている提案を歓迎
  • ・多様性・生態系モデルは国内外の研究者との共同研究を歓迎
  • ・30代〜40代の若手の研究者の提案も歓迎

 本研究領域では、海洋生物多様性および生態系、新規計測技術、モデルをキーワードにしています。海洋の研究者が海洋の分野にこれまで関与してこなかった研究者に声をかけ、異分野の研究グループがより積極的に参画することにより、この分野が飛躍的に発展することを期待します。そして、研究の出口・目標を明確にすることによって、海洋現場における具体的な課題の解決に貢献する技術を開発することが本研究領域の大きな目標です。

 採択後はそれぞれの課題間でも積極的に連携し、領域全体が1つになって研究を推進していくことを希望します。


 ※ 本研究領域の募集説明会を下記日程で開催いたします。ご関心のある多くの方々の参加をお待ちしております。
 ◆日時:4月13日(金) 13:00〜15:00
 ◆場所:JST東京本部別館(K’s五番町ビル) 2階会議室A(東京都千代田区五番町7)

平成23年度採択分

研究課題
海洋生物の遠隔的種判別技術の開発
研究代表者(所属)
赤松 友成 (水産総合研究センター水産工学研究所 主幹研究員)
概要
海の生き物の種類ごとの分布や動きが天気図のようにインターネットで配信されれば、多様な生物相がひと目でわかり、海洋生物資源の持続的な利用と環境保全の双方に資する基盤技術となることが期待されます。本研究では、見たり触ったりせずに海洋生物の種類と数を測る技術を開発します。生き物が海中で発する声や、生き物から反射してくる音を使って、種を同定し個体を数えます。世界最先端の音響観測システムを駆使し、プランクトンからクジラまで海洋生態系を構成するあらゆる生物と、それをとりまく海洋開発や地震などの環境要因を遠隔的に判別できる技術を創ることが、本研究のゴールです。
研究課題
センチメートル海底地形図と海底モザイク画像を基礎として生物サンプリングをおこなう自律型海中ロボット部隊の創出
研究代表者(所属)
浦 環 (東京大学生産技術研究所 教授)
概要
本研究では、海底や海底近くに棲息する水産資源、熱水地帯やガスハイドレート地帯など深海のオアシスと呼ばれる場所の特殊な生態系を観測し、生物多様性を把握し、その変動の予測を可能にすることを目的として、100mx100m以上の広い海底面をcm以下の精度と数cmの水平分解能でマッピングする、さらにmmオーダーの分解能を持つスチル写真をそれに重ねて、三次元的な広がりを四次元的に明らかにする、熱水地帯のプランクトンの採取や海底の特定の生物あるいは周辺環境をなす海底土等のサンプリングを行う、などの多彩なミッションを分担して行う高機能の自律型海中ロボット(AUV)を各種開発します。そして、AUV観測部隊を編成して鳩間海丘や鹿児島湾などに展開し、熱水地帯などの特殊な環境を時間変動を含め多面的に捕らえる新たな観測手法を実現します。ここでの観測結果をフィードバックすることでAUV機能をさらに向上させて、生物および生態観測の新たな世界を構築します。
研究課題
超高速遺伝子解析時代の海洋生態系評価手法の創出
研究代表者(所属)
木暮 一啓 (東京大学大気海洋研究所 教授)
概要
近年の遺伝子解析技術の爆発的な進歩により、短時間に多量の遺伝子情報を得るとともに、バイオインフォマティクス技術を駆使してその情報解析を行うことが可能になってきました。本研究では、海洋から得た遺伝子およびその発現遺伝子を対象にした新たな解析技術を確立し、どのような環境下にどのような生物がいて何をしているのかを明らかにするとともに、そうした情報を統合した新たな生態系の診断技術の開発を目指します。
研究課題
Digital DNA chipによる生物多様性評価と環境予測法の開発
研究代表者(所属)
五條堀 孝 (情報システム研究機構・国立遺伝学研究所 生命情報・DDBJ研究センター・遺伝情報分析研究室 副所長・教授)
概要
本研究では、東北地方を襲った大地震及び津波の沿岸域における海洋生物の多様性や海洋生態系への影響を把握することを目的に、微生物叢DNAの網羅的解析法と環境モニタリング法の開発を行います。被害のあった東北沿岸と被害の無かった海域に定点を定め、これらの技術を用いて、物理環境と海洋生態系の基礎となる微生物DNA叢のモニタリングを行い、それらを比較検討することによって、微生物叢の変化や環境回復の程度等を生物多様性の観点から評価します。本研究の成果は、海洋微生物生態系のより深い理解に貢献することが期待されています。
研究課題
植物プランクトン群集の多様性に注目したナウキャスト技術開発
研究代表者(所属)
山中 康裕 (北海道大学大学院地球環境科学研究院 教授)
概要
本研究は、西部北太平洋域における海洋生態系の根幹である植物プランクトン群集を研究対象として、その多様性の現況を把握するために(1)数値モデリング、(2)人工衛星を用いた地球観測、(3)海洋での現場観測を用いて、植物プランクトン群集の多様性の形成・維持・消滅機構を解明します。そして、人工衛星から得られる物理環境や植物プランクトン群集を海洋生態系モデルに同化させることでナウキャスト(現況予測)の基盤技術を開発し、生物多様性保全や水産資源変動予測等に貢献することを目指します。
(*研究者の所属は2012年4月現在のものです)