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ファクトリセキュリティ

望月:では、『日経エレクトロニクス』の大石の方からプレゼンテーションをさせていただきます。実は、大石は『日経ものづくり』の編集長をこの間までやっておりました。スマートファクトリーや海外の動きを結構調べていたということもあって、ちょうどいいかなということで、今日お話をさせていただきます。

マスカスタマイゼーションが切り開くものづくりの未来

大石:皆さん、お世話になっております。日経BP社の大石でございます。本日はお忙しい中、お時間を頂きまして本当にありがとうございます。私の方からは、今日、「マスカスタマイゼーションが切り開くものづくりの未来」と題しまして、お話をいたします。
まずこのインダストリー4.0でございます。こちらはドイツ政府が主導して、産官学が共同で取り組んでおります。ドイツの製造業を強化するための一連の取り組みでございます。具体的には、インターネットでの通信ネットワークを介しまして、工場の内外の物やサービスを高度に連携させるというものです。これによって従来にない価値や、新たなビジネスモデルを創出することを目指しております。狙いは大きく3つございまして、高い生産性の実現、雇用の確保、税収確保でございます。
この図は、第1次産業革命以降の製造業の進化につきまして、横軸に時期、縦軸に産業構造の複雑性を示したものになります。まず1784年の機械織機の発明によって、水力や蒸気の力を利用した機械的な生産設備が導入されました。この結果、第1次産業革命が起こりました。続きまして1870年ぐらいに世界初の生産ラインが構築されて、電力を使う大量生産の導入による第2次産業革命が起こります。さらに1969年、世界初のProgrammable Logic Controllerの発明によって、生産をさらに自動化していくようになりました。このために、電子機器やITを活用することで第3次産業革命が起こりました。そして今回のインダストリー4.0はサイバーフィジカルシステム、すなわちコンピューターとソフトウエアを活用した仮想的な現実と、物理的な現実の世界を完全に一致させることを目指すシステムです。これを構築することによって、製造プロセスを飛躍的に変革できるようになります。このことが第4次産業革命といわれております。
そして、つながる工場の前提になっておりますのが、Internet of Things、いわゆるIoTでございます。釈迦に説法なのですが、IoTとはスマートかつコネクテッドなデバイスを用いまして、製品やサービスを構築し、管理をします。これによって業界の効率性を向上して、かつ新しい顧客の価値を創造していくというものでございます。
この図は、インダストリー4.0あるいはスマート工場で実現されると考えられる工場像を示したものであります。赤字で書いた技術は、その中核を担う技術と言えると思います。すなわち工場の内部におきましては、図の下半分にありますセンサ、3Dプリンティングをはじめとする負荷造形装置、ロボット、さらには自律的に動く搬送装置、これが中核を担います。一方、工場の外でございますけれども、こちらで必要となる中核技術としましては、この図の上の方にあります。今日もずっと議論に出ておりますサイバーセキュリティ技術、クラウドコンピューティング技術、そしてビッグデータの解析技術などがあります。この他、次世代の高速無線通信規格・5Gなども、スマート工場を実現していく上で不可欠になる技術であるというふうにいわれております。
インダストリー4.0のコンセプトというものが、工場の在り方を大きく変えていくという可能性があると考えられている理由が幾つかあります。最も大きな理由の一つは、カスタムメイド品を、大量生産品とほぼ同等の生産性で供給する、いわゆるマスカスタマイゼーションの実現を狙っているということにございます。例えば、インダストリー4.0に対応した工場では、製品の受注から生産までの情報を連携させて、生産設備をきめ細かく制御して、半ば自動的にお客さまの要望に応じた製品を生産できるようにするということを目指してございます。
しかしながら、顧客の要望にきめ細かく応えると、こういうカスタムメイドというものは多品種対応が要求されますので、大量生産に比べて生産性が下がるという問題があります。ここで多品種対応と生産性を両立させるための鍵となるものが、柔軟性の高い生産ラインと、それをリアルタイムに制御していくITシステムになります。特に重要になるのが、生産ラインを制御する生産系のシステムと、そこにさまざまな情報を提供する基幹系システムが、高度にリアルタイムに連携することになります。
この際に非常に大切なのが、顧客との窓口になるEC、Electronic Commerceサイトや、サプライヤーの基幹系システム、これらをすべて含めて、極めて広い範囲においてシステムを連携させることが大切になります。この図の上の方にありますように、現状ではそれぞれのシステムがつながっていないか、あるいは仮につながっていたとしても高度には連携をしていないということになります。
例えば、ECサイトの受注情報というものが、リアルタイムで自社工場の生産計画であるとか、サプライヤーへの部品発注のようなものに反映されている例は、まだ決して多くはありません。基本的にはバッチ処理や手作業になっています。しかしながら、こういう状況では各工程でタイムラグが生じてきますので、最終的にお客さまに製品を届けるまでのリードタイムが長くなってしまって、生産性も低下します。だからこそ、この下の図のように、ECサイトやサプライヤーまで含む広範囲のITシステムを連携させる必要が出てきます。
こうしたITシステムが本格的に整備されるのは、実は2025年頃といわれています。それでも部分的には、もう既に導入が始まっております。例えば、この図ですけれども、米国のハーレーダビッドソン社、彼らはドイツのSAP社のITシステムを導入することによって、カスタムメイドのバイクを顧客に納入するまでのリードタイムが従来は21日かかっていたものを、6時間に短縮しております。

