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研究領域

戦略目標

(PDF:132KB)

研究領域名

精神・神経疾患の分子病態理解に基づく診断・治療へ向けた新技術の創出
研究領域HP

研究総括

樋口 輝彦(独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 理事長)

概要

 本研究領域は、少子化・高齢化・ストレス社会を迎えたわが国において社会的要請の強い認知・情動などをはじめとする高次脳機能の障害による精神・神経疾患に対して、脳科学の基礎的な知見を活用し予防・診断・治療法等における新技術の創出を目指すものです。
 具体的には、高次脳機能障害を呈する精神・神経疾患の分子病態理解を基盤として、その知見に基づく客観的な診断及び根本治療に向けた研究を対象とします。例えば、生化学的もしくは分子遺伝学的観点から客観的な指標として利用可能な分子マーカーあるいは非侵襲的イメージング技術など機能マーカーを用いた診断法の開発、遺伝子変異や環境変化などを再現した疾患モデル動物の解析、根本治療を実現するための創薬に向けた標的分子の探索・同定などが研究対象となります。
 なおこれらの研究を進めていく上では、疾患を対象とした臨床研究と脳科学などの基礎研究、精神疾患研究と神経疾患研究、脳画像などの中間表現型解析研究と遺伝子解析研究など、異なる研究分野や研究手法の有機的な融合をはかる研究を重視するものです。

平成21年度採択分

研究課題
分子的理解に基づく抗アミロイドおよび抗タウ療法の開発
研究代表者(所属)
井原 康夫 (同志社大学生命医科学部 教授 )
概要
本研究は、アミロイド仮説にそってアルツハイマー病の分子的理解を進めるとともに、それに基づく治療法開発に取り組みます。Aβたんぱく質産生の抑止に関しては、基質特異的な阻害による、副作用の少ない阻害剤の開発を目指します。また、わが国で新たに発見されたAβ変異を詳細に研究することで、Aβオリゴマーに関連する病理カスケードの分析を可能とします。さらに、線虫モデルを用いてチューブリンとタウのアンバランスが神経変性を引き起こすという仮説を検証し、抗タウ療法開発の基盤とすることを目指します。
研究課題
精神の表出系としての行動異常の統合的研究
研究代表者(所属)
内匠 透 (広島大学大学院医歯薬学総合研究科 教授 )
概要
こころの問題はしばしば行動の異常として現れます。私たちが最新の染色体工学的手法を用いて開発した自閉症ヒト型モデルマウスは、従来のモデルとは一線を画すユニークな世界初のモデルです。本研究では、本モデルをはじめとする発達障害モデルやリズム障害モデルを通して病態解明を行うとともに、数理モデル解析に基づく非侵襲診断法の開発、環境要因を含めた治療法の基盤開発など、精神行動異常疾患の統合研究を目指します。
研究課題
統合失調症のシナプスーグリア系病態の評価・修復法創出
研究代表者(所属)
西川 徹 (東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 教授 )
概要
高い発症率と難治性を示す統合失調症では、グルタミン酸シナプスの機能異常の関与が推測されています。本研究は、従来のニューロン中心の視点に加え、グリアーシナプス相互作用にも注目し、グルタミン酸シナプス修飾因子のD−セリンがグリアーニューロン間で機能する分子細胞メカニズムと統合失調症における病態を解明します。さらに、その評価法と修復法を創出することにより、新たな診断・治療法への展開を目指します。
研究課題
ポリグルタミン病の包括的治療法の開発
研究代表者(所属)
貫名 信行 ((独)理化学研究所構造神経病理研究チーム チームリーダー )
概要
本質的な治療法のない遺伝性神経変性疾患のポリグルタミン病について、異常たんぱく質凝集の抑制・分解過程の制御、転写異常などの病態過程の制御の観点からの治療法の開発を目指します。天然物スクリーニングや化合物ライブラリースクリーニングを、モデル細胞、モデル動物を効率よく利用して行うとともに、効果のある化合物をもとにケミカルジェネティクスによりその標的分子を同定し、さらにこれを制御する薬物・遺伝子治療法の開発を進めます。
研究課題
プルキンエ細胞変性の分子病態に基づく診断・治療の開発
研究代表者(所属)
水澤 英洋 (東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 教授 )
概要
小脳プルキンエ細胞(PC)の障害は小脳性運動失調症(SCA)を惹起しますが、いまだその治療法は確立していません。本研究では、ほぼ純粋にPCの変性をきたす遺伝性SCAを対象として疾患モデルを開発し、オミックス・ケミカルバイオロジーの手法を駆使して、RNA分子発現の異常から個体での発症に至る病態経路を解明し、治療戦略を確立します。そして、PC障害や小脳失調全般に適用しうる治療法・診断マーカーの創出を目指します。

