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戦略的創造推進事業CREST研究領域 > iPS細胞

研究領域

戦略目標

(PDF:108KB)

研究領域名

人工多能性幹細胞(iPS細胞)作製・制御等の医療基盤技術
→ 研究領域HP

研究総括

須田 年生(慶應義塾大学医学部 教授)
(研究総括補佐:山中 伸弥(京都大学 iPS細胞研究センター センター長/京都大学 再生医科学研究所 教授))

概要

 本研究領域は、近年著しい進歩の見られる、iPS細胞を基軸とした細胞リプログラミング技術の開発に基づき、当該技術の高度化・簡便化を始めとして、モデル細胞の構築による疾患発症機構の解明、新規治療戦略、疾患の早期発見などの革新的医療に資する基盤技術の構築を目指す研究を対象とするものです。
 具体的には、ゲノミクス・染色体構造・エピジェネティクス解析を通じたリプログラムおよび細胞分化機構の研究、遺伝子導入の制御などの研究、リプログラムを誘導する化合物のハイスループットスクリーニングを行う研究、先天性疾患の患者細胞から作製された多能性幹細胞を用い疾患発症機構の解明を目指す研究などが含まれます。
 さらには、こうした幹細胞研究と病態研究等の統合による、これまでにない新規治療法や予防医療の開発に繋がる研究も対象とします。

平成22年度採択分

研究課題
直接リプログラミングによる心筋細胞誘導の確立と臨床への応用
研究代表者(所属)
家田 真樹(慶應義塾大学医学部 講師)
概要
心臓病は死亡原因の上位を占め再生医療など新しい治療法の開発が望まれています。心筋細胞は再生能力がなく、心臓再生医療では幹細胞が期待されていますが、分化誘導効率、腫瘍形成、細胞生着などの点に問題があります。もし、心臓内の線維芽細胞を直接心筋細胞に転換できれば、これらの問題を解決し得ます。本研究チームはマウスの予備実験で3遺伝子導入により心線維芽細胞から心筋細胞への直接分化転換を確認しており、本研究ではさらに検討を進め、最終的には臨床応用を目指します。
研究課題
iPS細胞を用いた造血器腫瘍の病態解明と治療法の探索
研究代表者(所属)
黒川 峰夫(東京大学大学院医学系研究科 教授)
概要
本研究では、従来十分な数を得ることが難しかった患者由来の白血病細胞をiPS細胞化し、必要に応じて増幅・利用可能で、がん研究に広く活用できる生きた疾患細胞バンクの実現を目指します。これらの白血病iPS細胞を血液細胞へ分化誘導し、今まで困難であったゲノム・エピゲノム・プロテオーム解析や薬剤感受性試験などを行い、新たな治療標的分子を同定します。これをもとに分子標的薬の探索を行い、革新的治療法の開発を目指します。
研究課題
ヒトiPS細胞の高品質化とその検証・応用
研究代表者(所属)
花園 豊(自治医科大学分子病態治療研究センター 教授)
概要
ヒトとマウスのiPS細胞では、その状態が大きく異なることがわかってきました。マウスiPS細胞の方がヒトiPS細胞より初期状態に近いのです。マウス以外の動物(サル・ブタ等)のiPS細胞もヒトのものに近い状態とされます。そこで、ヒトやサルやブタのiPS細胞を初期状態にもちこみ、高品質化を図るのが本研究の目的です。高品質化すれば何が可能となるのか、応用例(分散培養や相同組換えや動物発生工学等)も示す予定です。
研究課題
肝分化指向性iPS細胞からの高機能性肝組織の構築
研究代表者(所属)
宮島 篤(東京大学分子細胞生物学研究所 教授)
概要
成体肝臓の機能を備えた肝細胞は再生医療、創薬研究、肝疾患メカニズム解明などへの広範な用途が期待されます。本研究では、肝実質細胞と肝非実質細胞とを適切に三次元的に配置した高機能肝組織構築法の開発を行います。さらに、内胚葉組織から肝細胞への分化指向性が高いヒトiPS細胞を樹立して肝細胞へ分化誘導し、肝非実質細胞とともにこの三次元肝組織構築系に適用することで、iPS細胞由来の高機能肝組織の構築を目指します。
研究課題
iPS細胞による肝臓ヒト化モデルの構築と治療実験
研究代表者(所属)
山村 研一(熊本大学生命資源研究・支援センター 教授)
概要
ヒトiPS細胞から誘導したヒト肝細胞の有用性と安全性をin vivoで検証するため、1)ヒト肝細胞移植に最適な「ヒト化最適マウス」の樹立、2)ヒト肝細胞移植による「肝臓ヒト化マウス」の樹立、3)ヒト遺伝性疾患の患者より樹立したiPS細胞からのヒト変異肝細胞の誘導とその移植による「変異肝臓ヒト化マウス」の樹立、4)病態解析による検証と治療法開発のための「病態モデル」の開発を行います。
研究課題
核エピゲノムとミトコンドリアゲノムの化学的制御とその応用
研究代表者(所属)
吉田 稔(理化学研究所基幹研究所 チームリーダー)
概要
細胞の初期化と分化のプロセスにおいてヒストン修飾を中心とする核ゲノムのエピジェネティクスが重要です。また、ミトコンドリアゲノムでは高頻度で変異が蓄積し、それらは老化や疾患に関わっています。iPS細胞を用いた再生医療を目指すとき、核とミトコンドリアゲノムの双方がリプログラミングされることが理想的です。本研究チームはこれらを制御する活性化合物によって細胞の初期化や分化の効率を高める技術の開発を目指します。