インダストリー4.0によって次世代の工場を変える鍵

大石:それでは、インダストリー4.0によって次世代の工場はどう変わっていくのでしょうか、という話です。その鍵は、大きく2つございます。一つは、人とロボットの協業です。もう一つは、生産設備のモジュール化になります。このことを、ドイツのハノーバーで開催されました産業技術の展示会であるハノーバーメッセでの展示やデモから見てみたいと思います。

まず、人とロボットの協業についてです。現在のところ、人とロボットが協業する場合、ロボットの稼働速度を安全なレベルにまで下げることが法律で規定されていますので、実際の生産ラインに導入可能な効率を実現することが非常に難しい状況にあるのです。従って、ほとんどの生産ラインでは、ロボットを安全柵で囲って人間と隔離しています。こういう状況ですと、生産性がころころ変わっていき、マスカスタマイゼーションに対応しにくいという課題が出てきます。
さらにもう一つ、人とロボットの協業を実現する上で大きな問題となるといわれているのが、ロボットの設置場所を容易に移せないということでございます。マスカスタマイゼーションでは、作る物に合わせて生産ラインの姿がころころ変わっていきます。こうした変化に対して、人間は比較的柔軟に対応できるのですが、特定の場所に固定されてしまっているロボットは難しいわけであります。そこで、ロボットに足を与えて、自ら動かしましょうということを考えたのが、ドイツのKUKAという会社です。これが写真です。コンセプトの試作品ということで、ハノーバーメッセで開発しました。具体的には、自律走行をする台車に7軸の垂直多関節ロボットを搭載しています。もともとこのロボットは、人との協業を前提にして同社が開発した製品であります。全ての軸にトルクセンサを内蔵しておりまして、人や物体との接触を感知すると、瞬時に退避をするという機能があります。
人とロボットの協業と並びまして、インダストリー4.0あるいはスマート工場によってもたらされる、工場のもう一つの変化が、生産設備のモジュール化です。これに関しましても、生産ラインを柔軟にするという目的自体は、先ほどの人間とロボットの協業と同じであります。具体的には、レゴブロックのように自在に交換ができ、ネットワークの接続をしたら直ちに稼働する、いわゆるプラグアンドプレイです。こういった機能を備えた生産設備によって、マスカスタマイゼーションを実現していこうという発想がございます。
こういった生産設備のモジュール化を重視していく背景には、既存の生産ラインが極めて柔軟性に欠けていたという製造業の反省がございます。製品のライフサイクルは短くなる一方であるのに対して、生産ラインや生産技術が旧来の複雑なままでは、いずれその動きに付いていけなくなるということになってしまいます。
その典型的な例が、生産ラインのエンジニアリングといわれています。現状はどうなっているかというと、まず作る物を決め、次に生産設備を決めるという具合に、シーケンシャルに物事が進んでいきます。しかしながら、製品のライフサイクルが短くなっていくと、こういったことで間に合わなくなります。ましてや生産する物がころころ変わっていくマスカスタマイゼーションの時代になると、全く対応できなくなるという問題がございます。製造する物に合わせて、生産設備もレゴブロックのように自在に交換していけるというものでなければならなくなってくるわけです。
工場のスマート化に関しては、ドイツの技術イニシアティブでスマートファクトリーKLというものがあります。ここにはドイツの企業が多数参加をしております。生産ラインの柔軟性を向上する取り組み進めております。その一つが、このハノーバーメッセで展示をした、この写真のシステムになります。具体的には、スマートファクトリーKLの他に、ハーティング社やヘエスト社などが個別に生産設備を設計して、それらを1列につなげた物であります。このシステムでは、生産設備をプラグアンドプレイで交換できますので、生産ライン全体を稼働させたまま、製造する物に合わせて生産設備の種類や順番を入れ替えることができるようになります。そういう技術でございます。
