核内から核外へ輸送される蛋白質やアセチル化蛋白質の網羅的解析を目指し、分裂酵母ゲノムにコードされる約4,800の遺伝子のうち4,540をGateway法によってクローン化し、YFP融合蛋白質として発現させた。また、動物細胞のHDAC6によって脱アセチル化される蛋白質としてα- チューブリンを同定した。転写抑制因子Bach2がHDAC4, SMRTとともに核内で巨大な構造体を形成して転写抑制センターとして機能することを明らかにした。 |
吉田グループの研究テーマは、(1)蛋白質のアセチル化などの修飾とその核外移行に関するメカニズムの追求、及び(2)分裂酵母をモデル生物として核内より核外へ輸送される蛋白質の包括的、網羅的な分析である。(2)のテーマは吉田グループの当初の研究目的には含まれず、むしろ平岡グループの主要なテーマであった。中間報告での主体は、この(2)のテーマであり、分裂酵母のゲノム情報を利用し、すべての完全長ORFのクローン化を行い、それらの遺伝子産物の細胞内局在カタログ化することであった。 |
分裂酵母のゲノム情報から得られた包括的かつ網羅的な蛋白質の核外移行阻害物質により分類、カタログ化することは、吉田グループの今までの研究の論理的な展開である。それのみならず、アセチル化、メチル化、ユビキチン化などの蛋白質修飾や蛋白質間の相互作用、低分子-蛋白質間の相互作用など、多くのプロテオミクス解析にも応用が期待される。また、既に吉田グループが見出した放線菌の生産する物質レプトマイシンBが蛋白の核内移行を阻害することの知見をフルに利用し、ある種の蛋白質(CRM1)依存性核外輸送蛋白質の同定が可能になることであろう。
また、吉田グループは他の共同グループとの新アセチル化、ヒストンアセチル化酵素の新しい機能の解析も行っている。これらの研究と同時に、吉田グループ内のサブグループであるバイオプローブ設計グループは、ヒストン脱アセチル化酵素の活性を阻害する分子の設計、その合成、さらには酵素活性の高感度検出をもたらす蛍光性、合成基質の研究も進め、現在までのところ幾つかの有効な阻害剤また基質の合成に成功している。それ以外にも新規アセチル化蛋白質の探索を行う為、モノクローナル抗体を作製し新しいアセチル化蛋白質の探索や核外に輸送される蛋白質の中で酸化ストレスに応答する転写制御因子が核内で微細構造を形成することを見つけるなどの研究も行っている。 |
このように吉田グループは、既に発見したヒストン脱アセチル酵素の阻害剤を用いた研究から、より包括的な蛋白質の核外移行に関する蛋白質、さらにはアセチル化蛋白質の網羅的な解析を目指しているが、既に分裂酵母の遺伝子の大部分をクローン化し、これをYFP融合蛋白質として発現させることに成功している。この分野は、世界的に競争が激しい分野であるが、吉田グループは海外グループの研究に対して現在のところ対等の成果を挙げていると考えて良いであろう。 |
今後の戦略目標に向けての展望であるが、すべての遺伝子産物の細胞内局在を明らかにし、個々の遺伝子産物の機能の重要な情報はWeb上で公開する予定である。それらの成果を通じて我が国及び世界の機能ゲノムの研究の進展に貢献することが期待される。また、従来の研究の延長であるレプトマイシンBを用いた様々な核外輸送因子の役割の解明も目指しているが、この為に分裂酵母のORFクローンライブラリーを発現ベクターにすべて組み入れ、その多目的利用を図っている。これらの研究の側面から支持するバイオプロテオーム設計グループもアセチル化阻害剤蛍光プローブ、モノクローム抗体などを作製、提供して吉田グループの中心テーマを側面から支持していくことになろう。 |
吉田グループ内の4つの研究グループ間の連関は相補的にうまくいっていると思われる。 特に、分裂酵母のほとんどの遺伝子をクローン化し、それらの発現を解析できるシステムを作り上げたことは評価できよう。この分裂酵母の遺伝子のクローンによるライブラリー化は、当初の吉田グループのテーマとは異なるとは言え、比較的短期間にここまでの成果を挙げたことは相当高く評価された。これは、吉田代表者が東大より理化学研究所に移って完全に独立して研究を進められる環境になったことがこれらの成果を生んだ上で理由のひとつとも思われる。
一方、4つの研究グループのうち、研究代表者チームからの成果の発表が乏しいという指摘もあった。この理由は、吉田グループの研究目標の変更の為と思われるが、この分野は世界的に競争が極めて激しい分野であり、世界に伍し、或いはそれ以上の地位を占めるには相当な努力が必要とされる。また、現在の成果もその世界的な優位性についての厳しい指摘があった。これらの事情を考え現在の4つの研究グループ体制をもう少し編成し直せばよいのではないかという意見もあった。いずれにせよ、極めて競争の激しい分野であるので、さらなる発展の為には、新しい研究場所(理化学研究所)からのより強力な協力も必要であろう。 |