研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
活性酸素による脳・神経細胞の障害とその防御機構
2.研究代表者
研究代表者 中別府 雄作 九州大学生体防御医学研究所 教授
3.研究概要
 脳・神経細胞の生存と機能保持には核ゲノム情報の維持が必須であり、さらに脳機能に必須なエネルギー供給にはミトコンドリアDNAの維持が重要である。本研究では、核やミトコンドリアDNAの酸化障害は神経細胞死を引き起こし、脳の老化や神経変性疾患の原因の1つとなるという仮説に基づき、その分子実態と防御機構を明らかにし、更に障害を受けた脳の機能回復を目指して、神経前駆細胞からの神経細胞供給のメカニズムを探る。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
  研究代表者は当初の計画に従い活性酸素によるゲノム損傷の分子実体とその防御機構及び活性酸素ストレス下における神経前駆細胞活性化のメカニズムの研究が進んでいる。活性酸素によるゲノム損傷の分子実体とその防御機構では8-オキソグアニン(8-oxoG)と2-ヒドロキシアデニン(2-OH-A)を始めとしてヒト細胞が複数の防御機構を核とミトコンドリアに独立に備えていることを明らかにした。神経前駆細胞活性化のメカニズムでは脳の虚血再還流障害時に発現誘導されるAP-1(Jun/Fos)複合体のサブユニットであるΔFosBが、神経軸索伸長・再生促進因子(Galectin-1)の発現と細胞運命(増殖・分化・死)を制御することを明らかにし、虚血再還流障害を受けたラット海馬歯状回において、Galectin-1の発現を伴ったDNA複製(BrdUの取り込み)の誘導を見出した。現在、これら活性酸素に対する防御遺伝子の発現異常及びそれに伴う核酸の酸化損傷と変性疾患病態との因果関係の解明に取り組んでいる。そのため、それぞれの遺伝子欠損マウスおよび変性疾患のマウスモデルを確立し、防御遺伝子の欠損およびトランスジーンによる「神経変性の促進と抑制」に注目した解析を準備している。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 fosB遺伝子の機能解析、活性酸素によるDNA損傷機構の研究は着実に進展しており、DNA中の8-oxoGの除去修復酵素、OGG1に関する研究、神経軸索・再生因子Galectin-1の同定等独創的な成果が多い。また、DNA中に存在する複数の酸化塩基の定量的検出法を確立することによって酸化傷害の定量的検出法を可能にした。一方動物モデルによる仮説の実証には多くの困難が伴っている。目的とする神経疾患の動物モデルには確立したものがないため、研究代表者は共同研究を通じて種々トライしていることは評価出来るが、ヒト疾患との相同性には疑問が残る。その中ではMPTP投与によるパーキンソン病モデルは有望であろう。また酸化傷害防御遺伝子の機能異常は神経疾患の直接原因になるとは限らないため、実験動物の遺伝子的バックグラウンドを揃える等実験の精密さが要求される。もっと焦点を絞った方が良い結果が期待できよう。
 現在のところ、活性酸素は障害するニューロン特異的と言うよりはむしろ変性を促進する増悪因子としての役割と考えられるので、神経変性疾患に関する研究ではこれらを明らかにし、治療成果に結びつけることが求められる。難しい課題であるが、臨床研究者と共同して着実に成果を挙げることを期待したい。
4−3.総合的評価
 活性酸素によるゲノム損傷の分子実体とその防御機構及び活性酸素ストレス下における神経前駆細胞活性化のメカニズムについては、ほぼ当初の計画どおり成果を挙げている。中でもMTH1、APE2については世界をリードしている。神経前駆細胞活性化についても他にないユニークな研究を行っている。遺伝子改変マウスによる研究は今後の課題であるが、神経変性疾患患者剖検脳についても成果を挙げている。このチームの独創性、研究推進能力は定評があり、基礎研究のレベルは比較的高いと評価出来るので、今後とも期待出来よう。
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