こうしたスマートファクトリーに向けて積極的に動いているのは、決してドイツの企業だけではないのです。例えば、多くの日本企業も基本的には目指す次世代ものづくりの姿は、このインダストリー4.0と似たものになっています。大きくは、こういった2つのものがあります。一つは、究極のマスカスタマイゼーションを決定的な低コスト、オペレーションで実現していくということです。もう一つが、ライフサイクル全体で新たな価値を強化し続ける製品やサービスを創造していくということを目指しています。こうした目的を達成するためには、バリューチェーン全体の状況を把握して、的確に分析と判断を行って、人・物・機器を正しくコントロールしていくということが必要となります。このためには、大きく4つの段階に分けてIoT技術を活用していくことが不可欠になるわけです。具体的に言いますと、収集・分析・制御・価値創造でございます。

収集・分析・制御・価値創造とIoT技術の活用

大石:第1段階の収集ですけれども、ここではメーカーごとの力点の置き方が違います。他社にない技術というものを全面に押し出して、顧客にアピールをするというメーカーさんが多いです。例えばNECですけれども、彼らは現場・現物・現状といったものをデジタル化していくというところに、独自技術を活用してアピールをしているということです。ここでは極めて高い精度を誇る画像技術を活用して、大きな設備の追加をせずに現場の実態把握を可能にしていくということを目指しています。
スマート工場の実現のためには、第1段階のデータの収集に続きまして、第2段階の分析も大きなポイントになってきます。ここではビッグデータの解析技術を活用することによって、例えば製品や設備の異常の検知、原因の特定、あるいは変化する需要の予測といった、従来見えなかった状況というものを見える化していくということが大切になってくるわけです。今回のImPACTでも、ここがメインのイシューになっていると思います。
そして収集・分析に次ぐ第3段階が制御です。ここではITと生産ラインをシームレスに連携させていきます。このために異なるメーカーや通信規格というものを吸収できるような接続が、非常に必要になってくるというわけです。例えば動的に構成を変更できるようなネットワーク、ソフトウェア・デファインド・ネットワークなどというものがあります。これの活用によって、柔軟な、フレキシブルな生産ラインの構築であるとか、セキュリティ性の向上を目指していくということになります。
これらに続く4番目の段階が価値創造です。ここでは、製品を出荷した後でも継続して進化して、顧客に提供する価値を増大し続けられるようにします。こういう新しい製品を実現していくということが極めて大切になってきます。これはお客さまの製品と容易につながって、多彩なサービスを継続的に拡張していけるようなIoTプラットフォームを構築していくことが大切になります。
収集・分析・制御・価値創造の4つを組み合わせて、スマートなものづくりを実現していきましょうという方向性は、ほぼ世界の製造業で共通しています。これによって何がしたいのかということなのです。まず需要に即応して、グローバルレベルで製造体制を極めて短期間に組み替えていくという製造プロセスを構築する、製造プロセス改革です。続きまして、グローバルレベルで製品のトレーサビリティーを確保していくことによる、製品の品質向上を目指していきます。最後に、設備・工場・企業内の部門間、さらには企業間、これらが全てネットワークで接続された、本当の意味での「つながる工場」です。これらの実現を目指すという方向に、今世界の製造業が雪崩を打って向かっているというわけでございます。ご清聴、ありがとうございました。
望月:ありがとうございました。今、大石から世界における工場、ものづくりの流れというお話をさせていただきました。早川さん、インダストリー4.0やマスカスタマイゼーションなど、いろいろな言葉が出てきております。今回のプロジェクトで非常に重点を置いたところに、インダストリー4.0的な考え方が随分入っていると思っていいですか。

