「物質現象の解明と応用に資する新しい計測・分析基盤技術」

平成23年度 研究終了にあたって

研究総括 田中通義

 本研究報告書は「物質現象の解明と応用に資する新しい計測分析・基盤技術」研究領域の平成16年度採択研究チームの研究成果をまとめたものです。
 本研究領域は、科学技術の発展の原動力である新原理の探索、新現象の発見と解明に資する新たな計測・分析に関する基盤的な技術の創出を目指すものです。新規なあるいは極めて高度でインパクトの大きい計測・分析基盤技術を世界に向かって発信し、今後、世界標準になりうるような計測・分析基盤技術の開発を目指しています。本領域は具体的にはX線、電顕、NMR、MS、SPM、レーザー、電子分光、アトムプローブをはじめとする極めて広い分野の計測・分析技術をカバーしています。
 課題の採択にあたっては、次世代の産業にもつながるナノスケールの計測・分析や極微量物質の計測・分析などにかかわる基盤技術の開発研究と同時に、より将来を見据えた基礎的な開発研究を重視しました。また、これまで注目されてこなかった計測・分析技術の優れた研究者および将来の大きな発展が期待される若手研究者の発掘に努め、機器や技法の開発に関わる研究者が大学に研究室を確保できるようにすることも目標の一つとしました。このことなしには若手研究者、後継者の育成はできないからです。
 平成23年度に終了した課題は、SPM1件、テラヘルツ1件、電顕1件の計3件です。SPMでは、金属ナノ構造プローブを用いたプラズモン走査分析顕微鏡を開発し、ナノ材料を4nmの空間分解能でラマン散乱イメージングすることに成功しました。また、この装置を用いて、カーボンナノチューブ及びシリコンデバイスの歪み分布を画像化し、金属プローブによる細胞機能の3次元イメージング、非走査イメージング、深紫外イメージング等への展開を図りました。テラヘルツでは、従来検出器の1000倍程度の感度を持つ超高感度テラヘルツ検出器を開発しました。さらにそれを応用して、空間分解能60nm (波長の250分の1)のパッシブ散乱型近接場顕微鏡を構築し、物質(金属、誘電体)表面の熱励起エバネセント波の観測に成功しました。電顕では、30-60kVの低加速電子顕微鏡を開発し、加速電圧において世界最高空間分解能(波長比17)を達成しました。要素技術として、新型CsおよびCcコレクターを開発しました。さらにこれを応用し、単分子の元素分析とくにCa単原子の検出、およびカーボン単原子の電子状態の観測に世界で初めて成功しました。
 これらの成果はいずれも、世界初、世界最高分解能、世界最高感度を備えたものであり、極めて高度でインパクトのある研究であることをご理解いただけると思います。
 計測・分析技術は、新奇な材料の研究開発やモノづくり技術の発展などに重要な役割を果たす基盤技術です。本領域での計測・分析基盤技術の最先端の研究で達成された【世界最高分解能】、【世界最高感度】、【世界初】の研究成果を、今後の計測・分析機器開発の実用化をはじめ材料物性の研究、材料開発等に活用していただけることを期待します。

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