本研究は、人間の「手と脳」の有する感覚運動統合機能と感覚系・運動系の持つ動特性の関連に注目し、センサ系とアクチュエータ系の動特性を考慮した実時間感覚運動統合理論を構築し、視触覚を有する高速ロボットシステム上でその有効性を実証することを目指す。 |
人間の手と脳における感覚運動統合を手本として、これを超える機能をもつシステムを工学的に実現することを目標に、これまでにアーム、ハンド、視覚、触覚の各部分要素を整合の取れた形で開発すると共にこれらを統御するシステムを構築した。視覚系としては1ms で動作する一万素子並列のヴィジョンチップを用い、これにあわせて機能できる高速ロボットアームシステムを用意して、それらを統合する並列階層構造の情報処理系により基本動作を高速で実現することに成功している。 |
各部分要素は必ずしもすべてが本研究課題として開発されたものではないが、液状感圧ゴムを用いた高密度面型触覚センサー、軽量アクチュエータとなる指など独自に開発した要素を含めてそれぞれが順調に構築されつつある。本研究の眼目はこうした部分の開発のみではなくて、それを結合してシステムとしての動作を実現することにあり、すでにフィードバック制御を用いて落下中のボールや高速で運動中の物体の捕球把持に成功している。
これらは、視覚と手の動作を行うシステムとして、これまでのロボット工学の性能を大幅に上回る世界最高の性能を有するもので、将来のみならず現在でも技術として直接の応用が可能である。これからの2年間でさらにまとまったシステムとして完成することが十分に期待できる。 |
高速フィードバックを用いて、視覚と腕を結ぶシステムを実際に作り上げた点は高く評価できる。これからは、完成途中の要素部分の開発と実装、これらをつなぐCDMA結合などの情報処理システムの開発に力を注ぎ、工学システムとして完成度の高いものを実現することを期待している。一方、脳のシステムに学んだとはいえ、ここから脳の解明にどのような提言ができるのか、また脳の柔軟さロバスト性などの仕組みをどう取り入れるのかについても、この先の課題として考えに入れておくことが必要と考える。 |
本戦略領域は、理論的工学的手法により脳の仕組みを解明することと、実際に脳のように働くシステムを技術として実現することを目標においている。本研究は、技術としては人の能力を超える総合的な目と手のシステムを実現して、ロボット技術に新しい局面を開くものである。日本初の革新的新技術としてすぐにでも産業に利用できるものと考える。 |
本研究は、1ms という超高速で働く視覚チップをもとに、高速で働く指、優れた感圧センサーなどを総合的に組み上げて、現実に動作する「目と手」のシステムを技術として創りあげるもので、世界の標準を抜く技術としてきわめて高く評価できる。一方、これを統合する脳に当たるシステムにはいろいろな工夫は見られるものの、基本はフィードバック技術に頼り、それ以外には、まだ未完成の部分も多い。総合的に見て、工学技術として高く評価できるが、それに満足することなくさらに野心的なものへと発展していくことを期待したい。 |