top
戦略的創造推進事業CREST研究領域 >エネルギー高効率利用のための相界面科学 〜 Scienceアプローチ 〜 Engineering Scienceアプローチ

研究領域

戦略目標

「エネルギー利用の飛躍的な高効率化実現のための相界面現象の解明や高機能界面創成等の基盤技術の創出」

研究領域名

エネルギー高効率利用のための相界面科学

研究総括

 笠木 伸英(東京大学 名誉教授/(独)科学技術振興機構 研究開発戦略センター 上席フェロー) ※さきがけ研究領域 副研究総括
 副研究総括:橋本 和仁(東京大学 大学院工学系研究科 教授) ※さきがけ研究領域 研究総括
 ※本研究領域の運営にあたり、さきがけ「エネルギー高効率利用と相界面」研究領域と連携し、推進します。

概要

 本研究領域は、豊かな持続性社会の実現に向けて、エネルギー利用の飛躍的な高効率化を実現するため、エネルギー変換・輸送に関わる相界面現象の解明や高機能相界面の創成などの基盤的科学技術の創出を目的とします。
  具体的には、様々な相界面現象の基礎学理や制御・最適化技術を深化させることによって、エネルギー損失の大幅な減少を可能とする相界面、あるいは、高効率エネルギー利用のための新たな高機能相界面を創造することに挑戦します。そのためには、ナノ、メソ、マクロといった異なるスケールの現象を統合的に解析・設計するための技法、相界面構造を制御・最適化するための理論的手法などを開拓することなどが必要です。さらに、これらの先端的な基礎研究の成果を、実際の機器やシステムの設計に効果的に適用し、それらの飛躍的性能向上、低炭素化、低コスト化に繋げることが重要です。
 したがって、本研究領域では、エネルギーの高効率利用に向けた相界面におけるエネルギー変換・輸送機構の解明、マルチスケールの相界面現象を総合的に解析・設計するための計測、モデリング、シミュレーション技術の開発、相界面構造を制御・最適化するための数理科学的な手法などの基盤技術を創出するとともに、機器やデバイスの理論的最高性能を実現するための高機能相界面を創成することを最終目標とします。こうした目標を達成するために、既存の専門分野を越えた、あるいは異なる分野の科学的知識を融合した、総合的な取り組みを奨励します。

領域アドバイザー

江口 浩一京都大学 大学院工学研究科 教授
岡崎 健東京工業大学 大学院理工学研究科 教授
加藤 千幸東京大学 生産技術研究所 革新的シミュレーション研究センター センター長・教授
栗原 和枝東北大学 原子分子材料科学高等研究機構 多元物質科学研究所 教授
斎川 路之(財)電力中央研究所 エネルギー技術研究所 上席研究員
中戸 義禮大阪大学 産業科学研究所 特任教授
萩原 剛(株)東芝 電力・社会システム技術開発センター 機械システム開発部 部長
宮野 健次郎(独)物質・材料研究機構 フェロー
吉田 真京セラ(株) 経営推進統括部 副統括部長
渡辺 政廣山梨大学 燃料電池ナノ材料研究センター センター長・教授

研究総括の募集・選考・研究領域運営にあたっての方針(平成24年度)

 地球温暖化、資源枯渇などの地球規模の課題を克服し、豊かな持続性社会を構築するためには、エネルギー問題への貢献度を吟味した上で、目標技術におけるエネルギー利用効率を極限まで高めるとともに、新たなエネルギー関連技術を開発する必要があります。自然エネルギーの収穫を含め、あらゆるエネルギー利用過程の高効率化は、普遍的かつ根源的な研究開発目標としてさらに重要性が増しています。

 エネルギーに関連する種々の機器やシステムには、固体、液体、気体といった異なる状態や異なる物質が互いに接する境界(相界面)が必ず存在し、そこで生じる力学的、化学的、あるいは電磁気学的な現象を利用するものが多くあります。一方、現実のエネルギー機器やシステムの性能は、その理論的最高性能(限界性能)に遠く及びません。これはエネルギーの変換、輸送、貯蔵プロセスにおける不可逆損失が主原因であり、また、それらの多くは相界面での現象に起因しています。そこで、相界面での不可逆損失を大幅に削減することが、省エネルギー、すなわち、エネルギー利用効率の向上を狙うすべての技術開発において本質的に重要と考えられます。

 例えば、熱エネルギーシステムにおける乱流や沸騰などの複雑な熱流動制御や輸送機器における摩擦抵抗低減による効率の向上、燃料電池や蓄電池などの電極界面反応機構の解明と相界面材料・形態の最適化、太陽光による発電や燃料生産の素過程の解析と最適化、伝熱・物質交換・相分離技術の高度化によるヒートポンプの革新、分離膜の構造の詳細解析と孔径・相界面形態の高性能化、パワー半導体デバイスの界面制御による高効率化などの課題が存在します。