インダストリー4.0とスマートファクトリー

早川:そうですね。われわれも、インダストリー4.0、マスカスタム生産というところに大きな重きを置いて、プロジェクトを構築しました。そういう意味では、その部分は同じだと思っています。今ご説明いただいたことは、スマートファクトリーという分野だと思っております。そこではIoTの技術を使い、人と協働するロボットという技術で、どんどん工場が一変するという流れも、そのとおりだと思います。そこでデータを収集して分析して、価値創造をするというパターンも、ほとんどグローバルで共通な考え方だと思っています。
どんどんそういう工場ができたときに、われわれは少しその先を考えて、工場同士をつなぐというところにポイントを置いております。これがどこまでやるのか、どこまで皆できているのかということは、まだよく分かっていません。工場をつなぐと、物を作るプロセスが企業を越えて相互に連携することになることがポイントだなと思っております。日本も、多分ドイツもそうですが、ものづくりの中心は中小企業なのです。ドイツのインダストリー4.0も、お話を聞くと中小企業の保護政策というか、発展政策もその一つであるというようです。
日本でも皆さんご存じのとおり、中小企業ですごくいい物を作っていらっしゃる所はたくさんあるのですけれども、やはり個別にやっているというのが現状です。コストの問題、人材育成の問題、まだそれを実現する課題は多々あるのですけれども、われわれはつながる工場の中にそういう所もうまく入ることができるようにして、生産の全体の仕組みを柔軟にしていくということが、一つの大きな目標かなと思います。そういう意味では、その点もインダストリー4.0と同じようなところかなというふうに思っております。
望月:工場間とか企業間でつながる工場を造っていくということです。そういう意味では、先ほどのケア食工場でまさにつながる絵を出していただきましたけれども、その中でいろいろなリスクへ対応しなくてはいけないということで、サイバーアタックのような話もされました。
早川:その中でわれわれはセキュリティの部分にフォーカシングしております。先ほども少し言いましたけれども、セキュリティへ攻撃する側というのは非常に巧妙になってくると考えています。それにどうやって対応するのかということは、大きな課題だというふうに思っております。先ほどから言っておりますように、セキュリティというものは短期勝負になります。リアルタイムで検知して、すぐそこで対処するということが必要になります。そのためにはどうするかということを一生懸命考えて、われわれは先ほどご説明したような方式でできないものかということを、このImPACTで研究開発させていただいているという状況です。
望月:ありがとうございます。リアルタイムで大量のデータを処理して、加工して、判断していかなくてはいけないということです。喜連川先生、先ほどの10万倍にしていくというようなお話は、ここに生きてくるというふうに考えていいですね。

