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ヘルスケアの現状

小谷: 『日経デジタルヘルス』の小谷です。よろしくお願いします。先ほど、ビッグデータプラットフォームに関しましては、先生方の素晴らしいご講演がありましたので、私のほうからはこの1年間、いわゆる『日経デジタルヘルス』というウェブメディアですが、このメディアを通して話題にしてきたことというのを、ちょっと視野を広げる上でもご紹介していきたいというふうに思ってます。実は、毎年年末になると来年1年間を占う10個のキーワードというのを選定しています。これはちょうど1年前の12月の末に、2018年、今年を占う10個のキーワードということで去年の末に選定したものがあります。具体的にはこの10個です。優先順ではなくて50音順ということで、この10個のキーワードを選出しました。これは去年の12月に出したものですがほぼ1年が経って、この1年に10個のキーワードの下にどんな動きがあったのかというところを簡単に、時間も限られてますけれども、振り返っていきたいというふうに思ってます。
まず1番ですが、医師発イノベーションということで。これは、最近皆さんはよく聞かれるかと思うのですが、臨床に携わってる医師の方々が自らベンチャー企業を立ち上げたり、ビジネスを始めたりするという事例が非常に増えてきています。実は、これは宣伝ではないと言いつつ宣伝でもあるのですが、『日経デジタルヘルス年鑑』という668ページの冊子を12月に発売するのですが、それがちょうど一昨日校了したところです。このデータベースの中にいろんなベンチャー企業を載せているのですが、そのデータベースにしたベンチャー企業をグラフにしてみると、101社あるのです。その101社のうち、これは代表者の専門をカテゴリー別に分類したものです。そうするとITエンジニアや、IT出身者が立ち上げたベンチャーは、今26で1番多いのですが、その次が実は医療従事者が25人ということで、かなり割合的にもこういった医療従事者が自ら立ち上げるベンチャーというのが非常に増えてきてる。この1年でいろんなベンチャーを紹介してきましたけれども、最近よく話題になっているベンチャーの1つとして、沖山先生という日赤の救急医だった先生が立ち上げたアイリスというベンチャーです。今開発をしてるのが、インフルエンザの診断支援装置にAIを活用するということで。インフルエンザは通常は鼻にあれを突っ込んで、ただ、あれって発症から時間が経たないと分からないとかというところがあったと思うのですが、医師の間では実はインフルエンザろ胞といわれる、のどの腫れ特有の、通常の風邪とは違う特有の腫れがある。それをカメラと、その画像をAIで解析することで診断しようということをやっていて。このベンチャー、沖山先生というのは元々、先ほど申し上げたように医師ですが、医師の仕事の範疇というのが実は目の前の臨床だけではなくて、こういった患者の行動変容であり、例えばAIを活用してビジネスをしていくことも一種の仕事であるという強い思いを持っていらっしゃいます。元々キュア・アップというアプリ、治療アプリといわれる領域の国内のトップランナーですが、要はアプリを医師が処方するという時代がアメリカではきてますが、日本ではこれからやってきます。それのトップランナーということで治験を始めてます。このベンチャー、実は今年15億円も資金調達をしまして。この1年、医療関係、いわゆるデジタルヘルスベンチャーの資金調達というのが非常に額も高まってきて、1位はFiNCという会社の55億ですが、今のキュア・アップという会社も15億円ということで、非常にこういった大型調達が増えてきているというのが1つの流れになっております。
2番目はオンライン診療ということで、これはかなりいろんなメディアでこの1年取り上げられたので耳にされていると思うのですが、この4月の診療報酬改定でオンライン診療が点数化されました。これはこれで非常に大きなエポックメーキングではあったのですが、一方で非常に制約もあるということで、疾患の範囲が限定されてしまうだとか。あるいは、6カ月間はオンライン診療の点数を算定できない、あるいは、30分ルールといって緊急時に医師が30分以内に駆けつける場所にいないといけないとか。いろんなこういった条件があるということもあって、今それを見直すべくいろんな議論が始まっていて、実はこの11月の頭に福岡であった遠隔診療学会のほうでも、そういった実態に即したオンライン診療の点数化を次の報酬改定でしていくべきだというような話が、今まさに議論の真っ最中になってます。
