研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
途上国に適合する連鎖反応を利用した乾式脱硫プロセスの開発
2.研究代表者名
定方 正毅 (東京大学大学院工学系研究科 教授)
3.研究概要
 年々深刻化する中国はじめ途上国の酸性雨問題を解決するために、先進諸国がこれまでに開発した脱硫技術の途上国への技術移転が試みられているが、高コストと水を大量に使用する湿式プロセスが主流であるため、ほとんど普及が進んでいない。このため中国などに適合する脱硫技術として、水の消費量の少ない、有価な副生成物を生みだすことができる節水型の脱硫プロセスが求められている。
 本研究は、上記条件を満足する脱硫プロセスとして、ラジカル反応を原理とする連鎖反応を利用した乾式脱硫プロセスを提唱し、その開発を目指している。また並行して、設備コストの約1/3化、水の不使用、有価副生成物(石膏など)の生成、省エネルギー、運転の簡易化などを実現できる脱硫方法として、微小液滴内ラジカルイオン反応による液相酸化反応、ならびに新規脱硫剤(FRASH)による脱硫プロセス(TTプロセス)の研究を進める計画である。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 本研究は、SO2の酸化(SO3化)を実現する乾式脱硫プロセスとして、HO2ラジカルを原理とする連鎖反応を利用した乾式SO2気相酸化の実現を最終的に目指している。このラジカル反応については、理論検討と要素実験が進められており、明るい見通しが得られてきたものの、研究期間の後半に研究を急速に進捗させなければならない状況である。
 一方、並行して進められてきた酸化反応には、微小液滴内ラジカルイオン反応による液相酸化反応と新規脱硫剤(FRASH)による脱硫プロセス(TTプロセス)がある。
 微小液滴内ラジカルイオン反応による液相酸化反応では、実験室における確認を終了し、中国瀋陽市における現地工場のボイラー排出ガスライン中に水膜式脱硫実証プラント(処理能力:23,400 m3/時)を設置し、実証試験中である。
 新規脱硫剤(FRASH)による脱硫プロセス(TTプロセス)は、現在、清華大学(北京市)にテストプラント(処理能力:200 m3/時)を建設中であり、6月より実証試験を開始する予定である。原理は、粒径50μm程度のフライアッシュ表面に数μmのCa(OH)2微粒子を付着させ、石膏(CaSO4)として回収するものである。このプロセスでは、排ガス中のNO2がラジカル反応を加速させる役割を果たしており、脱硫率はベンチスケールでの試験ではほぼ100%を達成しているため高い脱硫率が期待できる。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 現在までに、微小液滴内ラジカルイオン反応による液相酸化反応の実証試験をおこなった結果、循環スラリー流量:240 Nm3/時において90%以上の脱硫率を得ることが出来、純度80%以上の石膏を副産物として得ることができた。副産物の石膏は、現地土壌改良剤として当初からその利用を目的としたものである。建設コスト及び運転コスト共に従来より十分低くできる見通しである。
 最終的な開発目標としている乾式脱硫プロセスについては、13年度以降において、SO2の酸化(SO3化)を実現する方法としてHO2ラジカルをキーとした連鎖反応について、理論的ならびに実験的研究を進める予定である。減圧下では成功をおさめているため、この方法の常圧下での反応実現を最終的に目指している。
4−3.総合的評価
 当初の目標である連鎖反応を利用した乾式脱硫プロセスについては、曙光は見出されたが、今後の研究の進捗に残された部分が多い。今後の研究の進捗に期待したい。燃焼ガスの中には多様な混合微量成分を含むため、実験室での反応がそのままうまく進むのかどうかが課題である。この点についてよく確認を行う必要がある。
 研究のすすめ方としては、これまでのスタイルを続けることで良いとおもわれる。ただし、石膏などの脱硫副生成物についてはいろんな方面から研究が進められている可能性があるため、よく調査を行ったほうがよい。

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