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戦略的創造推進事業CREST研究領域 > 藻類・水圏微生物の機能解明と制御によるバイオエネルギー創成のための基盤技術の創出

研究領域

戦略目標

「水生・海洋藻類等による石油代替等のバイオエネルギー創成及びエネルギー生産効率向上のためのゲノム解析技術・機能改変技術等を用いた成長速度制御や代謝経路構築等の基盤技術の創出」

研究領域名

藻類・水圏微生物の機能解明と制御によるバイオエネルギー創成のための基盤技術の創出
研究領域HP

研究総括

松永 是(東京農工大学 学長)

概要

 本研究領域は、藻類・水圏微生物を利用したバイオエネルギー生産のための基盤技術創出を目的とします。藻類・水圏微生物には、高い脂質・糖類蓄積能力や多様な炭化水素の産生能力、高い増殖能力を持つものがあることに着目し、これらのポテンシャルを活かした、バイオエネルギー創成のための革新的な基盤技術の創出を目指します。
 具体的には、近年急速に発展したゲノミクス・プロテオミクス・メタボロミクス・細胞解析技術等を含む先端科学も活用し、藻類・水圏微生物の持つバイオエネルギーの生産等に有効な生理機能や代謝機構の解明を進めるとともに、それらを制御することによりエネルギー生産効率を向上させるための研究を対象とします。さらに、バイオエネルギー生産に付随する有用物質生産や水質浄化等に資する多様な技術の創出に関する研究も含みます。
 将来のバイオエネルギー創成につながる革新的技術の実現に向けて、生物系、化学系、工学系などの幅広い分野から新たな発想で挑戦する研究を対象とします。

領域アドバイザー

石倉 正治 (王子製紙株式会社研究開発本部開発研究所 上級研究員 )
井上 勲 (筑波大学大学院生命環境科学研究科 教授)
大倉 一郎 (東京工業大学 名誉教授)
大竹 久夫 (大阪大学大学院工学研究科 教授)
大森 正之 (中央大学理工学部 教授)
嵯峨 直恆 (北海道大学大学院水産科学研究院 教授)
竹山 春子 (早稲田大学理工学術院 教授)
田畑 哲之 ((財)かずさDNA研究所  副所長)
民谷 栄一 (大阪大学大学院工学研究科 教授)
横田 明穂 (奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科 教授)
横山 伸也 (鳥取環境大学環境学部 教授)

研究総括の募集・選考・研究領域運営にあたっての方針(平成24年度)

生物を用いて太陽光からエネルギーを生産することは、人類の長年の夢でした。すでにトウモロコシやサトウキビから酵母によって作られるエタノールがバイオ燃料として実用化していますが、食料との競合が問題とされています。そのため、作物の非可食部や廃材の利用の研究が広く行われてきましたが、近年、藻類・水圏微生物を利用したバイオ燃料の生産が注目されています。これらの生物はエタノールに変換可能であるばかりでなく、バイオディーゼルや炭化水素を生産することも可能です。生産の場についても、陸上に限らず、表面積の7割を占める海洋の利用は重要な選択肢です。 

本研究領域では、海産、淡水産の生物を用いてバイオエネルギー生産を行うための基盤技術の創出を目指します。バイオ燃料(例えばバイオディーゼル、軽油(アルカン、アルケン)、エタノール、メタン、水素等)の産生、もしくはこれらにつながる脂質、糖類等の産生に資する研究を対象とします。さらに、バイオ電池による電気エネルギーへの変換も含みます。また、バイオ燃料の副生成物として、シリカ、アルギン酸等の工業原料物質、アスタキサンチン、β-カロチン、DHA、EPA等の生理活性物質等が想定されます。 