(3番、) 介護IoTですね。これに関しても、今日は主に医療側の話がメインでありましたけれども、いわゆる介護に関してもデータを活用してどんどんエビデンス化していこうという動きになっていると思います。この4月の介護報酬改訂でも、介護報酬改訂はどっちかと言えば自立支援介護というキーワードの中で、患者の介護者の要介護度をどう改善するかというところに主眼が置かれてるですが、おそらく3年後の介護報酬改訂では、科学的介護というキーワードの下に、いかにそのデータベース、エビデンスを基に介護をしていくかという流れになってくるというふうに言われてます。これに向けて、政府のほうもCHASE(Care, Health Status & Events)と言われるような、いわゆる介護領域のデータベース、こういったものをようやく構築しようということで、介護のデータに関しても蓄積していこうという動きが始まっております。
4番、これはまさに今回のビッグデータとも直接絡むような話ですが、次世代医療基盤法というものが今年の5月に施行されました。これはご存知のとおり、去年施行された改正個人情報保護法、これによっていわゆる医療情報というものが要配慮個人情報になったということで、オプトアウトによる第三者利用が難しくなったいうことを受けて、医療情報をいかにビッグデータ活用していくかというところの、ある種抜け道というか、そういった法を作るための法整備でした。これがようやく5月に改正されました。実は、5月に施行されて、実際運用していくためには、集めたビッグデータを匿名加工して、それを、ビッグデータを活用する事業者に提供していくという流れがあるのですが、そこの認定事業者といわれる匿名加工をする業者が必要になります。本来であれば、当初の予定はこの時期すでに決まっていたはずなのですが、どうやら遅れているらしくて、そのあたりで非常に医療ビッグデータ業界、医療情報業界の方々もちょっと心配して、本当にこれは進むのかというような声も聞かれてきます。我々が先月に開催したイベントで内閣官房の方も、遅れてるのは事実だけれども、なかなかやっぱり、ここはセキュリティも含めて非常に強固な体制が必要だということで、少し時間をくださいというようなことをおっしゃっておりました。
5番、これは、続「保険掛けるデジタルヘルス」ということで、これは今日の話に直結しないようで直結するのかなと個人的に思っています。ここ最近、いわゆる生命保険業界と、いわゆるデジタルヘルス業界のコラボというのが非常に進んでいます。従来の保険業界の万が一のための保証というビジネスモデルからの転換というのが、生命保険業界の中では迫られてます。もちろん高齢化や核家族化によって、いわゆる死亡給付金のみでビジネスをやっていくというものではなくて、よりお客さんに寄り添っていくかと、そういう中で日々のユーザーの健康をいかにサポートしていくか。あるいはユーザーの、先ほど来、話にあったようなデータを基にした将来の予測と、いかにこの保険を連動させるかというようなことを、各保険会社も真剣になって考え始めてます。今年のトピックでいくと、この住友生命保険のVitalityというものが、CMもよくやっているので話題になりましたけれども、これは加入時に保険料をぐっと下げて、そのあとの健康データの状態に基づいて、それが良好であれば、よりどんどん保険料が下がっていく、逆に、健康状態が悪くなると保険料が上がっていくというような仕組みです。これも、まさにこれまでの生命保険ではできなかったのは、こういったICT、ビッグデータも含めて、いろんなデータがリアルタイムに取れて、それを解析できて、それが保険会社としても使えるようになってきているから、というところの背景があるんだと思うのです。こういったところを受けて保険領域、つまり必ずしも医療保険や介護保険ではカバーできなかった未病、あるいは重症化予防の空白の期間に、いかにこういった民間の生命保険とビッグデータであり、こういったICTを連携させていくかというのは、非常に重要なんじゃないかなというふうに思っております。
6番の脱ヘルスケア。このあたりは必ずしも健康というものだけを目的にせずに、みたいな話です。デンタルヘルスに関しては、実は歯科の情報というのは、最近はよく言われるように全身の疾患と非常に相関関係があるというエビデンスがいろいろ出てきている中で、一方でなかなか歯科情報というのは有効活用がされてなかったということで、そういったものも有効活用していこうというプロジェクトが進んでいます。これは今年の2月に発表された、阪大とNECのスマートデンタルホスピタルという構想ですが、歯科情報というものをより医科の情報にも連携をさせていって、疾患のトータルのデータ解析をしていこうという話です。同時改定は先ほどのような話。フードテックも先ほどの、食ですね。後半でもしかしたら話が出るかもしれないのですけれど、個人から収集するデータは、多分いろんなデータがこれからPHR(パーソナル・ヘルス・レコード)として出てくると思います。例えば、食事のデータみたいなものも、おそらくこういったビッグデータの中の1つの要素になってくるかもしれないということで、この食というものをデジタルヘルス、ICTといかに連携させていくかというのは非常に重要なんじゃないかと思っています。
