研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
超高圧プロセスによる天然ダイヤモンド単結晶・多結晶体の成因解明
2.研究代表者名
赤石 實 (物質・材料研究機構物質研究所 主幹研究員)
3.研究概要
 本研究の主な目的は2つあって、1つは天然ダイヤモンド結晶の成因解明であり、もう1つは切削工具用材料として耐摩耗性に優れた人工ダイヤモンド微粒の作製である。
 ダイヤモンドは高価なものとして昔から珍重されて来たが、天然におけるダイヤモンドの成因はこれまで解明されて来なかった。人工ダイヤモンド結晶の合成は触媒に遷移金属を用い高温高圧下で行なうが、天然ダイヤモンド結晶中に遷移金属は無くてC、O、Hが存在する。これらの成分から成るC-O-H流体相が果たしてダイヤモンドの合成触媒として機能するかどうかを調べ、天然ダイヤモンドの成因を明らかにする。
 機械工作の1つとして切削は工業上基本的に重要な作業である。それに使われる天然の高純度ダイヤモンド多結晶体"バラス"は切削用の優れた硬質材料であるが高価である。そこで、わが国の産業に資することを目的として、バラスに代わる高硬度微粒ダイヤモンド多結晶体の合成を試みる。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 ダイヤモンドの素材として黒鉛を用い、これにCO2やH2O等を主として分解生成する種々の固体有機酸、例えば蓚酸、マロン酸、コハク酸などを加え、圧力7.7 GPa(7.7万気圧)、温度2300 ℃までの範囲でダイヤモンド合成の実験を重ねてきた。合成と天然のダイヤモンドの比較から、天然ダイヤモンド結晶の成因について示唆を与えるような種々の結果を得ている。今後は有機物やCO2、CH4、炭酸塩をカーボン源とした場合のダイヤモンドの合成について実験を行なう。
 高硬度微粒ダイヤモンド多結晶体開発の実験を行なっている。原料としては天然のダイヤモンド粉末を用い、その焼結助剤として何を用いれば良いかを色々と探索している。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 C-O-H流体相がダイヤモンド合成触媒として機能するかどうかを調べた結果、これらの流体相がダイヤモンド合成触媒となることを世界で初めて明らかにした。また、これらの流体相の範疇にあるCO2及びH2Oもダイヤモンド合成触媒となること、酸素を全く含まないC-H系や還元炭酸塩もダイヤモンド合成の触媒になることを確認した。これらの結果により、基本的な天然ダイヤモンドの生成プロセスをほぼ解明することができた。カーボン源として黒鉛以外のものを用いた場合の実験結果が待たれる。
 新超硬質材料の開発の一環として、高硬度微粒ダイヤモンド多結晶体の合成を試み、粒径がサブミクロンの天然ダイヤモンド粉末に焼結助剤として有機酸と炭酸塩の混合物を使って7.7 GPa、1800〜2300 ℃、10〜30分間処理し、切削工具用の優れた微粒ダイヤモンド多結晶体を作製した。この多結晶体を切削工具に加工し切削テストを行なった結果、耐摩耗性に優れた新規工具材料であることが分かった。焼結助剤としてCO2 そのものを使えないかを検討している。これが可能であれば固体の焼結助剤を用いない高純度のダイヤモンド多結晶体の合成ができ、性能の良い工具材ができる可能性がある。
4−3.総合的評価
 合成、天然を問わずダイヤモンドの生成に関して世界をリードする研究を行なっており、そのレベルは非常に高い。また、切削用材料の開発に於いても微粒ダイヤモンド多結晶体を作製等を行い、最先端にある。

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