平成21年度採択分

研究課題
iPS細胞を駆使した神経変性疾患病因機構の解明と個別化予防医療開発
研究代表者(所属)
井上 治久(京都大学物質-細胞統合システム拠点 iPS細胞研究センター 准教授)
概要
本研究では、アルツハイマー病、筋萎縮性側策硬化症患者iPS細胞から神経系細胞を分化誘導し、神経変性を生じる微小環境(ニッチ)を再現します。また、ニッチのミスフォールドたんぱく質モニタリングによる疾患予防法の確立、遺伝学的解析によるニッチ制御分子同定と該分子機能のモデル動物での評価を行います。この研究により、現在これらの神経変性疾患制圧のために最も重要とされる『早期診断・早期治療』をより発展させた個別化医療開発が可能になることが期待されます。
研究課題
iPS細胞を用いた組織幹細胞誘導の確立と分子基盤の解明
研究代表者(所属)
江良 択実(熊本大学発生医学研究所 教授)
概要
間葉系幹細胞、造血幹細胞、腎前駆細胞は、難治性疾患を根治することができる有用な幹細胞です。本研究では、iPS細胞からこれらの幹細胞を、中間段階の細胞を明らかにしながら誘導する方法を確立し、幹細胞の発生・分化の分子メカニズムを明らかにすることを目指します。本研究の成果により、幹細胞を用いた従来の研究と治療をより促進させると同時に、新しい治療方法の開発を加速させる基盤が生み出されることが期待されます。
研究課題
生殖系列におけるゲノムリプログラミング機構の統合的解明とその応用
研究代表者(所属)
斎藤 通紀(京都大学大学院医学研究科 教授)
概要
生体における秩序だったゲノムリプログラミング過程を内包する生殖系列発生機構の研究は、iPS細胞誘導機構の研究を相補し、両機構の解明は、細胞の運命決定・機能維持機構解明において高い相乗効果を生み出し、再生医療の実現に貢献すると考えられます。本研究課題では、生殖細胞の初期発生過程に随伴するゲノムリプログラミング過程の本態を高解像度で解明し、ゲノムリプログラミングを引き起こす分子機序を解明、試験管内で再構成することを目指します。
研究課題
生理的細胞リプログラミング機構の解明とその応用
研究代表者(所属)
高倉 伸幸(大阪大学微生物病研究所 教授)
概要
体細胞のリプログラミングは個体内でも生理的および内因性に生じうることが徐々に明らかになってきました。本研究では、造血幹細胞が体細胞に遺伝子/たんぱく質を供給して幹細胞化を誘導し、障害を受けた組織の再生に貢献しているとの予備的実験成果に立脚して、この分子機序を明らかにします。また、体内でこのような幹細胞化を受け入れる特殊な細胞を定義し、単離することにより、造血幹細胞による組織再生の画期的治療法の開発を目指します。
研究課題
神経堤細胞をモデルとした生体内での細胞リプログラミング法の開発
研究代表者(所属)
高橋 淑子(奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科 教授)
概要
iPS細胞の発見は、一旦分化を遂げた細胞を他の細胞タイプへと転換させる技術に道を開きました。分化転換を直接生体内で行うことが出来れば、試験管内でのiPS化やその後の移植手術など複雑な過程を回避できるものと想定されます。本研究では、生体内での分化転換法を、神経堤細胞とよばれる神経の幹細胞をモデルとして確立することを目指します。この方法は神経以外の組織にも応用可能であり、次世代型の再生医療のモデルとして期待されます。
研究課題
組織幹細胞/前駆細胞を誘導するディレクテッドリプログラミング技術の開発
研究代表者(所属)
妻木 範行(大阪大学大学院医学系研究科 独立准教授)
概要
皮膚細胞を一旦iPS細胞にフルリプログラミングした後に臓器細胞へ再分化させ、疾患臓器を再生させることが可能になりつつあります。一方、本研究では細胞リプログラミング技術を応用し、マウス皮膚細胞から直接、軟骨前駆細胞を作り出すことを目指します。この細胞は生体で均一な軟骨組織を作り、関節疾患に対する再生医療の材料を供給しうるものです。本手法では多能性の段階を経ずに目的の細胞を得るため、腫瘍化の可能性が低減し、均一な臓器組織を作りうると考えられます。
研究課題
細胞リプログラミングと分化における転写調節機構
研究代表者(所属)
西田 栄介(京都大学大学院生命科学研究科 教授)
概要
本研究は、Ⅰ.細胞リプログラミング過程における転写プログラム変換の分子機構の解明、Ⅱ.細胞分化の諸過程における遺伝子発現変換プログラムの解明、Ⅲ.転写カスケードを用いて分化細胞から別の分化細胞へ転換させる自動プログラムの樹立とその機構解明、Ⅳ.転写因子の作用機構およびエピジェネティック制御の調節機構の解明、を目標とし、iPS細胞から特定の組織、器官を作製する技術の分子的基盤を与えることを目指します。