薬局掛けるデジタルヘルス、最後ですが、今ちらっと見せた『日経デジタルヘルス年鑑』でも、1番最初のほうにある記事です。ゴールドラッシュ、先ほど喜連川先生の中にも、石油の代わりにデータだという話がありましたけれども、やっぱり今は、医療データはゴールドラッシュなんだと思うのです。この石油に次ぐ今の宝の山として、医療データをいかに集めるかという競争になってると。一方でいろんな課題もあるというのが現状なんじゃないかと思っています。実際は、先ほど来、話はありますけれども、今、医療データというのは現実問題として各所に点在をしていて、それは病院、クリニック、患者、あるいは保険者の間でも点在してますし、先ほど永井先生の話にあったように、本来的には各病院にも点在していたもの、それをなんとか永井先生のプロジェクトで特定の病院の中では、ようやくつなげたという話がありました。こういった点在している、そもそも、それを有効活用するということを前提としていないデータという問題もあるわけですが、そういった世界から今後はこれがネットワーク化されていって、それをいかに有効活用していくかという時代になっていくわけです。ある意味、今回のプロジェクトというのは、こういう時代になったときのデータの解析のプラットフォームとなるベース技術というものが、テクノロジー的には実現できたということで、あとは、このネットワーク化をいかに進めていくのか、あるいはこの点をおそらくもっと増やしていくという作業も必要になると思いますけれども、そういったところというのは1つの課題になってくるということです。以上です。
河井: どうもありがとうございます。データの解析をしなきゃいけないよ、という話にはどんどんなっているというのは、すごく分かるのです。そのときに、このプロジェクトですごく大きな1つのテーマになっている、いろんなデータを組み合わせる、つなぎ合わせる、時系列にするみたいなところの温度感というのですか、そこをちゃんとやっていかないと、という温度感みたいなのって、なにか小谷さんは感じるものはありますか。
小谷: おそらくこの病院なり患者なり、患者というのは、例えばPHR事業者、あるいは保険者、自治体であり健保組合ですが、おそらくまったく温度感が違うんだと思うのですよね、現状は。それをなんのために活用していくのかみたいなところも含めて、まったく温度感が違う。それをやっぱり同じ目的の中でデータというものを生み出していかないと、多分それを有効活用していこうというときに、まったく使えないデータになってしまうというのがあるので、そこの足並みをそろえるというのも非常にこれから重要な話なんじゃないかなというふうに思っています。
保険とデジタルヘルスという話がありましたよね。結構僕も保険屋さんをちょっと取材したことがあるのですけれど、すごく時系列とか、今日もプレゼンテーションの中でありましたけれど、多様性みたいなところとかが、すごく話が出てくるようになってるのですよね、保険業界の中で。それがいい方向性なのかと、ちょっと感じているところはあるのです。永井先生、いろんな動きがあるのですけれど、ただちょっとあまりにばらばらな感じも受けるのですけれど、そういうところに関して先生のご覧になってる感じで、ばらばらだけれどとりあえずそれはそれでいいんじゃないの、みたいなこととか、なにかお感じになることはありますか。
永井: データの収集や解析をどういう角度から行うかですが、私共もまだ経験が少なく、学習途上です。まずは断面的な解析でもよいので可視化をすることから始めています。それでも大変なのですね。その次にデータを時系列化し、前提条件に基づいて、個別化や予測をしようとしています。これが世界的に話題になっているPrecision Medicineの世界です。これはビッグデータによって可能になります。そのあたりは日本全体でシステム構築が遅れていますね。
河井: そこらへんを、もうちょっとこういう動きと並行して進めていかなきゃいけないということですかね?
永井: 断面的なデータ解析も重要ですが、そこには限界があります。時系列化したデータに挑戦しないといけないと思います。