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プロジェクトを通じて見えてきたこと、分かったこと

河井: ありがとうございます。原田先生、今の話もちょっとそういう側面があるのかなと思うのですけれど、このプロジェクトを通じて見えてきたこと、分かったこと、なんとなく分かっていたけれどはっきり分かったね、もあるし、そうは思ってなかったんだけれど、これが分かったね、みたいなこともあるかもしれませんし。そういった、プロジェクトを通じてこういうことが分かったよということって、どういうことでしょう?
原田: そこはヘルスとファクトリの両方ともということですか。
河井: はい、両方です。
原田: ヘルスにしてもファクトリにしても私は専門ではないので、どうしても自分が今までやってきたものをベースに両方を見るのですが。
まずファクトリのほうで言うと、これはいわゆる通信の標準化とすごく似てると思ってるのです。さきほどのダイキンの話でもあったと思うのですが、それぞれのところで独自のシステムを作ってるのです。標準という考え方がない。日本の通信は昔は全部そうで、NTTがこう、KDDがこう、ソフトバンクがこうって最初は独自にやってるのですが、そのうちに海外で標準化されたものというのがだんだん攻めてきて、ついにそちらのほうのユーザーのほうが多くなってしまって、仕方なく使ってしまう。その標準品を使ってしまうという流れが出てきてしまう。通信のセンサー側でも同じで、最初、私がWi-SUNをやる前にはZigBeeというシステムがあって、結構いろんなとこで使われていたのですが、どうしてもある工場等使われる領域がすごく狭いのです。狭いので相互接続はできない。相互接続ができないので相互接続ができるようなWi-SUNが出てくるとやっぱり押し戻されてしまう。結局、最初からフレームワークを考えずに、独自に独り勝ちしようとしてるために最後はなくなってしまうのです。やはり1000万から数千万以上のユーザー数がないシステムというものは、標準化しないと必ず負けてしまう。
これは私の考え方なのです。今のファクトリの状況を最初に見たときに、独り勝ちしようとする人ばっかりで、多分これはそのうち10年ぐらいを見たときに終わるだろうなと。例えば、ドイツがずっと大きなフレームワークを作ってしまって、それでいろんな製品を出し始めて、またアメリカ等とアライアンスを組んで攻められると、多分日本は押し切られて終わるんだろうなと。だったら先にフレームワークに資するものを作ったほうがよいのではないかなと思いました。そこで本プロジェクトはセキュリティフレームワークというのを作ったほうが、絶対にあとあと日本としてよいのではないかということで、完全にシフトしたのです。世の中がいろいろ騒いでたのですが、それをあえてやらずにやっていました。今になって考えるとよい方向性であると考えます。
医療においても、今回よく分かったことというのは、やはり最初は皆さん独り勝ちしようとしているところに、永井先生の素晴らしい思想、学会を通じた標準化とか、これは標準化をすべきもの、これは標準化をしないでおくものと明確にする。特に標準化をベースに考えないといけないものということを、今回特化してきたのです。最初はまったくそういうのが私は見えてなかったのですが、このプロジェクトが進むにつれて、プロジェクト内のすべての分野において標準化をすべきもの、しなくていいものというのを明確化して、例えばこのプロジェクトは大きく標準化をするものをやらないといけない、このプロジェクトはベンチャーを育てるような一人勝ちするようなものを作ったほうがいい、というようなものをやればよいというのが分かってきたというのが、非常に大きな成果だと私は思っています。
河井: 米田さん、今フレームワークのほうにいきましょうという話になりました、というお話だったのですけれど、そこのフレームワークを考えようってことに対する抵抗というのですか、原田先生がそういう話を持ってきたときに、それでいいのかな、みたいなこととか、例えばフレームワークみたいにしてある種の標準みたいなことですよね、みたいなことを考えるところって、こういうハードルがあるから難しいなとか、いや、実は意外とやってみたらこういうふうに考えるとできるよねとか、なにか経験されて思うことはございますか。
米田: このプロジェクトと並行して、今、経産省のサイバーフィジカルセキュリティ対策フレームワークの標準化に携わっています。現在、IoTのセキュリティの標準・ガイドは主なものだけでも10以上存在し、次々と世界で新しいものが出てきてます、だから、フレームワークを作って整理をしないと、似て非なる標準・ガイドが増えてしまい読む人対応する人の負荷が非常に高くなります。フレームワークの整理にはシステム的な発想が必要です。組織のセキュリティ要件が工場のセキュリティ要件を定め、工場のセキュリティ要件がその中のシステムのセキュリティ要求を定めます。そして、そのシステムのセキュリティ要件がシステム上の機器のセキュリティ要件を定める、というように構成や関連やつながりを意識したトップダウンの考え方が必要です。そのような考え方を、このプロジェクトを通して具体的に学びましたし、実際にそういうのを国際の場で議論をすることで、こういう考え方は通用することがわかりました。いい経験になりました。
