研究課題別事後評価結果

1.研究課題名
オルガネラ構築と細胞機能発現制御の分子機構
2.研究代表者名及び主たる研究参加者名(研究機関名・職名は研究参加期間終了時点)
研究代表者 藤木 幸夫 九州大学大学院理学研究院 教授
主たる研究参加者 三原 勝芳 九州大学大学院医学研究院 教授
伊藤 明夫 九州大学大学院理学研究院 教授
池原 征夫 福岡大学医学部 教授
姫野 勝 九州大学大学院薬学研究院 教授
3.研究内容及び成果
 本研究課題は、実践的には「タンパク質の細胞内局在化によるオルガネラの形成と機能発現及びその障害の分子機構」ととらえることができ、ペルオキシソーム、ミトコンドリア、小胞体、ゴルジ体、リソソームなどの細胞内オルガネラの動的存在状態とその制御機構、ならびに種々の病態をもたらす障害機構を、ペルオキシソーム系を主体として明らかにすべく、3つのグループからなる研究チームを組織し、この課題に取組んだ。研究代表者(藤木)グループは主としてペルオキシソームを、三原−伊藤グループはミトコンドリアと小胞体を、池原−姫野グループはゴルジ体とリソソームを担当した。
(1)研究代表者(藤木)グル−プ:ペルオキシソ−ムの形成とその障害の分子機構
 主としてペルオキシソ−ム欠損性CHO(Chinese Hamster Ovary)細胞変異株の分離、ついでそれらを用いたペルオキシソ−ム形成に必須な因子(Peroxin、Pexと略)遺伝子(cDNA)のクロ−ニングと機能解析、さらにはペルオキシソ−ム欠損症の病因遺伝子解明に全力を挙げた。
 その成果として、現在までに13の異なる相補性群に分類されるCHO変異細胞株の分離に先駆的に成功、うち10種は報告されている13の患者相補性群中の10種に対応することを明らかにした。すなわち、このことは哺乳動物のペルオキシソ−ム形成には計16種以上の遺伝子(産物)が関わっていることを意味している。また、これまでにCHO変異細胞株に対する遺伝学的相補活性スクリ−ニング法やEST(Expressed Sequence Tag Homology Search)法により、12種のPEX 遺伝子を同定・クロ−ニング、さらにはペルオキシソ−ム欠損症原因遺伝子の解明など一連の研究を展開してきた。これら単離したペルオキシンの細胞内局在とペルオキシソ−ムタンパク質輸送や膜形成初期過程での機能を推定した(一部実証済み)。
 本研究の推進により、13相補性群の疾患中さらに10種の病因遺伝子のクロ−ニングに成功した。これだけ多くの病因遺伝子が数年という短期間に明らかにされた例は他にはなく、特筆すべき成果である。今後は全相補性遺伝子のクロ−ニングと並行して、PEX 遺伝子の発現と細胞機能の発現・制御、さらには形態形成・脳中枢神経系の形成と障害のメカニズム解明という観点から、世界に先駆けた研究の展開へとつなげる予定である。
(2)三原−伊藤グル−プ:ミトコンドリア及び小胞体の形成機構
1)三原グループ:ミトコンドリアへの蛋白質のタ−ゲティング、膜透過及び小胞体膜形成の分子機構
 ラット肝ミトコンドリアへの前駆体蛋白質の標的化と膜透過の過程を詳細に解析し、@標的化に関わる細胞質シャペロンMSFとHsp70の関与機構の解析、A前駆体のプレ配列部分の外膜透過機構解析、B外膜輸送因子metaxin、rTOM20、rTOM22、rTOM40の同定と解析、C内膜輸送因子rTIM17、rTIM23、rTIM44の同定と内膜輸送過程の解析、DN末アンカ−型外膜蛋白質rTOM20のタ−ゲティング機構の解析、EミトコンドリアDNAにコ−ドされる蛋白質のマトリクス側から内膜への挿入機構の解析、を行った。一方小胞体関連では、1回膜貫通型蛋白質シナプトタグミン2及び14回膜貫通型蛋白質バンド3を用いて、Fトポロジ−形成に関わるシグナルアンカ−の特性の系統的解析、G膜貫通領域間の相互作用の及ぼす膜挿入への効果の解析、H親水性領域がその下流のシグナルアンカ−によって膜に挿入される機構の解析、を行った。
2)伊藤グループ:ミトコンドリア及び小胞体へのタ−ゲティングシグナルの分子認識機構
 ミトコンドリアに輸送された前駆体蛋白質は、まずそのN末端部のターゲティングシグナル(MTS)が切断除去(プロセシング)され成熟体となり、次にシャペロン等の助けにより機能蛋白質へと構築される。MTS切断に関与するプロセシングペプチダ−ゼは、共通のアミノ酸配列が存在しないミトコンドリア蛋白質前駆体を特異的に認識し作用する。この特異的な分子認識の機構を前駆体と酵素の双方の構造要素について解析し、前駆体の基質としての基本構造とそれに対応する酵素側の構造を遺伝子工学及びX線構造解析により決定し、Multiple-site recognition mechanismを提唱した。一方、C末端アンカ−タンパク質(シトクロムb5)の小胞体及びミトコンドリア外膜への輸送シグナルについて解析し、両者への輸送には競合的な機構が働いていること、同じシグナルを持っていても配分の割合は臓器や細胞の生理状態の違いにより変化することを見いだした。