リアルタイムで大量のデータを処理

喜連川:はい。先ほどのヘルスの領域に比べますと、対象が極めてクリアですね。ヘルスの場合は永井先生もおっしゃいましたように、ある営業的な行為を行ったとき、それがいいかどうかということそのものを検証するためにデータを使うというような行為になるわけです。工場の場合は何をするかということは、人でデファインされていますので、そのデファインされたシーケンスが実現されているかどうかということだけを、ある意味でチェックすればいいです。ご説明がありましたようなパーシャルオーダーでデファインドされていますので、そのパーシャルオーダーをトータルオーダーの中にベッドされているかどうかをチェックするということです。
ただ、ご説明の中では工場に1,000台のロボットが入るというようなお話があったと思うのですけれども、どんどんその数が増えてきたときに、それがサポートできるのかというぐらいの性能は、今のところまだわれわれも丁寧なところまでは詰めていけていないところがあります。大ざっぱな話で恐縮ですが、感覚的には数ms単位のものというのは、今いわゆるインターネットトレーディングといいますか、ストックマーケットの中で動いている世界はμsになっております。そういう意味で言いますと、この領域というのがどんどん大きくなっても、アフォーダブルのぎりぎりのところまでは伸び切るのではないかなというのが、私どもの印象感でございます。
望月:なるほど。分かりました。すみません、実は先ほどのプレゼンテーションを聞いていて少し分からなかったところがあります。新しいこととして、非順序型ということで1,000倍というところを目指して、エラスティックというところで100倍、全部で10万倍というような考え方を大ざっぱにおっしゃっていました。すみません、実はエラスティックということがよく分からないのです。
喜連川:永井先生的な言葉で言いますと、だんだんメタボになっていくというのが、上に掛ける100倍分ぐらいになるのです。先ほどのマスカスタマイゼーションの話があるわけですが、外とどんどんつながっていくということで、ある意味でスマートグリッドと似ているのです。つまり誰かが欲しくなるというときに、PVまで入れて需要可能かを判断するというのは、外的変動率がとても多くなったときに中で適用できるかという話になってくるのです。
従いまして、今iPhone 7がありますので10億台作りましょうという話になるわけですが、そのリクエストの変動幅は極めて大きいわけです。それに工場がダイナミックに適用できないと、ある意味で言いますと投資対効果がうまくコントロールできません。その部分がエラスティックということです。つまり1,000は固定にしておいて、残りの100ぐらいで動的変動を吸収するというのが、理想像ではないかなというふうに考えている次第です。
望月:分かりました。ありがとうございます。今の発言を受けて、ITというかCTの方としてデータ収集手法ということを考えていったときに、やはり工場はリアルタイム性であるとか、msであるとか、瞬間的に大量のデータが集まるということだとは思います。そこら辺を原田先生の方から解説、ポイントを教えてください。