河井: 永井先生、一方でヘルスケアというか医療系のところって、あまりにも標準というところからすごく遠いというか、先ほどのお話の中でもいろんな病院によってそれぞれ使ってるものが全然違うよみたいなこととか、いっぱいあるじゃないですか。そのあたりの究極は、標準化みたいな話にもってったほうがいいと思うのですけれど、どういうふうにご覧になっていますか。
永井: 結核や肺炎が主流の時代は、数十例から数百例のデータで、治療の善し悪しは分かったのです。ところが心臓病や生活習慣病の多くは長生きした結果で生じますので、治療の評価は簡単にはできません。時間がかかります。そもそも重大な発作の起こる毎年の確率は低いから長生きするし、長生きした方に起こる病気なのです。高齢化時代の医学はこれまでと違うということなのです。低い頻度で起こる重大な事象に立ち向かうには、ビッグデータが必要になってくる。でもビッグデータを作るにはいろいろな関係者がいます。患者さんだけでなく、医療者やデータを集める人など多彩です。みんなが意識をそろえてビッグデータを作るのはなかなか難しいのです。仲間だけで研究をしていると発展性はありません。今回のImPACTが良かったのは背景のヘテロな人たちが集まって、外から意見を言ってもらったことでした。そのためにはコミュニケーション能力が必要です。仲間言葉だけではなくて、何を研究しているかを、自分自身もよく理解してから他人に伝える能力です。それがないと簡単なことが動きません。今回はそういうよい機会になったと思います。
河井: 喜連川先生、そういうのってどう動かしていったらいいかって、喜連川先生はいろんなデータを持ってきていろいろ試さなきゃいけないじゃないですか、研究のテーマからすると。そのあたりはどうするとそういうのが動くのか、経験から語れることとか、喜連川先生の思いとかはどうですか。
喜連川: いや、すごく簡単で、最近、ダブルメジャーといって医療も分かんなきゃいけないし、ITも分かんなきゃいけないとか、よくそういう議論があるのです。私はそんなことをしていただく必要はないと。医療系の先生は医療でぶっ飛んでいただければいい。IT屋はITの最新の技術をご提供します。例えば、永井先生と私どもがやってるときに、我々が保証するのは誰に頼んでいただいても結構ですと。大学じゃなくてA社だったらA社がやって結構です。そのかわり、我々が保証するのはA社よりも、B社でもいいですが、C社でもいいですけれど、どこのエキスパートに頼んでいただいても、我々よりもちょっといいソリューションは出す可能性はゼロではない。しかし我々より10倍も20倍もそういうものを出すことは絶対にないことは、我々は保証します。1番重要なことは、ITって今、非常に速いスピードで動くものですから値踏みができないのです、普通の方には。一体これは世界標準のどのへんのレベルにあるのかというのは、非専門領域の方からは分からないです。だからこれはお互いがお互いをリスペクトすればいい。永井先生のチームで出されてるのは、これは私はグローバルナンバーワンです、保証しますと。IT屋は、我々もこれはグローバルナンバーワンです、絶対に負けません、負けない者同士が会話をすれば絶対に負けなくなるわけです。それだけで、逆に言うと、私は1番じゃありませんと言った瞬間に我々は相手にしない、それだけの話です。
河井: 相手にしないのですか。
喜連川: しないという意味は、それはそんな時間が人生に残されてなくて、永井先生のこのガッコン、ガッコン、カッコンしたやつ(高齢時のQOLのグラフに現れる重篤な発作の谷)のだいぶ僕らは下のほうに、フレイル(フレイルティ:日本老年医学会が2014年から提唱、「加齢に応じて運動機能や認知機能などが低下して生活機能が傷害され、心身両面での衰弱がみられる状態」)とか言われて筋肉が落ちてるとか、なんかぼろくそに言われてますから、社会には腐るほど課題があるわけです。本学の前前前総長、小宮山先生がおっしゃったみたいに、我が国は課題先進国なわけです。我々のとこも腐るほど、そういう意味で言うと、いろんなこんなものをやってください、あんなものをやってください、というような話っていっぱいあるわけです。そのときにやっぱり全部をやることができない中で、インパクトケースを図り、社会のインパクトの効果を図り、その中で何が世界に対して日本がcompetence(力量)を持ちうるかとか、そこは大人の判断として考えざるをえないですよね。そういうのが我々の判断です。
河井: その意味だと、1番の人たちでお互いにリスペクトできる人たちで作って、それを世界に打ち出し、みんな1番じゃない人たちは、基本は知らないよというけれど、あとをついて来いぐらいな感じですかね?
