研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
仲介因子を介した遺伝子発現制御の解明
2.研究代表者名
石井 俊輔 (理化学研究所 主任研究員)
3.研究概要
 CBPなどのコアクティベーター、N-CoRなどのコリプレッサーは転写制御因子と基本転写因子の間の仲介因子として最近見出され、仲介因子の研究は遺伝子発現制御研究に新たな分野を開きつつある。本研究では、Myb、NF-κB、ステロイド受容体など造血・免疫系において重要な役割を果たす転写因子の仲介因子について種々の角度から解析し、生体防御系における仲介因子の役割を解明し、生体防御のメカニズムを明らかにすることを目的としている。具体的には、がん遺伝子であるski/snoの産物(Ski/Sno)がコリプレッサーとして機能し、ある種の組織ではがん抑制因子としても機能することや、Ski/Snoが直接myb遺伝子産物に結合し、活性を抑制することなどを明らかにした。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 Ski/Snoがコリプレッサーとして機能することの証明やコリプレッサーによるMyb活性の制御など、確実な研究の進展がある。MybがSkiと直接結合すること、転写因子ATF-2が乳癌抑制因子として機能することを明らかにするなど、新たな展開も見られる。全体としての研究方向の焦点も絞られており、研究代表者のリーダーシップは高い。Yeast two hybrid screeningやショウジョウバエを用いた遺伝学的スクリーニングにより、新規制御因子を多数同定しているので、新たな研究の発展も期待できる。ただし、発癌だけでなく、当初の研究目的である生体防御の方にも研究を広げて欲しい。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 Ski/Snoがコリプレッサーとして機能することの証明、MybがSkiと直接結合することや、ATF-2変異マウスでの乳癌の発症等の成果が、Genes & Development、EMBO Journal、Journal of Biological Chemistry等、科学的インパクトの高い雑誌に掲載されていて高く評価できる。制御因子のノックアウトマウスの特許出願もなされている。研究代表者の分子生物学的な研究成果が光っているが、共同研究者もプロモーター領域での転写調節因子間の相互作用をX線結晶構造解析によって明らかにするなどの成果を挙げている。論文発表も遅滞なく行われて、順調に進展しており、今後に期待できる。分子生物学的な成果だけに止まらず、疾病との関連など、臨床的な面での考え方を取り入れることで、より一層の発展を期待する。
4−3.総合的評価
 コリプレッサー等の転写仲介因子を、分子生物学、マウス、ショウジョウバエ、DNA複合体の構造解析等、多様な手法によって解析し、独自で先駆的な優れた研究成果を挙げていて、高く評価できる。また、今後の発展も大いに期待できるが、分子生物学的な成果全体を総括して新しいコンセプトを生み出せるかは疑問に思われるので、今後は"生体防御"の観点からまとめて行くことが望まれる。

戻る