top
戦略的創造推進事業CREST研究領域 > 数学

研究領域

戦略目標

研究領域名

数学と諸分野の協働によるブレークスルーの探索
研究領域HP

研究総括

西浦 廉政(北海道大学電子科学研究所 教授)

概要

 本研究領域は、数学研究者が社会的ニーズの高い課題の解決を目指して、諸分野の研究者と協働し、ブレークスルーの探索を行う研究を対象とするものです。謂わば21世紀におけるデカルト流の数学的真理とベーコン流の経験則の蓄積との統合を目指すものです。
 諸分野の例として、材料・生命・環境・情報通信・金融などが想定されますが、社会的ニーズに対応した新しい研究課題の創出と解決を目指すものであればこの限りではありません。
 諸分野の研究対象である自然現象や社会現象に対し、数学的手法を応用するだけではなく、それらの数学的研究を通じて新しい数学的概念・方法論の提案を行うなど、数学と実験科学の融合を促進する双方向的研究を重視するものです。

平成22年度採択分

研究課題
デジタル映像数学の構築と表現技術の革新
研究代表者(所属)
安生 健一 (株式会社オー・エル・エム・デジタル研究開発部門 ビジュアルエフェクト/R&D スーパーバイザー)
概要
コンピュータグラフィックスに代表されるデジタル映像の応用は拡大の一途をたどっています。本研究は、作りやすさや効率を重視しつつ、従来よりさらに豊かな表現力を持つ映像の制作を可能にするために、デジタル映像表現を対象とする新たな数学分野形成の礎を築くことを目指します。特に、人間の動作や表情と流体の表現に焦点をあて、これらの映像表現の数学的特徴づけと、作り手の意図をより的確に反映できる数学モデルの構築を推進します。
研究課題
渦・境界相互作用が創出するパラダイムシフト
研究代表者(所属)
坂上 貴之 (北海道大学大学院理学研究院 教授)
概要
現代の効率的デザインである流線形の翼にとって剥離した「渦」は流れを乱し効率を落とす厄介者ですが、逆に羽ばたきで自らの周囲に渦を抱え飛翔する昆虫にとっては必須です。そこで本研究では、渦の生成と剥離および物体との相互作用の数学と計算科学を展開し、「渦・境界相互作用」をキーコンセプトに生命・環境等の諸分野へ機動的に進出し、協働研究を進め、流線形に代わる高効率かつ自然に調和した新デザインコンセプトの提案を目指します。
研究課題
放射線医学と数理科学の協働による高度臨床診断の実現
研究代表者(所属)
水藤 寛 (岡山大学大学院環境学研究科 教授)
概要
本研究では、数理モデルやシミュレーション技術、統計処理、逆解析などの集合体としての意志決定支援ツールの構築を通して、臨床医療の高度化に寄与していきます。一方、現実問題からの要請に応じて数学の各分野が研究深化の方向性を新たに見出すという展開は、数学自身の発展にも大きく寄与するものです。このように本研究は、臨床医療と数理科学双方の発展と、それによる社会への貢献を目標とするものです。
研究課題
計算錯覚学の構築 --- 錯視の数理モデリングとその応用
研究代表者(所属)
杉原 厚吉 (明治大学研究・知財戦略機構 教授 )
概要
人の錯視現象の数理モデリングを通して、錯視の仕組みを理解し、錯視効果を数量化し、その錯視量を制御する方法を開発します。そして、錯視量の最小化によって認識しやすい環境を作り、安全性の向上に役立てるとともに、錯視量の最大化によって新しい表現法を提供し、文化的豊かさの向上に役立てます。さらに、この活動を通して、知覚・認識の解明を支える柔軟でロバストな数理モデリング手法とそれを解析する計算理論を構築します。
研究課題
生理学と協働した数理科学による皮膚疾患機構の解明
研究代表者(所属)
長山 雅晴 (金沢大学理工研究域数物科学系 教授)
概要
皮膚表面にある角層はバリア機能と呼ばれる人体にとって非常に重要な機能を担っており、多くの皮膚疾患ではこのバリア機能の低下が見られます。生理学との協働により「実験検証に耐えうる皮膚ダイナミクスモデル」を構築することによって、生理学実験と数理科学の両面から皮膚バリア機能の仕組みを解明し、バリア機能低下を伴う皮膚疾患の発病機構の解明とその病態改善法の提案を行うことを目指します。