喜連川: そうですね。僕が学生に言うのは、原則ナンバーワンなんか目指すなと。ナンバーワンというのは2番も3番も10番も20番も人がいっぱいいるところでなにか新しいことをやろうと。そんなものをそもそも目指さないですよ。誰もやってないオンリーワンだけを目指しましょうと。だから今回、永井先生はいろいろ図柄を、成果をご紹介になられたわけですけれど、あれは今まで誰も見てない世界をやってるわけです。そこへのパッションでIT屋は動いておりまして、おもしろいけれどやってみませんかって言ったときには、IT屋はおもしろいエキサイトメントがあるからそこにあるのであって、それ以外のものって何ひとつないです。ですからナンバーワンは原則やらない、オンリーワンだけと。
河井: ありがとうございます。ちょっとこの話は続けてもおもしろいなと思いましたけれど、止めときましょうか。永井先生、そういう意味だと、そういうナンバーワンを集めてやっていけるというのはいい絵だと思うのですけれど、もうちょっとこのへんの人たちも入ってきてほしいなみたいなプレイヤーっていますか、永井先生がやっているエリアというかテリトリーというか領域で。
永井: 我々はオンリーワンを目指してますが、普遍化も考えています。作ってみると、こういうことができるかなという意見が出てきます。ですからこのシステムを今後は成長させて、維持発展させないといけない。これは、オンリーワンを切り開くのとは違うところがあります。創生は易く守成は難し、という言葉がありますね。それと同じで、ぜひいろんな方が参加して自分なりの課題を持ってきていただくことが大事です。もう1つ、やはりビジネスモデルにしなければならない。いつまでも研究費に頼るわけにはいかない。そこをどうするか、これはまたさらに別の才能が必要だと思います。
河井: ビジネスモデルという話だと医療データ、そのヘルスケアのところでビジネスモデルってなんて言うのでしょうね。病院が稼ぐみたいなのってなにかちょっとイメージしづらいのです。じゃあ、誰がビジネスモデルを描いて、お金にしつつ、集められたお金でそれをどこに還元していくか、みたいな絵を描かなきゃいけないと思うのです。キープレイヤーみたいな人って誰がなるのですかね?もちろん永井先生はキープレイヤーの1人だと思うのです。
永井: 例えば、今回の心臓検査のレポートも、重要なビジネスモデルになるはずです。現在、MIDNETという副作用情報を集めるシステムがあります。これは国が、何十億円も掛けて作ってきました。しかし心臓検査のデータはないのです。そうすると心臓の悪い方を対象にした副作用情報を今回のシステムで調べることができます。また介入研究をしたい企業にとっては、対象となる患者さんがどのくらいの頻度で何が起こるかを把握できます。そういう形でなんとか維持発展を図っていきたいと思います。
河井: 米田さん、ファクトリのセキュリティ周りで、同じようなことが言えるところもあるのかなと思うのですけれど、例えばもっとこういうプレイヤーが入ってきてもらって、いろんな意見を出し合って、標準化なり、ビジネスモデルを描いて普及させていくなり、みたいなことって、こういう展開があるかなとか、こうなったらいいみたいなことって、なにかご意見いただけます?
米田: セキュリティに取り組んでいると、特にIoTのセキュリティに取り組んでいると、セキュリティに詳しい人が、機器にのみ詳しい人と会話をしなければならず、言葉が通じないのです。だから、セキュリティの用語で可用性だ、完全性だ、とか話していると、セキュリティの専門家ではない機器に詳しい人は、何の話をしているのか通じません。言葉をいかに相手に合わせて、相手の理解できる言葉に変換して話すかという努力をしながら、異分野の人が協力し連携するということが本当に求められてます。
河井: そういう人が誰かいるわけですよね、変換する人が?