藻類等によるバイオエネルギー創成の研究は、これまでも行われてきましたが、本研究領域では、近年急速に発展したオミクス分野の知見や技術を駆使して、藻類等の機能を解明し、その制御を通してポテンシャルを大幅に向上させることにより、革新的な技術の創出を目指します。研究内容としては、例えば、ゲノム情報に基づくプロテオームやメタボローム解析結果を基にしたメタボリックエンジニアリング、メタゲノム解析による未知有用遺伝子の探索、遺伝子組み換えによる機能改変などが挙げられます。また、これらの先端技術を組み入れた、バイオ燃料高生産株の探索・培養から燃料の分離・抽出方法の開発に至るまでの一連の研究も含まれます。なお、将来的な実用化を念頭において、コスト計算、CO2収支、LCAや海洋利用を見据えた藻類の生態学等を考慮することも重要です。 

藻類等によるバイオエネルギー創成のための研究には、マリンバイオテクノロジー、藻類学、微生物学、情報生物学、海洋生物学、生化学、遺伝子工学、植物生理学、化学、化学工学等、多岐にわたる分野の研究者による有機的協力が不可欠です。本研究領域の目的を達成するためには、上記諸分野の研究者の有機的な協働と共に、新進気鋭の研究者の独創的な発想を活かした挑戦的なテーマによる成果も期待されることから、実施体制としては、CRESTとさきがけの2つのタイプで行います。 

公募の最終年度となる平成24年度は、CRESTにおいては、バイオエネルギー創成のための革新的な基盤技術の創出に資する分野、および、多様な要素のうち、藻類等の成長制御や代謝機構の特徴を活かした実用化を進める上で必要となる基盤技術や、生体残渣や副生成物などの効果的な活用のための基盤技術の構築に係る分野も必要であること、また、民間を含むなど今後の実証展開を念頭に置いたチーム構成などにも配慮し、各分野の研究手法に精通したグループの協働による、画期的な基盤技術を実現する提案を期待します。また、海外においても研究が進展しつつあることを十分に踏まえた上で、より優れた成果を挙げるための方策を明確にすることを求めます。 

さきがけにおいては、将来のバイオエネルギー創成につながる革新的技術の実現に向けて、生物学的、化学的、工学的アプローチによる、基礎的段階でのボトルネックの解決に資する提案や、今後この分野に大きな進展をもたらすことが期待される要素のうち、特に光の有効利用、バイオセンサー、リサイクルプロセスなど、革新的バイオリアクターやその確立に繋がる提案、また、バイオエネルギー生産の工学的プロセスにおける工程設計や処理技術など実用化に繋げるための提案、さらには、ブレークスルーが生まれれば藻類等にとどまらず、その他関連研究にも波及効果が期待できるような挑戦的な提案、また同時に本領域の主旨に賛同して新たにバイオエネルギー創成研究に参入を志す提案、これまでのバイオエネルギー創成研究に新しい視点を加えるような観点からの提案等について広く募集します。 

領域運営にあたっては、CRESTとさきがけの相乗効果を高めるために、両者を一体的、統合的に推進する体制で行います。研究の進捗に応じて、相互の研究成果の情報交換を密にし、CRESTとさきがけの異なる推進体制間におけるコラボレーション(研究協力)等も積極的に推進したいと考えています。

本研究領域の成果により、効率がよく、低コストのバイオ燃料生産系を構築するための基盤技術が開発されることが期待されます。この技術を活用することにより、原油等の化石燃料の使用が削減されることが期待されます。また、物質代謝系技術の確立は、プラスチック原料を含む化成品等の製造技術などへとつながることから、化学産業の石油依存度を変える可能性があります。さらに、このような研究を通じて、医薬品、機能性食材等の原料となり得る新規有用物質の創成が可能となります。これらの技術は、大規模実用化実験をへて、領域終了後5年から10年をめどに達成されることが期待されます。 

