イベント関連情報 お知らせ Information

クロージング

望月:最後にクロージングというか、言い足りなかったことや、コメント、さらには今回のプレゼンテーション、ディスカッションを通して感じたことなどを、一言ずつ頂ければと思います。

ビッグデータと異業種連携、異分野融合

大石:恐らくこれからImPACTを含めて、異業種連携というものが一つのポイントになってくるかと思います。特にこれがファクトリーの分野におきまして、異業種連携の案件がさらにどんどん出てくるだろうと見ております。ファナックはずっとクローズドな世界を構築してきましたけれども、数カ月前にシスコ他と組んでオープン化に踏み出しました。先ほど少し申し上げましたが、先週金曜日にはDMG森精機とマイクロソフトが協業したということです。
例えば、従来のお客さまが工作機械メーカーへ要求してくる価値というものが、かなり変わってきています。かつては工作機械そのものの生産性や耐久性のようなものが大切だったわけです。ここにきてビッグデータを活用した予防保全であるとか、工場外部からの生産状況のモニタリングのようなことに対する機能というものが、必要になってきているという状況があります。こういうことをやっていくときにはセキュリティが非常に重要になるのにもかかわらず、既存の工作機械メーカーの中にはセキュリティの専門家がいないというような問題が出てきています。そういうことから、その専門家と組んでいくという世界が出てきています。このImPACTに、これからもさまざまな分野の多種多様な企業が参加していくことによって、技術開発の競争力がますます増していくということを期待しております。
小谷:先ほど、医療とファクトリーの違いというか、むしろ似ているというような議論があったと思います。逆に、違うところは何だろうと考えてみると、一つは恐らく医療のほうは先ほどのプレゼンにもあったように、ある種の公的サービスという中でやっているということがあります。医師会や医師法17条も含めた、いわゆる法的なところといかに折り合いを付けて、このデータの活用というものを社会実装していくかということも必要です。もう一つは、先ほど少し楽屋でも議論になりましたけれども、個人情報のところです。そういった部分が、まさに人のデータを扱うというところで、やはりファクトリーとは大きく違うと思っています。
一方で、今、異業種連携という話がありました。今回連続データを作るという話の中で、落ちたときにどうするかということを考えたときに、落ちたときのセーフティーネットの作り方は、恐らく医療の人たちだけではありません。例えば先ほど車の事例を出しましたが、交通インフラ・救急インフラをどうするのかなど、いろいろな業種の中でこの谷に落ちたときにどうするかということを考えていかなければいけないと思っています。そういった意味では、今キーワードに出ました異業種連携、さまざまな人がこのプロジェクトの基盤の上に、新しいアプリケーションを一緒に考えていくということが必要なのではないかと思っています。
早川:私どもはデータベースやネットワークといったところと、技術の連携の議論をすることは、これまでもやってまいりました。今回、ヘルスセキュリティということで、永井先生をはじめとする、いわゆるお医者さまの先生と一緒に議論をする機会を得ました。これは非常に新鮮なことです。IoTでもそうですけれども、最後は顧客価値を生み出すというところに行き着くのだと思います。これまで全く違うことをやってきた人と話をする中で、新たな顧客価値というものをファクトリーの世界にとどまらず参考にさせていただいて、模索していきたというふうに考えております。
永井:今回のテーマから、人間が新しい時代に入ってきたことを感じます。例えば、ものづくりでも医学でも、何か今まで決定論的な定義された世界の中で活動しようとしていたのが、いよいよ運・不運、たまたま、偶然ということで片付けられていた世界の事象に、IoTやICTの世界が挑戦しているのだと思います。それは先ほどからお話ししている、実感では分からない頻度の低い現象や、複雑なシステムの中で起こる良いこと、悪いこと、いろいろあると思いますが、そこをいかにコントロールするかが全体の共通したテーマではないかと思います。
こうした研究は、必ずしも研修者の探求心や知的好奇心だけではなく、必ず社会にフィードバックします。個人情報の問題もありますけれども、被験者は必ずしも恩恵を受けないということはないのです。ある意味、玉石混交の情報が氾濫する中で、一人一人の市民が自律的に生きることに資するのが研究の目的だということだと思います。そういう意味で異分野融合をしながら、社会と一緒に知識を作るということが大事だと思います。
喜連川:日経さんのお話を聞いて、予想以上にたくさん出てきたキーワードが、サイバーフィジカルという言葉だったと思うのです。ご質問では、サイバーフィジカルとImPACTは何が違うのですかという言い方もあったと思います。サイバーフィジカルというのは、アメリカで2006年から生まれている言葉です。アメリカは現在もCPSのプロジェクトを実はけん引して、2006年に生まれた言葉が2016年でも続いています。アメリカはどう言っているか分かりませんけれども、少なくともCPSと何が違うのですかというような言い方はしないかもしれません。
そういう意味で、2年~3年で終わるようなプロジェクトというか問題は、もはやわれわれ研究者にとって何一つ面白みがないことです。つまり、難しい問題を解かなければいけないという時代になっているのです。そもそも、2年、3年で解けるような問題ではないものに、われわれはだんだん挑戦していっております。

