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ファクトリセキュリティ

ファクトリセキュリティでの世界観

河井: ファクトリセキュリティについて話をしたいと思います。米田さん、ファクトリセキュリティに関してですが、どのような世界観、姿になっていくといいと、改めて整理して教えていただけますか。
米田 健 部長(三菱電機)写真 米田: はい、今、ものがどんどんとは売れない時代になっていて、製造業がなんとなくだんだんシュリンクしていって、サービス業が増えていく、そういうトレンドにありますよね。ですから、物をほしいというときに、なんでその物をほしいかというと、自分のこだわりを反映していたり、人と違うものというのをすごく求めていたりしていると思うのですよね。そうでない限りは、だいたい物は足りている。だから、そういうことに答えていくために、このマスカスタマイゼーションという言葉が、今クローズアップされていると思っています。ですから、ものづくりという意味での大局的な方向というのは、どうしてもマスカスタマイゼーションの方にいくだろうというのが1つです。
もう1つ、違う視点として、このヘルスセキュリティのプロジェクトをやっていて常々思うのは、健康というのは、ある意味、睡眠と食事と運動というのから成り立っているとしたときに、その食事というところに今回のこの例を適合しているのです。ですから、例えば、100万人が毎日どういうものを食べて、その後、老人がどういうふうな経過になったかっていうのを、何を作るかというメニューがあることで、非常に正確に反映できたりするかもしれない。
それが、増えていく老人、減っていく労働力、ロボット、ビッグデータというものと非常にこう マッチしたテーマになっていると思っていて、こういうところで得られる知見を基にして、マスカスタマイゼーションの世界を追求できるといいというふうに考えています。
河井: そのマスカスタマイゼーションですけど、その言葉はずっと聞いています。今日もプレゼンテーションの中にインダストリー4.0の話もありました。そういう話の中で出てきているのですけど、あまり現実にこうやっているという話を聞かない気がしますがどうなのでしょうね。
米田: 私ども、組んでいてやはり今やっているこういうテーマというのは、10年ぐらい先かというふうに現場の人から思われるようなテーマです。
よく引き合いに出されるのは、ハーレー・ダビットソンみたいな高級バイクが、人がそれぞれどういうものを乗りたいかと、部品とかパーツを換えて注文するとか、他にもう1つ、システムキッチンの例とかがあるのですけど、非常に多くの部分がまだまだ人手でやっている部分が多くて、そのマス・カスタムのマスがどこまでできているのかという状況です。
ですから、そういう意味ではまだまだ本当にこれからという段階で、つながる工場ともいいましたけど、まだサプライヤーと製品を組み立てるところと、部品のところをつなぐだけでも標準化で精一杯という状況ですので、そういう現場での課題はたくさんあります。
ただ、このImPACTというのは、やはり将来を見据えて追究していく場ですから、一生懸命ありうる未来を見据えて、そこで出てくるだろう新しい課題に取り組んで、一早くそこの知財権を、それこそ日本として取るというのが大事かと思います。
河井: ありがとうございます。田野倉さん、実際、取材とか、記者とかもいっぱい動いていると思うのですけど、マスカスタマイゼーションを、どういうふうに今捉えていらっしゃいますか。
田野倉: マスカスタマイゼーションというのは、我々の雑誌でも、始終出てきます。ただ、その文言を見ると、マスカスタマイゼーションを目指しているとか、想定してこのシステムを作っているとか、先ほどありましたように、実際やっているところはまだほとんどなくて。
先ほど米田さんもおっしゃいましたが、ハーレーの話であるとか、最近ですとアディダスが、シューズをお客さんから注文を受けて、お客さんは色とかデザインを自分で選んで、靴のなかのソールを今流行りのマスカスタマイゼーションを実現するための1つのツールである3Dプリンタで作って、お客さんに届けるというような事例がようやく出てきたというような感じです。
実際に、我々の身近にある家電製品とか自動車とかがマスカスタマイゼーションに対応できるのは、先ほど米田さんもおっしゃったように、もうちょっと先になるかというように思っております。