平成20年度採択分  中間評価

研究課題
脊髄外傷および障害脳における神経回路構築による治療法の開発〜インテリジェント・ナノ構造物と高磁場による神経機能再生〜
研究代表者(所属)
小野寺 宏 ((独)国立病院機構西多賀病院 副院長 )
概要
急速に発展する幹細胞・iPS細胞技術を用いた脳脊髄疾患の移植医療に期待が集まっていますが、現行技術では阻害因子に邪魔されて移植細胞が神経線維を伸ばせず、病気で損なわれた機能を回復できません。そこで本研究では、脊髄外傷、パーキンソン病、脳卒中などの疾患を対象として、神経接着分子や栄養因子を結合したインテリジェント・ナノ磁性体を脳脊髄の目的部位に正確に配置し、それを足場に神経回路を再構築するという新しい治療技術の開発を目指します。
研究課題
社会行動関連分子機構の解明に基づく自閉症の根本的治療法創出
研究代表者(所属)
加藤 進昌 (昭和大学医学部 教授 )
概要
自閉症の社会相互性の障害は、当事者の社会適応を妨げる最大要因といえるもので、この障害に直接有効な薬物療法は現在のところありませんが、自閉症をできるだけ早期に診断し、オキシトシンもしくは関連物質の早期投与により、社会相互性障害の根本的治療方法を確立することを目指します。そのために本研究では、末梢血および臍帯血中のオキシトシンほかの濃度や遺伝子の解析、動物実験、成人および幼児での臨床試験と脳画像解析を連携して行います。
研究課題
BDNF機能障害仮説に基づいた難治性うつ病の診断・治療法の創出
研究代表者(所属)
小島 正己 ((独)産業技術総合研究所健康工学研究部門 研究グループ長 )
概要
抗うつ薬は脳由来神経栄養因子(BDNF)機能亢進作用により治療効果を示すと考えられていますが、抗うつ薬抵抗性を示す難治性うつ病の病態は不明です。本研究では、BDNFの前駆体から成熟体へのプロセッシング障害および分泌障害がうつ病の難治化を引き起こすと想定し、その仮説に基づいたうつ病の分子病態の解明、血中バイオマーカー検索と脳画像診断法などを用いた難治性うつ病の診断・治療法の創出を目指します。
研究課題
孤発性ALSのモデル動物作成を通じた分子標的治療開発
研究代表者(所属)
祖父江 元 (名古屋大学医学系研究科 教授 )
概要
筋萎縮性側索硬化症(ALS)はその90%以上が孤発例ですが、病態の大部分は解明されておらず、根本治療は見出されていません。本研究では、これまでに孤発性ALS患者の病変組織で見出されてきた分子イベントを再現する動物モデルを開発し、運動ニューロン変性をもたらす分子病態およびそれを担う標的分子を明らかにします。そして、これらの病態関連分子を標的とする病態抑止治療法を開発して、その臨床応用を目指します。

平成19年度採択分 年報 中間評価

研究課題
恐怖記憶制御の分子機構の理解に基づいたPTSDの根本的予防法・治療法の創出
研究代表者(所属)
井ノ口 馨 (富山大学大学院医学薬学研究部 教授)
概要
本研究は、トラウマ記憶そのものを減弱・消去させることにより、外傷後ストレス障害(PTSD)の根本的な予防・治療法の開発のための基盤構築をはかるものです。動物モデルを用いて恐怖記憶の制御の分子機構を明らかにし、その知見から得られる動物モデル・トラウマ体験者・PTSD患者まで一貫した理論的根拠を基にしたPTSDの新規かつ根本的な予防法と治療法の創出を目指します。
研究課題
アルツハイマー病根本治療薬創出のための統合的研究
研究代表者(所属)
岩坪 威 (東京大学 大学院医学系研究科 教授)
概要
本研究は、アルツハイマー病(AD)の分子病態を、病因タンパク質βアミロイド(Aβ)の産生、凝集、クリアランスの分子機構に着目して解明し、各段階を改善する新機軸の治療方策を創出するものです。Aβ産生についてはγセクレターゼ、Aβの毒性機構についてはシナプスや樹状突起などの障害を標的として、Aβ排出促進療法にも着目します。さらにADの初期病態を反映するバイオマーカーについて、実験動物とAD患者を対比・検証し、新規治療法の実現につなげます。
研究課題
神経発達関連因子を標的とした統合失調症の分子病態解明
研究代表者(所属)
貝淵 弘三 (名古屋大学 大学院医学系研究科 教授)
概要
統合失調症の発症には、遺伝因子と環境因子が関与すると考えられています。発症脆弱性遺伝子が複数報告されていますが、発症機構は今なお不明です。本研究では統合失調症の分子病態を理解するため、発症脆弱性因子に結合する分子を同定し、その生理機能や遺伝学的な関与を明らかにします。さらに、発症脆弱性遺伝子の変異マウスを作成し、病態生理学的、行動学的な解析を行い、新たな予防法・治療法へと繋げることを目標とします。
研究課題
パーキンソン病遺伝子ネットワーク解明と新規治療戦略
研究代表者(所属)
高橋 良輔 (京都大学 大学院医学研究科 教授)
概要
ドーパミン神経の選択的変性を特徴とするパーキンソン病(PD)は、わが国で10万人以上の患者数を数える重篤な神経変性疾患であり、治療に向けた病因解明は急務です。本研究は、単一および多重遺伝子変異をもつPDモデル系(細胞株・メダカ・マウス)を樹立し、小胞体、ミトコンドリア、タンパク質分解系の複合病態を解明するもので、モデル系を治療の標的分子や神経保護性低分子化合物の探索に利用して、新規治療法の開発を目指します。
研究課題
マウスを活用した精神疾患の中間表現型の解明
研究代表者(所属)
宮川 剛 (藤田保健衛生大学 総合医科学研究所 教授)
概要
私たちはこれまでに「マウスの精神疾患」と呼んでも過言ではないほどの顕著な行動異常を示す系統のマウスを複数同定することに成功してきました。本研究では、このような精神疾患モデルマウスの脳について、各種先端技術を活用した網羅的・多角的な解析を行い、生理学的、生化学的、形態学的特徴の抽出を進めます。さらに、これらのデータをヒトの解析に応用することによって、精神疾患における本質的な脳内中間表現型の解明を目指します。
(*研究者の所属は2011年4月現在のものです(但し、終了課題に関しては、その終了時点))