レガシーシステムとセキュリティ

原田:先ほど大石さんから提示いただいた工場なのですけども、実は私、現実にどうなっているのかを知りたく、ドイツで見学をしてきました。そのときに思っていたことを何点かメモをしていました。今のドイツなどがやっていることに対して少し気になったのは、レガシーシステムというか、古いシステムが結構沢山入っているところです。それをどうやってこれから新システムに巻き取っていくのかということが、結構不明確なのです。
通信は有線でやるにしても、無線でやるにしても、レガシーシステムの巻取りはかなり不明確です。見学したときには、新システムの通信インターフェイスが、今は多分イーサネットか何かでやるようイメージをされているように見えたのですけれども、本当にこれからロボットで高速化してくると、本当にイーサネットばかりでいいのかと思います。無線化をするとか、第5世代の通信を使うという話もあるかもしれません。しかし、工場の中は雑音が多いというか、あまりいい環境ではありません。私は今回、自分のプロジェクトの中で比較的低周波数帯を用いたセンサをかなり重視して言いましたけれども、実は意外に、もう少し高い周波数の方がいいのかもしれません。誰も使っていないからです。そのあたりの物理的なパラメータ選定が、まず伝送系の課題に出てくると思います。
さらにネットワークに関して考えると、工場特有のものを検討する必要性があると思います。例えば、ある設定をして、たまに故障が起きたときに、通信ですと勝手にルート変更をするのですが、それは多分許されないと思います。工場の場合は故障を検知しないといけません。多分、そういったネットワーク上の制限が出てくると思うのです。その辺りもまだ、十分議論されているようにも思えません。
結局、何度も言いますけれども、標準化(スタンダダイズ)されていて、マスカスタムから少し大きめの工場までサポートできるスケーラブルさがあって、先ほど述べたセキュリティを保っているということを、私は3つのSと呼んでいます。本当にそういうシステムが、現状十分に考えられていないような気がするのです。その辺がこのImPACTで狙っていくところなのだろうなと思います。それほどまだレガシーがあるわけではないですから、日本の場合は変えようと思えば変えられると思います。
また、その工場を見学したときに、実は同じ見学のルートで他国の方がいらっしゃって話をしました。そのとき「おまえ、何でこんな所に来ているのだ。日本の方がいい工場があるだろう」と言われたのです。日本の工場はあまりサーベイされていないので、私の考えがすでに入っていればいいのかもしれないけれども、どれぐらいその工場がいいのか、日本の工場はまだオープンになっていないのでわからないのが現実です。やはりオープンスタンダードが必要になってくるのかなと言う感じを持っています。
大石:先ほどの原田先生のレガシーの話は、非常に同意します。先週の金曜日、DMG森精機とマイクロソフトが、スマート工場のセキュリティで提携をしたのです。そのときにDMG森精機の森社長様がおっしゃっていたのは、一番気になっているのがレガシーシステムだということです。新しい装置には、基本的にいろいろな機能を入れられます。レガシーシステムのセキュリティが非常に気になるので、そこを何とかするためにマイクロソフトと提携したとおっしゃっていました。彼らはドイツの企業でもあるので、インダストリー4.0のど真ん中にいる人たちです。その彼らすらも、そこのレガシーのセキュリティはまだ懸念を持っているということを感じました。
原田:同じ現象は、実はスマートメータの標準化のときもありました。スマートメータも最初は、せっかく国際標準化されたIEEE 802.15.4gというかなり高速な通信システムがあったので入れていこうとしたのですが、多くの人が最初は導入を嫌がっているのです。理由はレガシーを吸収しないといけなかったためです。結局レガシーに引きずられていくので、どの時点で変更するかによってストーリーが全く変わってきます。レガシーの方が多くなってくると、勝手にそちらへ引きずられていきます。日本で言うと、伝送系では今の時期からきちんとした研究をやらないと、多分レガシーに引きずられるのではないかというふうに考えている部分はあります。
望月:全く新しい工場で、全部新製品の装置を並べるという理想的な所では考えられるけれども、既存の物をどういうふうにするかということですね。
原田:考えられるのですが、このご時世でそれを投資できる日本の会社があるかということです。
望月:そうですね、なるほど、分かりました。そういう意味で、先ほどの3Sというのは非常に重要になってくるし、レガシー対応というのは非常に重要になってくるということですね。今、工場のお話をこういう形で進めてきているのですけれども、永井先生が聞かれてどういうふうなご感想ですか。