平成23年度採択分

研究課題
藻類完全利用のための生物工学技術の集約
研究代表者(所属)
植田 充美 (京都大学大学院農学研究科 教授)
概要
豊富な大型藻類を原料とした「ものづくり」に向け、メタゲノムやセルロース利用微生物のゲノム情報から大型藻類の細胞壁多糖類などの化合物を分解する各種酵素等を探索し、それらの機能を細胞表層工学の手法により酵母等に集積し、高機能エキスパート細胞触媒を創製します。この技術を中心として、大型藻類からバイオ燃料だけでなく、燃料電池発電や有用化合物生産をも含む「大型藻類バイオリファイナリー」の実現のための生物工学技術を集約した基盤技術の創製を目指します。
研究課題
植物栄養細胞をモデルとした藻類脂質生産系の戦略的構築
研究代表者(所属)
太田 啓之 (東京工業大学バイオ研究基盤支援総合センター 教授)
概要
多くの藻類は、植物のような貯蔵器官を持たず、光合成を行う細胞で貯蔵脂質の合成・蓄積を行います。そのため栄養飢餓などの限られた条件で脂質の高生産が起こります。研究代表者らは最近、植物でも葉のような栄養細胞では、種子と異なり、必須元素であるリンの飢餓時に顕著な脂質蓄積が起こることを見出しました。本研究では、このような植物葉と藻類の脂質蓄積の共通性を基に、藻類脂質の高生産系を戦略的に構築することを目的とします。そのため、有用藻類のゲノムや栄養飢餓応答遺伝子の情報などを網羅した基盤情報の集積とデータベース化を行い、それらを駆使してDHAなど種々の有用脂肪酸類の高生産系を創製し、バイオ燃料や有用物質を藻類で高効率で生産するための基盤技術の創出を目指します。
研究課題
ラン藻の硝酸同化系変異株を利用した遊離脂肪酸の高効率生産系の構築
研究代表者(所属)
小俣 達男 (名古屋大学大学院生命農学研究科 教授)
概要
本研究では、ラン藻による脂肪酸の大量生産系の構築を目指します。特色の第一は、細胞の増殖を抑制した状態でCO2から脂肪酸を合成させて細胞外に放出させることにより、肥料コストを大幅削減する点、第二は光エネルギーを最大限に脂肪酸の生産に活用させることで安定な大量生産を可能にする点です。これにより、単位肥料量あたりの生産量を従来の10 倍相当とし、細胞乾燥重量の4 倍以上の脂肪酸生産を実現します。
研究課題
ハイパーシアノバクテリアの光合成を利用した含窒素化合物生産技術の開発
研究代表者(所属)
久堀 徹 (東京工業大学資源化学研究所 教授)
概要
窒素固定型シアノバクテリアは、大気中の窒素を直接同化し、細胞内でアミノ酸などの含窒素化合物を生合成します。この過程では、窒素からアンモニアを生成し、これをアミノ酸などの合成に用いています。本研究では、遺伝子組み換えにより高効率でエネルギー同化する窒素固定型シアノバクテリアを開発し、その窒素代謝系を改変した変異株を作成して、高収率に含窒素化合物を生産する技術開発を行います。さらに、このシアノバクテリアを安定に大規模培養する技術を構築し、光合成による含窒素化合物の工業生産を実現するための基盤技術の開発を行います。
研究課題
高バイオマス生産に向けた高温・酸性耐性藻類の創出
研究代表者(所属)
宮城島 進也 (情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所新分野創造センター 特任准教授)
概要
紅藻は藻類の大分類群の一つであり、海洋バイオマスの基盤をなしています。研究代表者らは極限環境(高温・酸性等)に棲む紅藻“シゾン”の100%ゲノム解読に成功し、更に遺伝子破壊・操作系を確立して、独自のモデル藻類解析系を構築しました。本研究ではこれら藻類と技術を用い、バイオマス生産に必須なCO2同化や糖質・油脂合成の仕組みを明らかにして、有用な遺伝子の同定・導入を行い環境変動下でも高い生産性を持つ藻類の作出を目指します。