 こうした課題を解決するためには、共通する相界面現象の基礎学理を深化させ、そこで得られた知識を基に理想的な界面を設計し、実証することが望まれます。また、求める相界面を具体的に作製・制御する技術の開発も必須です。一方、相界面はマルチスケール構造の各階層に存在します。従って、ナノメートルでの現象解明や材料研究の成果を実システムに活かすためには、幅広いスケールの現象を総合的に解析・設計するための計測技術や、モデリングとシミュレーション技術のための工学や数理科学の開拓も必要です。そして、これらの成果を統合することによって、機器やシステムのエネルギー損失の削減や、新たな省エネルギー機器、創エネルギー機器などの創造が可能となる共に、関連技術の飛躍的な性能向上と低コスト化を図ることができると考えられます。さらに、相界面科学は、人類のあらゆる生産・消費活動に関わっています。本研究領域推進による成果は、最終的にはエネルギー利用に限らず、広く他分野にも転用できる共通基盤的な科学・技術として構築されることを目指しています。

 このように、本研究領域の目標を達成するには、様々な科学・技術の連携や融合が欠かせず、分野を越えた研究者の協働が必須です。つまり、基礎科学としての研究だけに留まるのではなく、あるいは個別技術の改善だけに留まるのではなく、最終的な目標技術への道程を見通した上での基盤的研究課題の設定を求めます。 公募にあたっては、材料系、化学系、機械系、電気系、システム系、さらには物理系、数理系など幅広い分野からの研究者が参画する研究チームを歓迎します。ただし、こうした連携、融合を実現するための端緒としては、主として相界面現象や材料機能の微視的詳細を基に高効率化を目指すアプローチ(Scienceアプローチ)、あるいは、具体的な実システム、構造やデバイスを基に高効率化を狙うアプローチ(Engineering Scienceアプローチ)といった二つの道筋があると考え、応募者にはどちらのアプローチを採るのかを記載していただきます(注)。もちろん、両方のアプローチを含んだ取り組みを期待しますが、その場合も応募に関してはどちらかを選んでください。いずれの場合も、広く異分野の研究者が、エネルギー高効率利用を目的に結集し、新たなブレークスルー達成に挑戦していくことを期待しています。

 なお、目標とするどのようなエネルギー関連技術の検討においても、実際の応用においては大量のエネルギーを扱い得ること、そして低コストであることが重要となります。従って、目標技術の革新性だけでなく、量的貢献も含めた観点からの課題設定が必要です。また、相界面科学は、人類のあらゆる生産・消費活動に関わっています。本研究領域推進による成果は、最終的にはエネルギー利用に限らず、広く他分野にも転用できる共通基盤的な科学・技術として構築されることを期待しています。


 (1)エネルギーはわが国が直面する主要課題のひとつであり、CRESTはその解決に結びつく課題解決型基礎研究を国として集中投資して推進する事業であることを念頭に、エネルギー高効率利用に向けた優れた基礎研究提案を選ぶ。

 (2)エネルギー高効率利用への量的貢献あるいは低コスト化による広い市場普及に繋がる、具体的な技術目標を見据えた基礎研究を期待する。すなわち、目標技術の革新性だけでなく、量的貢献も含めた観点からの課題設定を重視する。

 (3)研究課題としては、界面現象のプロセス・素過程の解明、計測技術とモデリング・シミュレーション、相界面の設計(最適化、制御)などがあり得るが、単なる現象解明や一般的な解析・計測技術の開発に留まる研究よりも、エネルギー高効率利用に貢献する明確な道筋を有する研究提案を重視する。

 (4)領域目標を達成するには、様々な科学・技術の連携や融合が欠かせない。従って、異なる学術領域の研究者が連携するチームによる挑戦的な計画を期待するが、将来的に異分野連携に発展できる可能性があるものも評価する。


 本研究公募にあたっては、材料系、化学系、機械系、電気系、システム系、さらには物理系、数理系など幅広い分野からの研究者が参画する研究チームを歓迎します。ただし、こうした連携、融合を実現するための端緒としては、主として相界面現象や材料機能の微視的詳細を基に高効率化を目指すアプローチ(Scienceアプローチ)、あるいは、具体的な実システム、構造やデバイスを基に高効率化を狙うアプローチ(Engineering Scienceアプローチ)といった二つの道筋があると考え、応募者には主としてどちらのアプローチを採るのかを記載していただきます(注)。両方のアプローチを含んだ取り組みを期待しますが、その場合も応募に関してはどちらかを選んでください。いずれの場合も、広く異分野の研究者が、エネルギー高効率利用を目的に結集し、新たなブレークスルー達成に挑戦していくことを期待しています。

