研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
次世代物質変換プロセスの開拓
2.研究代表者
研究代表者 高橋 保 北海道大学 触媒化学研究センター 教授
3.研究概要
 本研究では「選択的炭素−炭素結合切断とその選択的再結合」という次世代有機合成に有用な新しい概念を提案し、それをもとに従来の有機化学では成し得なかった基礎的な有機合成手法を開発し、その応用への展開を行っている。特にジルコニウムなどの前周期遷移金属を用いた芳香族化合物への選択的な置換基の導入手法の開拓は、溶解性の良い多置換アセン化合物の合成を成功に導き、新しい機能性材料への応用に道を拓いた。このアセン類の研究に関しては、国内外の特許を申請すると共に、企業とのライセンス契約がなされ、商品として市販されることになった。更にこの研究は有機機能性素子の製造へ進展している。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 炭素 − 炭素結合切断とその選択的再結合という概念をジルコニウム金属上で展開し、それから導きだされる素反応の開発を行った。ジルコニウム金属上で不飽和化合物の炭素−炭素結合生成反応と切断、選択的再結合を行うことによって従来の有機化学では全くできなかった、新しい化学を展開した。3つの異なるアセチレン類の分子間の選択的なカップリング反応によるベンゼン誘導体の合成、有機ジルコニウムから有機リチウムへの通常とは逆のトランスメタル化反応等の素反応的有機合成手法の開発をおこなった。特にホモロゲーション法を開発し、多置換ナフタセン、多置換ペンタセン類を簡便に収率良く合成することに成功した。この合成法の開発の成功と前後して、米国ベル研などから、ペンタセンなどが、有機物超伝導体になること、レーザー発振すること、太陽電池としての機能があること等が相次いで発見され、報告された。このことが本研究の追い風になったことは歴然たる事実で、本研究が単に新規合成法の開拓に留まらず、合成した多置換アセン類が機能性材料として大きな可能性を秘めていることを示した。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 グループとしてオリジナル論文数44件、口頭発表141件(国内119,国外22)、特許出願55件(国内52,国外3)から見ても成果は順調に出ており、今後さらに発展する可能性は高い。特に特許出願数の多さが注目される。さらに、本研究の結果であるポリアセンの特許に関し、関東化学株式会社との間でライセンス契約が結ばれ、ポリアセンが関東化学株式会社から製品として市販されることになった。また、本研究で開発したポリアセンの合成などを目的とした有限会社ティーエヌケミックスが平成13年8月に設立され、事業団とのライセンス契約を手続き中である。
 本研究の重要な成果として、ポリアセン類の選択的な合成がある。アセン類はポリアセチレンやポリチオフェンなどと比べるとバンドギャップが非常に小さく、有機材料として優れた機能が期待されているが、その研究がほとんどなされていない。その大きな理由はペンタセンなど環が5つ以上になると有機溶媒に全く溶けないため、反応させることが困難であり、またアルキル基などの置換基を導入しようとしても一般的な合成法が開発されておらず、多置換ペンタセンが合成できないからである。アセン類の有機材料としての将来性を考えると、多置換アセン類の合成法を開発することは非常に価値のあることであると考えられる。今後、さらに物性評価などを通じて、超伝導材料などへの展開を現実のものとしてほしい。
4−3.総合的評価
 基礎的な合成法の概念確立並びに新規物質の応用展開の両面にわたって研究が進展しており、総合的に高い評価が得られた。プロジェクト発足後にポリアセン類の超伝導材料としての可能性が見いだされたのは正しく本研究にとって追い風であった。その機会をうまく捉え、応用の展開を図ったのは高い評価に値する。一面、本研究の出発点である「炭素 − 炭素結合切断とその選択的再結合」という点については提案時からさほど進歩しておらず、今後の研究の方向についてどのようにするか、楽しみの多い苦労をすることになるであろう。
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