医療システムとファクトリーセーフティ

永井:極めて面白く、身につまされて聞かせていただいています。医療と同じという感じです。まずマスカスタマイゼーションは、医療も最近になって取り組み始め課題です。セーフティーの問題は医療事故に似ているところがあります。これは、高齢者の重大な発作でお話ししたように、低い頻度で起こる課題にどう備えるかという問題でもあります。対応は即時かもしれませんけれども、やはり観察は長期にわたっておこなっていないといけないのだと思います。
医療の経験から申せば、どんなシステムにも必ず揺れがあるし、そこに人が絡めば思わぬことが起こります。それほど高い頻度でなくても、長い期間にはどんな低い頻度のことも現象として現れます。そういう意味で、医療とファクトリーセーフティーは共通点があります。今回はものづくりが重点かもしれませんが、これが社会の中での価値創造ということになると、全く医療と同じです。本当によいことをしているのかという評価の問題でもあります。
それから情報社会は、夢ばかりではないのだということを、いつも心掛けておかないといけないと思います。悪夢があるのです。それは間違った情報が急に広まる風評被害もあるでしょうし、自分たちも知らないときに思わぬことをしているかもしれません。夢ばかりに気を取られていると、悪夢で足元をすくわれるのではないかと思います。いずれ後先の問題になるのではないかと思います。
望月:表裏の関係は、どの分野でもありますね。すみません、先ほどのケア食のお話に戻ります。あちらの方でお伺いしていたのが、シミュレーション、エミュレーションと、実際の物理的なデータを突き合わせて、リアルタイムできちんと判断していきましょうという話がありました。よく聞くのはサイバーとフィジカルのシステムであるとか、最近GEなどが言っていますが、デジタルツインのようものと近いというふうに考えていいのですか。
早川:近いと考えます。デジタルツインやCPSというのは、現場のデータを計算機の中で実現したモデルに入れて、そこからまたフィードバックを掛けるということが基本だと思います。われわれが現場で起こっていることをシミュレーションしていることは、現場を計算機の中で実現しているということで、やはりツインになっていると思います。そういう意味では近しいと思います。
望月:なるほど、逆に言うと、今回やっているImPACTの方での独自性のようなところというのは、どういうふうになってくるのでしょうか。
早川:通常は計算機の中で工場のモデルを作って、実データを配って、そこから出てくる価値を戻すのですけれども、あくまでも計算機の中ではデータを作るのです。それを突き合わせて、攻撃されているかどうか、故障しているかどうかを検知しているというところが違います。

予見先取とリアルタイム処理

望月:それで予見先手というに話につながってくるということですね。あらためまして、このImPACTのプロジェクトで、今回のファクトリー並びのポイントというと、どういう特徴があるのでしょうか。先ほどのヘルスの方では、時系列というところが一番の特徴でした。長いスパンで、頻度の低い重大な病気に対して、しかも谷に落ちないで、医療費の高騰に対して対策していくことでした。一番大きな違いというのは時系列だというお話を、先ほどヘルスケアの方では伺いました。あらためまして、このファクトリー編の方では、いろいろなプロジェクト、工場のプロジェクト、IoT、いろいろあると思うのですけれども、一番のポイントはどこになるのでしょうか。
早川:それは、つながる工場の中に流れている全てのデータから、瞬時に結果を出すということが大きなポイントだと思います。実時間処理のところがポイントだと思います。通常、実時間処理をやるときはデータを絞るのですけれども、われわれはホールデータで持っているリアルタイム処理です。ここの部分だと思います。
望月:原田先生はどうですか。
原田:私は工場の専門家ではないので、外からの目線でお話をします。本プロジェクトの特徴はやはり過去のデータなしで予見をしていくというところです。そのなかできちんと時系列を作っていくところだと考えています。今までは過去のデータから時系列を作っていきましたが、今度は予見で次の時系列を作って、実際の時系列データとの違いを見ていくということがポイントであると考えます。大きな違いは後ろ向きか前向きかどちらで見るのかという話になっているような気がするのです。本プロジェクトで検討する工場は、特に長い間ビッグデータ活用で検討されてきたレガシーのプラントとこの点が異なると考えています。
あと、先ほども少しあったのですが、単純にセキュリティの部分でも本プロジェクトが検討する部分は、完成形がまともなのに食べたら駄目になるという、要するにフェイルではないという風に出てくるのに、食べたら大変になってくるという問題を、どうやって検知し、直すかです。写真で撮影すると、単なるジャガイモのスープに見えるのですけれども、中身が何か分からないのです。その成分まで分析できません。今回はお弁当という例を出しているのも、弁当は日に何回も生産しないといけないので、時間のリミットが決まっているなかでどのように高速に誤りを検出するのかということです。お弁当を食べるのは、1日に3回しかないので、生産上の時間のリミットが決まっています。要するに、かなり制限を付けた中なのです。お弁当は、ただのお題にすぎません。制限時間内で予見を使いながら、時系列を作って、どうやってこういうセキュリティ系の問題を解いていくのかというところが、ポイントではないかと思っています。
望月:なるほど。工場のビッグデータは大量にあるデータだけだというふうに考えると、昔から半導体の世界でも、In-situ MonitoringやStatistical Process Controlをやって、とにかく大量にデータを取っておきました。そういうデータを使って、不良が出たときに後で解析していたというイメージが相当あります。そうではなくて、リアルタイムで処理をして、実時間処理によって予見していくということを、あらかじめきちんと盛り込んだ形でのシステムを作っていきましょうとも理解できますか。
原田:はい、そのとおりです。
望月:分かりました、ありがとうございます、少しほっとしました。すみません、ちなみに、医療の話と製造の話、ヘルスケアとファクトリーの話で、今回のお話をいろいろさせていただきましたけれども、喜連川先生が最初に出していただいたデータで、産業界としてはいっぱいあるということでした。こういうような今回のやり方というのは、他の産業にも相当影響を与えていただきたいのですが、どんな分野があり得ますでしょうか。

