独創的シーズ展開事業 委託開発
科学技術振興機構独創的シーズ展開事業 委託開発 > 委託開発の成果「青色発光ダイオード」の経済波及効果
HOME
お知らせ
委託開発の実績
委託開発の概要
企業の方へ
大学・研究機関の方へ
お問い合わせ
JSTHOME
委託開発の成果「青色発光ダイオード」の経済波及効果について
PDF版はこちら
(調査結果の公表)

 独立行政法人 科学技術振興機構(以下、「JST」)では、昭和62年から平成2年にかけての委託開発課題「窒化ガリウム(GaN)青色発光ダイオードの製造技術」(新技術の代表発明者:赤ア勇 名城大学教授・名古屋大学特別教授(当時、名古屋大学教授)、開発実施企業:豊田合成株式会社)の経済波及効果に関する調査をいたしました。その調査結果の概要を公表します。

調査概要

■調査目的
○ 「委託開発」は、昭和36年から、国産技術の振興策として、数々の新事業、新製品を生み出す一助となってきたが、その中でも「窒化ガリウム(GaN)青色発光ダイオードの製造技術」においては、近年では、国立大学特許による実施料収入のうち約9割を占める【注釈1】という金字塔をうち立てている。
○ 青色発光ダイオードの出現により、表示装置や照明機器等、新製品が多数生み出された。

→ そこで、JSTの豊田合成株式会社(以下、「開発実施企業」)への委託開発はどれだけの我が国の経済価値創出に寄与したのかを実際に明らかにするために、本調査を実施することとした。

■調査方法
○ 調査は開発実施企業および、発光ダイオード(以下、「LED」)利用産業(携帯電話、大型フルカラーディスプレイ等)へのヒアリング調査、文献調査を中心に実施した。
○ 波及効果把握フレームや定量化手法については、本調査で設置した有識者5名によるタスクフォース(座長:慶應義塾大学総合政策学部 榊原清則教授)を3回開催し、検討を行った。

■波及効果の算出方法
① まず、開発実施企業のLEDを利用した応用製品の売上を、公開資料を基に約3兆6000億円と推計した。付加価値については、当該産業の付加価値比率(工業統計調査より推計)を掛け合わせ、さらに、既存市場の置き換え、新規市場の創出等も考慮し、算出した。
② 経済波及効果は開発実施企業のLED売上を基点として、生み出された付加価値ベースで算出した1)、2)
③ 開発実施企業の開発成果は、技術のスピルオーバー(溢出)等により、LED産業全体や青色レーザー産業へも経済波及効果をもたらしたと考えられるが、本調査においては、過大評価をしないことに重点を置き、それらについては直接の経済波及効果には含めないこととした。
④ 白色LEDは青色LEDの存在なしには実現不可能なものであるため、白色LEDの波及効果も全て青色LEDの波及効果とみなすこととした。
⑤ よって、経済波及効果としては、以下の3点を合算したものとした。
・ LED売上の付加価値分:開発実施企業におけるLEDの売上における付加価値
・ 応用製品を通じた波及効果:LEDを利用した製品(応用製品)の付加価値に占めるLED寄与分
・ 生産誘発による波及効果:LEDの生産により誘発された付加価値

1)研究開発成果の経済波及効果を算出するに当たっては、売上を基準にする方法と付加価値を基準にする方法が存在するが、タスクフォースでの検討の結果、本調査では効果のダブルカウントを避け、日本経済に実質的にどの程度(いくら)の影響を与えたのかを把握するために付加価値を基準とすることとした。
2)付加価値とは、企業の経済活動によって新たに付け加えられた価値のことで、売上高(生産額)から原材料費、税金、減価償却費を除いたものである。
※ 本調査では、基本的に公開資料を基に経済効果を算出している。例えば、開発実施企業の売上データはIR資料より取得している。

調査結果

 本調査の結果、JSTの委託開発による青色発光ダイオードの経済波及効果は以下のように推計されます。

JSTは委託開発として、1987年から1990年の間、豊田合成の「青色発光ダイオード」の開発に5.5億円を支出(返還済)した。開発は成功し、1995年から事業化された。
1997年から2005年末まで9年間における、携帯電話や大型フルカラーディスプレイ等豊田合成のLEDを利用した応用製品の総売上は約3兆6000億円に達している。経済波及効果を見た場合、直接的には、我が国の産業界において3500億円弱の付加価値が新たに生み出され、約3.2万人程度の雇用が新規に創出された。
また、国家に約46億円の実施料収入【注釈2】ももたらした。
※ なお、本調査は、1997年〜2005年までの経済波及効果を算出したものであり、技術のライフサイクルを考慮すれば、今後もさらなる経済波及効果が予想される。


1.「製品販売による波及効果」としては、LEDを利用した製品の売上に占める付加価値の内、LEDが無ければ実現できなかった部分(寄与分)を算出している。LED応用製品としては、携帯電話、屋外用大型フルカラーディスプレイ、車載器(室内灯等)を対象とした。
2.技術のスピルオーバーとは、赤ア教授や豊田合成の研究成果がLED産業全体や他産業へ与えた影響を示している。また、DVDプレイヤー等に利用される青色レーザー研究もこの共同研究に端を発している。
3.LED関連製品の利用者への効果(省エネ効果増、メンテナンスコスト低減、意匠向上等)は直接の経済効果の算出対象とはしていない。
※ LEDの最大の特徴は省エネと長寿命である。その特徴が広く社会に受け入れられ、普及したことにより上図のような波及効果が実現されている。

 
(2014年10月29日追記)
【注釈1】
 具体的には、2000年度から2003年度までの各年度の国立大学等の実施料収入の9割以上をJSTから大学へ配分した「窒化ガリウム(GaN)青色発光ダイオードの製造技術」の実施料収入が占めていた。
 
【注釈2】
 「約46億円の実施料収入」とは、豊田合成が事業化した1995年から調査時点までに、豊田合成からJSTへ支払われた実施料の累計である。この支払われた実施料は、更に一部をJSTから名古屋大学等へ配分している。なお、2013年現在の豊田合成からJSTへ支払われた実施料の累計は約56億円。

Copyright (c) Japan Science and Technology Agency.
科学技術振興機構 委託開発HOME