平成22年度採択分

研究課題
海洋性アーキアの代謝特性の強化と融合によるエネルギー生産
研究代表者(所属)
跡見 晴幸 (京都大学大学院工学研究科 教授)
概要
本研究では真核生物や細菌とは異なる第3の生物界アーキア(古細菌)を構成する微生物に着目します。まず、アーキアが水素・メタン・イソプレノイドなどのバイオ燃料関連化合物を合成する機構およびキチン・キシランなどの余剰バイオマスを分解する機構の解明と強化を目指します。さらに、個々に強化したバイオ燃料合成やバイオマス分解に関わる機能および新たに同定した機能を、ゲノム同士の大規模組換えなどにより融合し、新しいバイオエネルギー生産能力を示す微生物の創製を目指します。
研究課題
微細緑藻Botryococcus brauniiの炭化水素生産・分泌機構の解明と制御
研究代表者(所属)
岡田 茂 (東京大学大学院農学生命科学研究科 准教授)
概要
微細緑藻Botryococcus braunii(ボトリオコッカス ブラウニー)は光エネルギーと二酸化炭素を利用して、他の生物に例を見ないほど大量の液状炭化水素を生産し、細胞外へ放出します。この炭化水素は代替石油としての利用が期待できます。この生物が「なぜ」、「どのように」炭化水素を生産し、細胞外へ放出するのかを、細胞および分子レベルで明らかにし、さらにそのメカニズムをより効率の良いものに改変することにより、微細藻類によるバイオ燃料生産技術の確立を目指します。
研究課題
微細藻類の倍数化と重イオンビーム照射によるバイオ燃料増産株作出に関する新技術開発
研究代表者(所属)
河野 重行 (東京大学新領域創成科学研究科 教授)
概要
微細藻類を用いたバイオ燃料生産を実用化するためには、自然の微細藻類をそのまま使うのではなく、穀類や園芸作物と同じように大量生産が可能な株を育種する必要があります。これまで、微細藻類には育種という発想はなく、ゲノムもほとんど解読されていませんでした。本研究では、園芸作物の品種改良で実績のある重イオンビームを微細藻類に照射して、形態に関する定量的データをもとにそれを選抜育種する、微細藻類に特化した革新的で先端的な、全ゲノム情報を基盤とした育種法の確立を目指します。
研究課題
海洋ハプト藻類のアルケノン合成経路の解明と基盤技術の開発
研究代表者(所属)
白岩 善博 (筑波大学 大学院生命環境科学研究科 教授)
概要
ハプト藻類に属する円石藻は石灰岩や原油・天然ガスの起源生物の1つと考えられており、現在の海洋でも膨大な二酸化炭素を固定する働きをもつ、光合成を行う植物プランクトンです。本研究では、円石藻によるアルケノンという脂質の合成能を強化するため、遺伝子や代謝経路の解析・改変技術を駆使してその合成経路を解明し、多種類の中間代謝産物の生産を可能とする技術の開発を行います。そして、海水や海洋を利用するバイオ燃料や原油の代替となる工業原料の生産を強化するための基盤技術の確立を目指します。
研究課題
シアノファクトリの開発
研究代表者(所属)
早出 広司 (東京農工大学 大学院工学研究院 教授)
概要
本研究は海洋シアノバクテリアが持つ優れたバイオ燃料関連化合物生産能力に注目し、その生合成を合成生物学的アプローチにより設計・制御し、さらに、藻体からの当該化合物の回収プロセスまで一貫して設計した「シアノファクトリ」を開発することを目的とします。シアノファクトリは1)増殖・生産・凝集・溶解が光刺激によって制御できる海洋合成シアノバクテリアホスト、2)バイオ燃料関連化合物を生産するための遺伝子群、3)海洋合成シアノバクテリアホスト藻体からバイオ燃料関連化合物を回収するためのイオン液体を用いて抽出するプロセスから構成されます。
(*研究者の所属は2011年4月現在のものです)