本プログラムにおいて開発されるフレームワークの展開

喜連川:原則は、このヘルスケアとマニファクチャリングというものを一つの皮切りにしていただいて、そのフレームワークがいろいろな領域に適用されるということが、今後大きく期待されるのではないかと思います。三菱さんがおっしゃられましたように、大きな工場で流体系の物を、プラント化、非プラント化、製造化というので分類されるわけです。何だか分からないけれども、ここでさびが起きるというようなことを、結構皆さん悩んでおられるところが、データによって少しずつ分かってくるというようなことも、随分期待されるところだと思います。
人というものに着目すると、今は健康をやっておりますけれども、やはり人々の実際の仕事の生産性というものを見たときに、どうオプトインしながら長いスパンのデータを取るかというのは、多分同じフレームワークで回さざるを得ないような状況になると思うのです。時系列というものが、人でないものでは簡単にできるわけです。人になった瞬間、CCCがやっているような丁寧なオプトインというもののフレームワークを、どんどん日本が積極的にやっていく必要があります。そういう意味で言いますと、私どもが見ていますと、かなりいろいろな領域があります。
例えば鉄道というものを見ますと、大体4分の1がもうメンテナンスになっているわけです。そこをどう効率化するかという面もあります。また、鉄道で運転手さんという面で見ますと、今のバスの交通事故も含めて、今度は人というもののオペレーションを見ることになります。こういうものをつなぎ合わせていきますと、より非常に広い世界が見えてくるようなことがあります。非常に漠としていますけれども、次のステージはそういうところに入ってくるかなという感じがします。
冒頭で原田先生が、医療というのは情報を幾らでも出せるけれども、結局お医者さまが何をしているのかよく分からないというようなこともおっしゃられました。では、この前の囲碁でDeep Mindが勝ったのは、あれは何なのだと言ったときに、あの一手はビューティーだと言ったのです。ものすごく美しい手だということです。あの一手を与えられたときに、人間が咀嚼(そしゃく)できるかというと、多分できないのです。ただ信じてその手をやっただけの話です。お医者さまが最終的な結論を与えられても、やはりそれは分からないのです。なぜ今、こうなってしまったのか、おかしいから、とりあえず工場をストップしましょう。しかし、どうしてそうなのかということを咀嚼するのは、まだ人間にはできないのです。
こういうことを、今われわれができるということを申し上げるつもりはないのですが、その取っ掛かりを示す大きなプロジェクトにこれが発展するということです。ただ、その前段でマネタイズになり、十分それがペイするようなところまで持っていきたいというのが今回の流れではないかと思っております。