平成21年度採択分

研究課題
非線形系の精度保証付き数値計算法の基盤とエラーフリーな計算工学アルゴリズムの探求
研究代表者(所属)
大石 進一(早稲田大学理工学術院基幹理工学部 教授)
概要
計算機によって数学的に正しい数値計算結果を得るための精度保証付き数値計算学を計算工学の分野へ導入し、それらの諸問題を誤りなく、しかも現実的な計算時間で解けるようにすることが本研究課題の目標です。計算工学に現れる有限次元非線形系に対する精度保証付き数値計算のブレークスルーによって、人が安心して利用できる誤らない計算工学アルゴリズムを設計可能とし、理工学・産業の諸分野に絶大な波及効果をもたらします。
研究課題
ダイナミクス全構造計算法の発展による脳神経-身体リズム機構の解明と制御
研究代表者(所属)
國府 寛司(京都大学大学院理学研究科 教授 )
概要
本研究は、ヒトや動物が動的に変動する環境に適応して活動する基礎となる脳神経系と身体系のリズム制御機構を理解するために、ダイナミクス全構造計算法などの数理的方法を用いて神経系の数理モデルのアトラクタの多様性や引き込み領域を解析することで高度な機能発現のメカニズムを解明し、数理的解析と実機モデルでの実験を通して、リズム調整や歩容遷移などの歩行制御機構の研究から工学的な技術や応用につなげることを目指します。
研究課題
複雑な金融商品の数学的構造と無限次元解析
研究代表者(所属)
コハツ・ヒガ アルツーロ(立命館大学理工学研究科 教授 )
概要
複雑に設計された金融デリバティブは仕組商品と呼ばれ、近年盛んに取引されているものの、その未熟な取り扱いが最近の金融危機の一因となったと指摘されています。仕組商品の価格付け・リスク管理のための構造解析は、数学的には高次元または無限次元の問題として扱い、効率的な有限次元射影理論を構築することで、次元縮約のアプローチにより、価格付け・キャリブレーション・ヘッジ・リスク管理のための、金融実務的に実装可能なスキームを与えます。
研究課題
現代数学解析による流体工学の未解決問題への挑戦
研究代表者(所属)
柴田 良弘(早稲田大学理工学術院基幹理工学部 教授 )
概要
本研究では、現代数学解析を専門とする数学者と第一線の流体力学者との協働により、流体工学の未解決問題に対して厳密な定式化と解の挙動の解析手法を開発し、それを社会的に重要な課題に適用し精密な実験により検証することによってその有効性を実証します。本研究は過去には緊密な関係にあった数学解析と流体力学を現代のレベルで再び結びつけるもので、恒常的な人類の文化になる種を両者の協働で探求するものです。
研究課題
数理医学が拓く腫瘍形成原理解明と医療技術革新
研究代表者(所属)
鈴木 貴(大阪大学大学院基礎工学研究科 教授 )
概要
数理モデルを用いてがん病態生理発生メカニズムを解明するとともに逆問題研究と連動したがん診断技術を開発します。 計算機と数学理論を用い、 基礎医学実験に基づいたモデリング技法を確立することで、 特に初期浸潤過程において細胞内生化学反応がサブセルの変形をもたらす仕組みを明らかにします。応用として、病態生理の予測、 最適治療法選択・新薬開発ツールの提供、 新しい動作原理による自動細胞診断を実用化します。

平成20年度採択分  中間評価

研究課題
離散幾何学から提案する新物質創成と物性発現の解明
研究代表者(所属)
小谷 元子(東北大学大学院理学研究科 教授)
概要
すぐれた物性機能をもつ新物質創成は安心・安全で豊かな社会を支える基盤であり、従来の経験則を超えて物性の予測をする新理論、計算モデル、シミュレーション技術が強く求められています。本研究では、局所的な性質が大域を制御する仕組みを離散幾何学の知見で解明し、数理モデルの構築、その数理解析およびシミュレーションによる物性予測から化学工学における新物質創成までを貫く新しい指導原理の確立を目標とします。 
研究課題
生物ロコモーションに学ぶ大自由度システム制御の新展開
研究代表者(所属)
小林 亮(広島大学大学院理学研究科 教授 )
概要
現実の複雑な環境の中を、あたかも生物のごとく、柔らかくしなやかに動きまわることのできるロボットを創り出すためには、ロボットの身体に生物同様の大きな自由度を持たせ、かつそれを巧みに制御する必要があります。本研究では、アメーバ運動から歩行運動にいたるさまざまなロコモーション様式に通底する、しなやかな動きを生み出す制御のからくりを数理的に解明することにより、大自由度ロボットの自律分散的制御法の創出を目指します。 
研究課題
現代の産業社会とグレブナー基底の調和
研究代表者(所属)
日比 孝之(大阪大学大学院情報科学研究科 教授 )
概要
高度に発展した純粋数学の理論と現代の産業社会における先端科学技術との調和を探ることは、社会的な難問の解決に向けての数学の積極的な貢献をもたらします。現代数学の潮流の一つを成すグレブナー基底の探究に携わる代数学者、計算機科学者、統計学者らから構成される共同研究組織を作り、グレブナー基底の最新理論を先端科学技術に応用するとともに、現実問題の要請に答えるべく理論の一層の発展とアルゴリズムの開発をめざします。
(*研究者の所属は2011年4月現在のものです)