研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
らせん協調ハイパー高分子の創製と構造・物性・機能の相関
2.研究代表者
研究代表者 藤木 道也 日本電信電話株式会社 物性科学基礎研究所 主幹研究員
3.研究概要
 本研究では、外場刺激に応答してキラリティや円二色(CD)スペクトルが可逆的・非可逆的に変化する、インテリジェントならせん高分子・低分子材料系の構築を目的としている。これまで、ポリシラン、ポリイソシアネート、パイ共役高分子、鎖状糖鎖高分子などについて分子設計と合成、構造決定、機構解明、キラリティ制御、CDスペクトル特性制御を行ってきた。さらに、本研究を通じて、背後にある普遍的原理、新材料探索に有用な設計指針、分子特性精密理論、興味深い現象、実用上有望な材料、理論の実験的検証などで着実に成果が得られつつある。将来パラダイムシフトを伴う科学技術の発展に貢献できると期待される。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 ジアルキルポリシラン、アルキル(アルコキシフェニル)ポリシラン、ビス(アルキルフェニル)ポリシランなどのポリシラン系ポリマーが、温度、化学物質、化学組成による特異ならせん・CDスペクトル反転を行うことを見いだした。これは藤木らのユニークな成果であって、学術的に高く評価できる。また、キラル分子の構造情報(不斉炭素と水酸基の距離など)がポリシラン凝集体に転写・増幅され、CD符号・強度として読取りできること、さらにキラル低分子の光学純度をCD符号・強度から定量することができた。今後簡便な分子キラリティーセンシング法として発展が期待できる。
 ポリチオフェン系、ポリフルオレン系、ポリカルバゾール系ポリマーについても温度・化学組成によるCDスペクトル反転を見いだしている。とくに、ポリフルオレンからの左右非対称な発光は大型の円偏光の光源としての可能性を示すもので注目される。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 グループとしてオリジナル論文数65件、口頭発表137件(国内107,国外30)、特許出願15件(国内14,国外1)から見ても成果は順調に出ており、今後さらに発展する可能性は高い。ポリシラン等のらせん反転が温度などによって制御できることを示し応用への可能性も言及できるようになった。今後さらに精緻な分子設計と合成によって成果が上がるものと期待できる。研究グループとしてユニークな活動をしている各地の大学の研究者を抱えており、これらとの相乗効果も見逃せない。本研究代表者が民間企業からの参加であることからグループとしての成功も期待したい。
4−3.総合的評価
 新しい材料としてのポリシランの研究が盛んに行われるようになってすでに20年以上経過した。ポリシランが真に重要な材料としての地位を築くためにはより精緻な物性研究が必要である。本研究は学術的なものとしては第一級といえるであろう。応用への展開も一部で見えており、これまでのところ研究成果として高く評価できる。
 藤木氏はポリシランの研究と平行して自然界における左右非対称の可能性という本質的な課題にも取り組んでいる。このテーマの評価に関しては評価者間で意見が分かれたところであった。本質的かつ重要な課題であるし、一定の興味ある結論が得られていることを高く評価する一方、材料研究から背馳しているのではないかというものである。ここでは両論併記に留めたい。
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