基盤整備と垣根を越えた連携

原田:基本は、やはり今回のプロジェクトの一番良いところは、内閣府のプロジェクトだというところだと思います。普段、経産省でお金を取っていらっしゃる方、文科省でお金を取っていらっしゃる方、厚生労働省で取っていらっしゃる方、総務省で取っていらっしゃる方が、こういう内閣府という一つのコネクションができる場に集まって、ファクトリーの人と医療の人がディスカッションをするということは、まずあり得ないということです。やはり、その場をつくっていくということは、非常に重要なことだと思っています。
場をつくるだけではなくて、実は一番重要なことは基盤をちゃんとつくることだと思っています。先ほども『日経エレクトロニクス』さんや『日経デジタルヘルス』様が、IoTを使ったこのような事例があると言いました。私はIoTの無線をやっているので分かるのですが、それでもうけた人はここ数年で誰もいないのです。結局、基盤がいつも貧弱なのです。確固とした基盤がありません。なかなか基盤の整備に目をちゃんと掛けずに、ちょっとした花火のようなところに、どうしてもお金を掛けてしまいます。
その一番の問題は、花火はいいのですが、私が気にしていることは言葉が死んでしまうことです。超ビッグデータ、非連続なデータという言葉が、ちょっとしたプレスの情報だけで使われてしまって、一番技術的に成熟した“いいとき”に使えないという問題が出てくると思います。その辺を私はとても嫌っていて、やはり確固とした基盤というものをつくっていかないといけないと考えています。ただ、税金を使ってやっているので、やはり社会実装は考えながらやらなければいけないと思います。
先ほどもお話ししたように、スタンダライズ・標準化できて、スケーラブルで、セキュリティがあり、かつきっちりと社会実装ができるものを作っていくことです。多分、AIにするにはデータがきっちりとすぐに取り込めない状態になっているので、先ほど喜連川先生がおっしゃったように2~3年でできることは、次のAI時代へのバトン渡しなのです。日本は陸上でもバトンがうまいように、われわれはバトンを上向きに渡すか、下向きに渡すか分からないですけれども、うまいバトンの渡し方を考えることです。AI時代というのは、何年かに1回は絶対に来るのです。ちゃんとした言葉の死なない本当のAIの時期に、一気に基盤投入できるところまでやらないと、多分国自身が終ってしまうのではないかというのが私の考えです。そこを何とか補強できるようなプロジェクトに仕立てることができれば、私の領分としては完璧ではないかと個人的には思っています。
望月:私たちもサイバーフィジカルシステムと比較してどうのこうのとか、2~3年で終わるプロジェクトというような感じで捉えているわけではありません。やはり社会課題の解決というところに対して、どのように中長期的に取り組んでいくのかということは、大きなミッションだと思って理解しております。私たちメディアも温かくImPACTを見守っていきたいとは思っております。
今日はファクトリーということと、ヘルスケアということで、ここに皆さんに集まっていただいたわけですけれども、最後のほうで連携という話が出てきました。省庁間の垣根を越えた連携、企業間の連携、大学間の連携、そういったいろいろな連携というのが生み出されることによって、データが生きてくるというような形になってくればいいなというふうに思っております。
今日は1時間35分ぐらい、パネルディスカッションをやらせていただきました。長時間にわたりまして、最後までお付き合いいただきまして、どうもありがとうございました。パネリストの皆さんに、温かい拍手をお願いいたします。