平成20年度採択分  中間評価

研究課題
胚細胞ヒストンによるリプログラミング機構
研究代表者(所属)
石井 俊輔((独)理化学研究所 基幹研究所 主任研究員)
概要
発生過程での遺伝子発現制御には、ヒストン修飾が大きな役割を果たしています。研究代表者らは最近、卵子や精子に存在するヒストンバリアントが初期発生過程においても存在し、これらのヒストンを体細胞で発現させると、体細胞の初期化が誘導されることを見出しました。本研究では、胚細胞ヒストンによるリプログラミングの機構を解析し、体細胞の初期化の基盤技術の構築に貢献することを目指します。
研究課題
造血幹細胞のエピジェネティクスとその制御法の創出
研究代表者(所属)
岩間 厚志(千葉大学 大学院医学研究院 教授)
概要
本研究では、組織幹細胞の自己複製能・多能性を規定するエピジェネティクスの理解を通して、iPS細胞から組織幹細胞を誘導するエピジェネティクス制御法の分子基盤を確立し、iPS細胞を用いた再生医療を推進します。具体的には、造血幹細胞を規定する遺伝子発現の制御機構、特にクロマチン修飾を介した制御機構を解明し、iPS細胞のエピジェネティックプログラムを造血幹細胞型へと効率良く書き換える基盤技術の開発を行います。
研究課題
iPS細胞誘導の為の分子基盤の解明による安全性の確保
研究代表者(所属)
奥田 晶彦(埼玉医科大学 ゲノム医学研究センター 教授)
概要
iPS細胞の樹立は、再生医療、及び創薬開発にとって革命的な出来事でした。但し、その樹立において、染色体にウイルスを組み込んでいるなどの理由で、現状では、腫瘍発生の危険性をもつ細胞であるといえます。本研究では、染色体非組込み型ウイルスを用いたiPS細胞樹立の試みといった研究などから、ES細胞と同等の安全性を確保することで、iPS細胞を用いた再生医療の実現化への貢献を目指します。
研究課題
ヒト人工染色体を用いたiPS細胞の作製と遺伝子・再生医療
研究代表者(所属)
押村 光雄(鳥取大学染色体工学研究センター 教授)
概要
本研究では、1)遺伝子搭載サイズに制限がなく、自立複製するミニ染色体であるヒト人工染色体(HAC)ベクターを用いて、効率よくがん化の危険性がない安全な患者由来iPS細胞を作製し、2)そのiPS細胞に、さらに①治療用遺伝子、②分化誘導用遺伝子、③分化細胞分取用遺伝子を搭載したHACベクターを導入し、筋ジストロフィーおよび糖尿病の遺伝子治療・再生医療に役立てることを目指します。
研究課題
ヒトiPS細胞の分化能と腫瘍化傾向を反映するマーカー遺伝子群の探索
研究代表者(所属)
古関 明彦((独)理化学研究所 免疫・アレルギー科学総合研究センター グループディレクター)
概要
iPS細胞の臨床応用に向けて、それを用いた細胞療法の有効性と安全性を予め示す必要があります。本研究ではそのために、第1に、様々なヒトiPS細胞から誘導した造血・免疫細胞を用いたヒト化マウスによる疾患治療モデルの樹立を試みます。第2に、同じヒトiPS細胞の系列細胞を用いて遺伝子発現およびエピゲノム状況をグローバルに明らかにします。これらのデータを相関付けることにより、iPS細胞の有効性と安全性を反映するようなマーカー遺伝子群の抽出を目指します。