米田: はい。そのような人が非常に求められています。人材不足の領域の1つだと思います。要するにある領域のプロで、その他複数の領域がなんとなく分かる。そういう人が必要です。そのような人やっぱり足りないと思います。
河井: 原田先生、お立場上、そういうようなお立場だったのかなと思うのですけれど、どうですか。そういう人を育成するとこも含めて。
原田: 通訳する人ってすごく重要だと思っていて。私は先ほどお話ししたように、研究としてはまったく違う分野の人間なので、主に2つやらないといけないと思っていました。1つは、ちゃんと勉強をすることです。3年間、医療のプロジェクトがずっとあったのですけれど、多分ミーティングは1回も休んでないと思うのです。門前の小僧、習わぬ経を覚える、じゃないですけれど、なんとなく医療のミーティングで交わされる言葉を3年間もずっと聞いていると、例えば京大に帰って医療の講演を聞いても、やっぱり分かるようになってくるのです。
特に問題点を先生が繰り返し言ってるので、それを何回か聞くと、別の場所で「それが問題点じゃないですか」って、ちょっと偉そうなことを言えるようになる。さらに、そこから、すこし偉そうに言えるようになると、また新しい情報が入ってくる。で、ちょっとずつ賢くなっていく。お医者さんにはなれないけれども、少なくともある程度のレベルまでは上がってくる。またどうせ聞くなら、日本一のお医者様方の話を聞いたほうが早い。なぜなら絶対にそれ以上の話は出てこないので・・・。だから、積極的にまず勉強するという余裕があることがマネージャの素養だと思っています。まず自分の研究で手一杯の人は、多分このマネージャーって無理だと思うのです。ある程度自分の研究ができて余裕のある人しか、また余裕というか、もう自分の研究はお腹がいっぱいという人しか多分マネージャーは無理なんだろうなと思っています。
もう一つはやっぱりコミュニケーション力です。何かが分からなかったら、ちゃんと話しに行く。それは多分皆さんが会社で行っていることだと思うのですが、意外に話し合いをやっていない。直接、問題が起きたら話したほうが早いのですが、それをやらないので、できるだけやった、その2つだけです。
河井: ありがとうございます。喜連川先生、そういうコミュニケーションみたいなのは、先生を見ていると多分そんなことはないだろうなと思うのです。例えば学生さんとかで、そういうコミュニケーション能力を磨きなさいよみたいなことは、言ったり、磨くための何か取り組みをやったりするものですか。
喜連川: 1番いいのは、自分を魅力的にすることだと思うのです。そうすると、相手が話したくなってくるわけです。相手が勉強する、もちろんそれは、arrogant(傲慢)になるってことじゃなくて、もちろん自分も勉強します。だけれど、1番重要なことは、自分が魅力的であるということなのです。つまんない人間だったら、どんなにコミュニケーション能力を高めても、話すおもしろい素材がないじゃないですか。
河井: ないですね。
喜連川: そんなことに、誰も来ないですよね。だから、やっぱり、おもしろい夢を語れるというか、自分のビジョンを語って、かつ自分のCore competenceを持つというのがすべてで、それが、すべての会話を促進するといいますか。例えば先ほどの橋本先生のtrajectoryのシミュレーションを見たときに、いや、僕の人生どうなるんだろうなというように思うから橋本先生のところに頭を下げて、一生懸命お伺いしに行くわけで。それが、つまんないグラフだったら、誰も行かないですよね。あれが引けるのは、橋本先生しかおられないから、みんな行く。そういう、なにか魅力を自分で作る努力をやっぱリ、当たり前のことですけれど、それしかないじゃないかなと。
河井: なるほどね、すごくよく分かるのですけれど、どうですか皆さん?自信ありますみたいな人が、どれだけいるかな、みたいな感じなのです。永井先生、やっぱり今と同じような質問なのですけれど、そこをみんなに磨きなさいよって言っても、どうしたらいいのみたいなのがあると思うのです。
永井: 1日にしてできるわけではありません。こだわりが必要です。若いときに手がけてやり残したことも大事にする。また10年も続けていれば、自然とその領域の第一人者になるのだと思うのです。今回のメンバーは、それなりにこだわりを持った人たちで、それぞれ思いつきで研究しているわけではありません。私も、カルテを統合しようということを考えたのは40年も前でした。
昔はカードを作って、パンチカードを作って経験した症例を整理していました。そのうちMZ80(1978年に発売されたシャープ製8ビットパソコン)でデータベースを作りました。まず個人レベル、次に研究室レベル、それから教室レベルでデータベースを作り、それから病院レベル、学会レベル、そして今度は異なる大学の電子カルテをつなぐという段階を踏んできました。そうしたら独自の世界が自然にできます。いきなり大きなものを目指さずに、まず感性にこだわって10年間続けてみることが大事と思います。