(3)池原−姫野グル−プ:ゴルジ装置及びリソソ−ム・エンドソ−ム形成機構
1)池原グループ:ゴルジ装置の形成機構
 ゴルジ体の形成には小胞輸送によるタンパク質の供給が重要であることから、まず小胞接着因子p115の機能を解析した。さらに、その形態維持に関与する膜タンパク質、細胞質タンパク質を解析し、以下の知見を得た。
@ 小胞接着因子p115の機能はリン酸化によって調節されている。すなわち、N末端側で小胞膜に結合した非リン酸化型のp115は、タ−ゲット膜(ゴルジ膜)に到達すると、C末端側でレセプタ−(GM130)と結合すると同時に、C末端のSer-942がリン酸化されることによってゴルジ膜から遊離される。
A アラキドン酸代謝阻害剤Nordihydroguaiaretic acidは、ゴルジ膜からp115を速やかに遊離させることによって小胞輸送をブロックし、ゴルジ体の解体とゴルジ膜タンパク質の小胞体への再分布を起こす。
B ゴルジ体重槽構造の維持に、膜貫通型のGCP372(giantin)及び膜表在性のGCP170が関与している。GCP372がゴルジ体に局在するためにはC末端約100残基のアミノ酸配列が必須であり、一方、GCP170のゴルジ局在化シグナルはN末端側の約100残基の配列に存在する。さらに、GCP372と特異的に結合する。
2)姫野グループ:リソソ−ム・エンドソ−ムの形成機構の解明
 リソソ−ム・エンドソ−ムの形成及びその機能発現には小胞輸送が重要な役割を果たしているが、その詳細な分子機構はいまだ明らかとなっていない。リソソ−ム・エンドソ−ムの形成機構及びこれらリソソ−ム系のオルガネラが関与するさまざまな生命現象の分子機構解明を目的として、以下のような研究を行った。@in vitroでのリソソ−ムとエンドソ−ムの融合系の確立、及びその分子機構に関する研究、Aリソソ−ム酵素の選別・輸送に関する研究、Bリソソ−ム膜蛋白質の選別・輸送に関する研究、Cメラノサイトにおけるメラノソ−ム・リソソ−ムへの膜輸送に関する研究、D小胞輸送に関与するAAAス−パ−ファミリ−蛋白質(SKD1)のリソソ−ム・エンドソ−ムへの小胞輸送における役割に関する研究、Eオ−トファジ−におけるリソソ−ム膜蛋白質の機能に関する研究。
 その結果、@リソソ−ムとエンドソ−ムの融合においては、他の輸送小胞の融合に必須なNSFが必要ではないこと、Aリソソ−ム酵素の中に、M6P酸受容体に非依存的にリソソ−ムに移行するものが存在すること、Bリソソ−ム膜蛋白質のリソソ−ムへの輸送経路は少なくとも2種類存在しており、細胞質領域の異なるシグナルによりそのル−トが規定されていること、Cメラノサイトにおいて、メラノソ−ムとリソソ−ムがそれぞれ独自の機能を有した異なるコンパ−トメントであること、DAAAス−パ−ファミリ−蛋白質SKD1に結合する新規蛋白質群(SBP1〜3)が、エンドソ−ムからの膜輸送の制御に関与していること、Eオ−トファゴソ−ムとリソソ−ムの融合にリソソ−ム膜蛋白質が関与していること、などさまざまな新しい知見を得ることに成功した。
4.事後評価結果
4−1.外部発表(論文、口頭発表等)、特許、研究を通じての新たな知見の取得等の研究成果の状況
 前述の研究成果は、英文論文137件として発表された。うち1999年 Impact Factor Ranking のOriginal Journal 35位、Review Journal 30位までの雑誌に掲載された論文は以下の通り。
Cell 1報
Nature Genetics 1報
Nature 1報
Mol. Cell 1報
EMBO J. 2報
J. Cell. Biol. 2報
Gastroenterology 1報
Am. J. Hum. Genet. 4報
Proc. Natl. Acad. Sci. USA 3報
Development 1報
Mol. Cell. Biol. 4報
 また、学会発表も国内学会192件、国際学会29件行われた。
 以上、質、量共に極めて優れており、高い評価を与えることが出来る。オルガネラ、特にペルオキシソームの分子生物学的研究では世界の中心となり続けるであろう。ペルオキシソーム膜形成因子であるPex19pのクローニングし、その異常が相補性J群のZellweger症候群の病因であることを判定したこと等は、代表的成果として挙げられる。
4−2.得られた研究成果の科学技術への貢献
 藤木グループのペルオキシソーム形成因子とその欠損による疾病に関する研究は、その規模と先端性において世界のトップを行くものであり、この重要なオルガネラの形成や機能の解明に果たす科学的貢献は極めて大きいと云わねばならない。共同研究した他のグループも比較的よくやったと云えよう。
4−3.その他の特記事項
 本研究の成果が評価され、「オルガネラ形成の遺伝子システムと細胞機能制御」として、平成12年度の「基礎的研究発展推進事業」の研究課題に採択された。

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