平成19年度 研究終了報告書 (平成14年度採択課題)
「情報社会を支える新しい高性能情報処理技術」研究領域
研究終了にあたって

 現行のコンピュータをベースとした情報処理技術は、20世紀の情報革命において飛躍的な進化を遂げ、社会の変革に多大な役割を果たしてきた。しかし、各種の技術的限界により、今までのペースでの性能・容量の向上は望めなくなってきている。一方で多様化、複雑化する情報処理形態に伴って、情報処理技術のさらなる高性能化に対する社会的ニーズは依然として高く、これらのニーズに応える技術の確立が喫緊の課題となっている。
 本研究領域は、高性能情報処理技術の中核をなすと考えられる全く新しい原理に基づく情報処理技術に関する研究、及び、従来のコンピュータシステムを新たな時代の要求に合わせて変革するための抜本的な要素技術を対象としている。
 平成14年度の募集に対し、大学、様々な研究機関等から、基礎から開発に近いものまで計19件の興味深い提案があった。これらの提案を7人の領域アドバイザと書類選考を行って、領域の主旨に沿った成果が期待できる提案の内、優れた研究提案12件を面接対象として選定し、面接選考では、新規性と妥当性、今後特に必要とされる分野、技術的インパクト等を重視して検討を行い、特に優れた研究提案を選定した。
 選考の結果、「ディペンダブル情報処理基盤」(研究代表者:坂井修一)、「フルーエンシ情報理論にもとづくマルチメディアコンテンツ記述形式」(研究代表者:寅市和男)、「量 子情報処理ネットワーク要素技術」(研究代表者:武藤俊一)、「検証における記述量爆発問題の構造変換による解決」(研究代表者:木下佳樹)の計4件の提案を採択した。

 「ディペンダブル情報処理基盤」では、情報処理のハードウエアからOS、応用ソフトウエアに至る技術をデペンダビリティの確保という観点から見直し、それぞれの分野に於ける重要な要素技術を提案開発したもので、理論的にも実験的にも確実な実証データを示し今後の方向性を与えた。「フルーエンシ情報理論にもとづくマルチメディアコンテンツ記述方式」では、代表者の理論であるフルーエンシ理論を体系づけ、それを音響・画像に応用するアルゴリズムを構築すると共に、実機検証をおこない、その有効性を実証した。マルチメディア処理の基本をなす信号記述方式を与えており、更なる今後の実用化が期待される。「量子情報処理ネットワーク要素技術」では、量子通信の重要なエレメントである量子中継器を実現するための要素技術として、単一光子光源、スピントランジスタ、偏光―電子スピン変換手法、などに関して実現方式を明らかにするとともに、新しい研究の流れを作った。「検証における記述量爆発問題の構造変換による解決」では、プログラムにバグの無いことを形式的に検証する方式において、基礎理論としてある数理モデルを作り上げ、ポインタ処理プログラムの検証を可能とするとともに、証明支援系を作業台として複数の自動検証ツールを用いる統合検証環境を初めて実現し、これを使った検証法を確立した。

 これ等の研究成果は、国内外の権威ある学会誌に多数の論文として、また研究発表会で多数口頭発表として発表されており、その価値が国際的にも客観的に高く評価されている。

 坂井チームの研究は、既に様々な技術がある分野ではあるが、それを新たな視点で作り直すことを提案し、デペンダビリティ技術研究の先導となるものである。寅市チームの研究は、様々なメディアの表現手法として超高精細化に耐えうる新しい手法を提案しており、 今後の要請に応える強力な手法となることが期待できる。武藤チームの研究は、量子コンピューティングに繋がる基礎研究として幾つかの重要な方式を提案、実現したもので、今後の展開が期待される。木下チームの研究は、以前から存在した形式的検証分野の研究であるが、形式的検証の大きな問題であるプログラム規模に対する検証時間の指数的増大に対し、抽象化を持ち込み、それを経験的に蓄積することで解決を図ろうというものである。理論を実用可能なツールとするための優れた着想であり、今後が期待される。

 本報告書は、これらの研究の成果をまとめたものであが、関連する分野の研究者、技術者に有意義な情報を提供し、今後、これらの研究が更に発展して、情報社会へ具体的に大きなインパクトを与えることを期待したい。
 おわりに、これらの研究採択の諸課題について、5年間にわたり、随時適切なアドバイスをいただいたアドバイザーの方々(大蒔和仁、小関健、喜連川優、小柳光正、杉江衛、三浦謙一、村岡洋一の各氏)に感謝する。これらの方々のアドバイスにより、研究上の困難を乗り越え、発散しがちな研究を方向付け、実用化に繋がるインパクトの大きな研究となったことを付しておきたい。そして、研究推進のために尽力された科学技術振興機構本部の方々、竹田克己技術参事をはじめとする実際の事務を扱った「情報社会」研究事務所の方々に対して改めて感謝の意を表したい。これらの人々の強力な支援あってこその研究成果であると考える。
「情報社会を支える新しい高性能情報処理技術」研究総括
田中 英彦
 
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