研究課題
人工癌幹細胞を用いた分化制御異常解析と癌創薬研究
研究代表者(所属)
佐谷 秀行(慶應義塾大学 医学部 教授)
概要
マウス正常体細胞に特定の遺伝子操作を行うことで、自己複製能と分化能と腫瘍形成能を有する癌幹細胞(induced cancer stem cell: iCSC)が誘導でき、分化度及び細胞外マトリクス相互作用を変えることで腫瘍形成能が抑制できました。そこで本研究では、各種iCSCを用いて分化度とニッチ機能を定量化できるアッセイ系を構築し、それを制御できる化合物、抗体などを取得することを目的とします。また、癌治療創薬の標的として用いるべく、ヒト正常体細胞からのiCSC作製を目指します。
研究課題
精子幹細胞のリプログラミング機構の解明と医学応用の可能性の検討
研究代表者(所属)
篠原 隆司(京都大学 大学院医学研究科 教授)
概要
本研究の目的は、精子幹細胞が多能性幹細胞へと変化するメカニズムを解明することにあります。具体的には1)多能性精子幹細胞とES細胞のとの生物学的な違いを評価し、2)どのようなメカニズムによりES細胞に匹敵する多能性幹細胞が生じるのかを解析、その知識を応用し、3)安定的に高い頻度でさまざまな動物から多能性精子幹細胞を樹立する方法を確立、さらにこのような細胞の医療応用が可能かという点を検定します。
研究課題
iPS細胞由来の樹状細胞とマクロファージを用いた医療技術の開発
研究代表者(所属)
千住 覚(熊本大学 大学院医学薬学研究部 准教授)
概要
本研究では、マウスおよびヒトのES細胞を用いたこれまでの研究の成果に基づき、ヒトiPS細胞から樹状細胞とマクロファージへの分化誘導技術を開発します。さらに、これらの免疫細胞の医療応用を目指した基礎研究を行います。
研究課題
分化細胞に多能性を誘導する転写因子ネットワークの構造解析
研究代表者(所属)
丹羽 仁史((独)理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター プロジェクトリーダー)
概要
なぜ僅かな数の転写因子を強制的に発現させるだけで体細胞に多能性が賦与されるのかは、大きな謎となっています。本研究は、導入された転写因子が活性化する内在性転写因子遺伝子のネットワークの構造を、多能性幹細胞における様々な機能解析手法を組み合わせることにより解き明かすことを目指します。
研究課題
人工染色体を用いた新たな細胞リプログラミング技術開発
研究代表者(所属)
米田 悦啓(大阪大学 大学院生命機能研究科 教授)
概要
本研究では、現行のレトロウイルスベクターを用いたiPS細胞樹立法の問題点を、任意に脱落可能な次世代人工染色体を開発・利用することにより克服し、さらに、細胞の未分化・分化の運命決定に重要な役割を果たす転写因子とその核輸送因子のインタープレイに関する研究を融合させることにより、細胞リプログラミング技術開発に新しい視点で挑戦することを通して、安全で高効率なiPS細胞樹立法の確立を目指します。
(*研究者の所属は2011年4月現在のものです)