ファクトリセキュリティとビッグデータ

河井: わかりました。もう1つですね、今日のマスカスタマイゼーションのプレゼンテーションを見ていて、ちょっと思ったのが、必ずしもビッグデータっぽくないという感覚があったのですけど、どこが一番ビッグデータ的な話になるのでしょうか。
米田: 現状と今後の話でしますけれども、今100万人のお弁当を朝、昼、2時間毎に作るとすると、1つの工場の中に流れるデータが、大体500MByte/secぐらいになるのです。それぐらいのスピードで流れるものを高速に事前に生成しておいて突合わせるということが必要になります。今回は設備ごとに分けているので、結構比較的単純なソリューションに見えたかもしれませんけれど、それだけ流れるデータを本当にリアルタイムに分析して、見つけていくというのは、なかなか大変なことです。打数的な数値的な観点から、まず大きな大量なものを検証するというのがあると思います。ただ、テラバイト級とかそういう話とはちょっと違う話ですよね。
一方で、もう1つ今我々が考えているのは、先ほどの最後のお弁当が完成されるまで自動搬送機が行くというのを考えたときに、出来上がったお弁当が、どこか何かこうちょっと崩れてるとか、おかしいとかなったとするじゃないですか。一体それはどこに原因があったのだろうと、一体どこのどれのせいでこうなったか、それを突き止めるのが、結構大変なのです。 ですから、きっとそのうまくいかなかった原因というのを追求するために、各機器がどういうログを出していて、どんな処理がされていて、どこでどんなアラームが出てきていたかみたいなことを検証することで、ああいうシステムにおける諸悪の根源を見つけることができると思うのです。実はサイバー攻撃がその諸悪の根源の起因になる可能性があるのです。そのあたりを追求するのがこれから1年、2年というふうに考えています。
河井: 喜連川先生、先程のヘルスセキュリティとファクトリセキュリティだと、だいぶデータ処理に求められる要件が違うようにも受け止められるのですけど、そこの辺りはあまり気にしなくていいプラットフォームになっている、ということでいいのでしょうか。
喜連川: さすがに、1人の高貴な大切な人間の一塊と弁当箱1つとで、同じだというわけにはいかないと思うのです。今回はお弁当ということで、こういう流れになっているかと思うのですけれども、エビフライか肉フライか鶏フライかかまぼこフライか、そんなものですけれども、これが工業製品ということになってきますと、早いのはやっぱり車でしょうね。しかし、インダストリー4.0も車までまだいっていないと思いますが、その手前でも、このコンプレクシティのディグリーが随分違うと思いますので、米田さんがおっしゃったように、まず比較的やりやすいとこからのファーストステップを試みようというのが、原田PMのお考えではないかと理解しております。
河井: そういう意味だと、今ビッグデータとして扱っていくファクトリセキュリティのところは、要件がヘルスセキュリティと違うので、ファクトリセキュリティの方はどういうふうに捉えたらいいか、同じ仕組みを使っていくというのでいいかどうか。 原田先生、コメントをいただけますか?
原田: 仕組み自身は、やはりヘルスの場合の時間的な考え方と、工場の場合の時間的な考え方とが全く違うので、そのスケールダウンです。逆にいうと、工場のものを使ってヘルスのスケールアップはできるのかもしれませんけれども、逆はなかなか難しい。中々すぐ使うというのは難しいと思います。
もう1つ重要な点は、工場はやはりレガシーなもの、既存のものが多過ぎるので、インダストリー4.0がうまくいっていないのも、ドイツとかに行って工場を見てもそうでしたけれども、レガシーなものがあり過ぎて、レガシーを巻き取りつつ新しいものに変えていくということもやらないといけない。医療の場合は、今までにそんなに時系列を作ったこともないですし、まだ始まりの段階なので、最初からできるという点で、やはりその差はよいと思います。レガシーの占める度合いです。

マスカスタマイゼーションとファクトリセキュリティ

河井: 米田さん、ファクトリセキュリティで先ほど、外からのアタック・攻撃を受けるということの対策みたいなお話もありましたが、マスカスタマイゼーションを実現するための仕組みと攻撃を防ぐための仕組みを両立させるので、ここが難しいみたいなことはどこにあるのですか。
米田: それは非常にいいご質問で、私達が先ほどプレゼンしたとおりなのですけれども、今の攻撃検知の方式というのは、大きくブラックリストという悪い人のリストを入れておいて、それと一致するものと、ホワイトリストといういいものを定義して、そこからズレたものを攻撃としようと、その2つが主流なのです。
ただ、マスカスタム生産、そのときにどんなデータが流れるかというのを考えると、両方とも見事に使えないのです。例えば、機械学習みたいなのを使って、マスカスタム生産の工場のトラフィックを監視したら何が学習できるか、きっといろいろなものがいろいろなタイミングで流れていて、ほとんどノイズのようなものになってしまうと思うのです。癖がない。 だからそういうときに、このシミュレーション上で算出をして、それと比較をするというところが、すごく生きてくるのです。なので、このCPSといういい方をしていますけれども、実際に行う前に予測する、それと現実を比べるということの、非常に効果が出る難しい課題が、このマスカスタム生産の工場のネットワークにあるというのを実感しているところです。
河井: 実際にやる前にシミュレーションをするというとこですけど、あくまでも予想をするという言葉を使われていたので、それが絶対に正しいということでもないのかと受け止めたのですけど。その辺りはどう捉えたらいいのですか。
米田: そういう意味では、予想をするといっても、シミュレーターに入力をされるスケジュールというのは、本当にお客様からいただいているもののスケジュールなのです。そこで予測をしたスケジュールがそのまま本物の機械の方にもいくわけです。そういう意味では、必ずしも同じにならないのではなくて、同じスケジュールが入力に使われています。それは貝原先生も、おっしゃっていたと思います。複雑なデータだけれども、それを生み出す元となるデータは、あらかじめ決まっているところが、このマスカスタム生産の面白いところなのです。そこを効果的に利用できているのじゃないかと考えています。
河井: これは、例えば、先ほどのヘルスセキュリティと同じように、時系列で持続的にデータを取り続けていくことで、精度が上がっていくこともあるんですか。
米田: それは一番初めに、当初考えていたのは、コンピュータの機器の動きを完全に精密に模擬する、要するに、部品の1個まで模擬するようなものを作る。それが、どういうコマンドを出すかというのを事前に予測して比べるということを考えたのです。やはり、現場というのは、すぐタイムディレーが発生していますので多分無理という感じです。そこの中で、どういうレベルまで抽象化していけば、こういう事前の予測と突合わせができるかといったときに、ちょうどその設備のコントローラーに対して製造指示を出すとか、あそこが非常にいい狙い目だというところがわかりました。あそこから1歩奥に入ると、今度はコマンドが複雑になりすぎてしまうのです。
だから、本当にこういうのは、やってみないとわからないことが多いのです。シミュレートで予測して比べるときに、工場の中のネットワークが複雑な状況において、どこにフォーカスをするとそれができるのか、などというのも実際に設計をして予想しないとわからないところがあります。そういうところがわかったのは、非常に価値があると思っています。