 本研究領域の実施においては、以上の学際的な研究推進を実現するために、CREST研究チーム間の連携や共同研究、さきがけ研究者との連携などによる相乗効果を図るため、合同研究会、あるいは合同シンポジウムなど、ダイナミックな運営形態を採用する予定です。

相界面の研究

(注)本研究領域に応募される場合は、研究提案書の様式1の「研究課題名」の先頭に、『Scienceアプローチ』の場合は【Sアプローチ】、『Engineering Scienceアプローチ』の場合は【Eアプローチ】と、いずれかを必ず記載して下さい。(SおよびEは、半角英数大文字)

 また、e-Radにおいても、「研究開発課題名」の先頭に、いずれかを必ず記載してください。

平成23年度採択分

研究課題
実環境計測に基づく高温電極の界面領域エンジニアリング
研究代表者(所属)
川田 達也 (東北大学 大学院環境科学研究科 教授)
概要
固体酸化物形燃料電池(SOFC)はエネルギー安定供給と低炭素化とを両立させるシステムです。本格的実用化の鍵となるのが電極界面の最適化ですが、複雑な界面現象の素過程を把握することは困難でした。そこで本研究では、界面領域をナノ、ミクロ、マクロのマルチスケールで捉え、それぞれの挙動を実環境下もしくはそれに近い環境で測定する計測法を開発・整備・統合し、界面領域設計のエンジニアリングを可能にすることを目指します。
研究課題
固体酸化物形燃料電池電極の材料・構造革新のためのマルチスケール連成解析基盤
研究代表者(所属)
古山 通久 (九州大学稲盛フロンティア研究センター 教授)
概要
固体酸化物形燃料電池の高効率化のためには、電池内の反応・輸送現象に伴って生じる不可逆的な損失の低減が重要です。本研究では、時間・空間スケールの異なる複数のシミュレーション技術を連係するとともに実験計測と協働することで、電極の三相界面における現象を解明し、その微構造制御に基づく高活性化に挑戦します。化学系・機械系・材料系の多様な知識を集積することにより、材料と構造の両面から固体酸化物形燃料電池の電極の設計革新を目指します。
研究課題
固気液相界面メタフルイディクス
研究代表者(所属)
高田 保之 (九州大学大学院工学研究院 教授)
概要
気液相変化や吸脱着など固気液相界面における熱物質移動の素過程はエネルギーシステムの性能を大きく左右します。本研究では、ナノ構造がもたらす機能をマクロな流体現象へ積極的に利用することで既存性能の超越を目指す新しい学理(メタフルイディクス)を提起します。濡れ性、表面粗さ、空隙率など従来のマクロスケールの指標を超越した複合構造の最適設計によって飛躍的に高効率な熱物質移動界面を創製します。
研究課題
ナノとマクロの相界面と物質移動ナノサイクル
研究代表者(所属)
高柳 邦夫 (東京工業大学大学院理工学研究科 教授)
概要
ナノ構造とマクロ構造がコンタクトしたNano-in-Macro相界面での物質移動を研究します。エネルギーや環境に重要とされているリチウムイオン電池やナノ粒子触媒などは、互いに接合した異相間をイオンや電荷が移動しています。ナノとマクロ間には特殊な相界面が創られ、イオン・電荷・組成などの物質移動ナノサイクルを制御します。本研究では、エネルギー高効率利用に資するため、世界最高分解能をもつ0.5Å分解能収差補正電子顕微鏡法を活用して、これらの物質移動ナノサイクルを明らかにします。
研究課題
界面科学に基づく次世代エネルギーへのナノポーラス複合材料開発
研究代表者(所属)
陳 明偉 (東北大学原子分子材料科学高等研究機構 教授)
概要
本研究では、従来のキャパシタの持つ高い出力密度に匹敵し、且つ、既存のリチウム2 次電池を凌駕するエネルギー密度をもった、ナノポーラス複合金属を基軸にした次世代エネルギーデバイスを創出します。エネルギーデバイスは、ナノ構造やナノ組織の表面・界面を通じて機能が発揮されるため、高性能電子顕微鏡、その場ラマン分光法、第一原理計算、分子動力学法の視点から、界面で原子・分子レベルでの現象を明らかにし、さらなる発見や改良に結びつけます。
(*研究者の所属は2012年4月現在のものです)