研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
ウイルス性脳障害の発症機構の解明と治療法の開発
2.研究代表者
研究代表者 長嶋 和郎 北海道大学医学部 教授
3.研究概要
 ウイルスによる脳炎・脳症は多くの場合致死的であるが、治療法は確立されていない。本研究は脳炎・脳症を発症させるウイルスの神経親和性のメカニズムを明らかにする。更に神経細胞に特異的に発現するウイルスベクターを用いて、各々のウイルスに特異的な抑制因子を用いた遺伝子治療法を開発し、脳炎・脳症の根本的な治療法の確立を目的とする。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 研究は当初の計画どおり順調に進行しているが、予想外の結果を得ることが多かった。しかし巧に研究方針を転換して成果に結びつけていることが伺われる。ヒト脳に進行性多巣性白質脳症(PML)を惹起するJCウイルス(JCV)の受容体が種々の細胞で発現しているが、合成糖鎖結合蛋白質および脂質を用いて検討した結果、シアル酸が受容体本体であること、JCVの神経特異性を規定しているのは核内因子である事が判明した。現在その候補蛋白を単離している。当初はJCVの特異的受容体を明らかにしようとしたものであるが、むしろ核内における転写因子が特異的であることが解りつつある。また意外なことにJCVのagnogeneがウイルス合成に必須であることを発見した。これらの事実に基づき現在治療法の無いPMLに対して治療法を開発している。
 JCVのウイルスベクターの開発では大腸菌でJCV外郭蛋白VP1を発現させることに成功した。その擬ウイルスは種々の細胞に侵入することも判明した。しかし、JCVの大きさが5.1kbであることから、どこまで有用であるかは不明である。
 当初の目的であるウイルス脳炎・脳症全般の治療を目指す方向からは後退した感があるが、JCVの治療に関しては成果が上がり、実用化が期待される。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 当初の予想からは外れたが、予想外のところで重要な発見をしている。JCウイルスの複製、増殖を押さえるアプローチについては着実に進展しており、臨床への応用が期待できる。特に agnoprotein の抑制によるJCVの抑制の試みはユニークであり、この点に焦点を絞ると大きな成果が期待出来よう。
 遺伝子治療としてのベクターの開発はユニークであり推進すべきものと思われるが、組み込むことの出来るDNAの大きさに限界があるので応用範囲は限られるであろう。
4−3.総合的評価
 正攻法で研究した割には、予想が外れることが多く、研究の方向付けに苦慮したと思われる。しかしたゆまぬ努力によって、予想外のところで重要な発見があった。特に agnogene がウイルス合成に必須であることを発見したことにより、臨床への方向付けが得られたことは大きな成果である。チームワークも良く、予算を有効に成果に結びつける努力も伺われた。CRESTの制度を有効に使って研究室の activity を飛躍的に高めた典型的なケースと言えるかも知れない。
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