異業種連携とフレームワークの共有化

河井: はい、わかりました。もう1つ、伺おうと思っていたのが、ヘルスセキュリティとファクトリセキュリティ、ちょっと離れた印象はあるのですが、たまたまケア職というテーマだったからかわからないのですが、ヘルスとファクトリと両方にまたがったという話になっているのかと思うのですが、この辺りもこのプロジェクトの思いとして、なにかあるのかと思うのですが、原田先生、その辺りはなにか意識されたものなのですか。
原田: 最初からそこまでは意識してなかったのです。しかし違う業界の先生方が話をしていくと、これが面白いことに、何となく揃ってくるのです。問題点もやはり余計になってきたのも、できるだけ寿命を延伸させたいと、その中で昨今ちょっとした事件で一番大事になるというのが、やはり人の身体に関することなのです。よくよく見直すと何か全て同じだという話になる。今までのプロジェクトだと別々の省庁で別々にやっているので、こういうディスカッションが全くないのです。ものづくりとデジタル技術が同じ雑誌になって、デジタルヘルスモノづくりみたいな雑誌はまずないと思うのです。
河井: ないですね。
原田: なかなか日経BPの中でもディスカッションは難しいと思うのです。それをこういうプロジェクトを作って、もう強制的にやる。変な話なのですけど、先ほどのビデオの中で、結構喜連川先生からもコメントを受けたり、永井先生からもコメントを受けたり、いろいろな人からコメントを受けたビデオなのです。だからやはり、別の観点で見る、見たときに同じだと思う。もともとその業界で持っていた知識を使ってみるということは、やはり始めてみるべきだと思います。
河井: 喜連川先生、若干話が飛ぶ感じになりますけれど、オープンイノベーションというのですか、異業種みたいなものを組み合わせてこういうふうにデータをやってみたら面白いのでは、みたいなことは喜連川先生からいろいろな業界の方に提案したりとかということはあるのですか。
喜連川: このImPACTの枠組みの中では、計画を提案しながらそれを認めていただくということなので、なかなか自由闊達にオンデマンドにやるというのがあまり簡単にはできない。私共の研究所などでは、全然分野の違う橋本先生が話されたと思うのですが、結局最終的には全部保険なんです。全てがインシュアテックに流れる中で医療と保険というのを作れますし、今の工場も保険になる。そういう連接というのは1個できるというのもあります。例えば、人間の働く環境というものを考えたとき、結局それは健康状態とか、いかに意欲を作るかということで、いろいろなマニュファクチァリングのカンパニーと医療とが連接したり、ありとあらゆるものがくっついているのです。
今回はものづくりという切り口でお話しされているのですが、イクイップメントヘルスという言葉がよく言われるのです。あれは、モノの健康と言っているわけです。人間の健康もモノの健康も、実は同じフレームワークなのです。どれだけ使っていくと、どこにガタが来るかみたいな話です。そういう意味でいうと、自然に異業種の連携というのは、今どんどん進んでいる中で、こういうデータを共有化することによって、ますます加速化して行くのではないかと思います。
河井: ありがとうございます。永井先生はいかがでしょうか。
永井: 例えば、橋を架け替えるということがあります。橋の寿命といっても、すべての橋が同じように劣化しているわけではない。しかし放っておくと突然崩壊する。これは医療でいうイベントの発生と同じです。その予測にはミクロからマクロまでいろいろな見方が必要です。統計データやマルチスケール解析なども役に立ちます。そういう意味では、土木工学や材料工学と医療・医学は、かなり類似点があると思います。ファクトリとヘルスも社会の安全という意味で共通点があります。そのため私自身はあまり違和感なくお聞きしていました。
河井: ありがとうございます。いろいろなデータが組み合わさると、今日もいろいろ見せていただいたのと、またもうちょっと違う、こんな分析結果が出ます、とかというのが見えてくるのかもしれないです。ありがとうございます。