#3 SATREPS(地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム)

国際部
SATREPSグループ

齋藤 奈津美係員

2018年入職

矢作 雄人主査

2016年入職

開発途上国のニーズをもとに、地球規模課題の解決に貢献

 JSTには国際的な共同研究を支援するプログラムが複数あります。SATREPS(地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム)はそのうちの一つ。国際部のSATREPSグループ、矢作主査は設立経緯をこう説明します。
 「平成20(2008)年の内閣府の総合科学技術会議(現在の総合科学技術・イノベーション会議)で、科学技術の振興と人材育成、人材開発を相互に促進する手段として、開発途上国のニーズに基づいた共同研究の実施と、大学・研究機関などの能力向上の必要性が認識されました。そしてこれが国の重要政策の一つとして位置づけられました。SATREPSはその実践のために創設されたプログラムです」。
 SATREPSが扱う予算は、ODA(政府開発援助)と政府の科学技術予算を組み合わせた形になっていますが、JSTでは研究開発支援にとどまらず、開発途上国のニーズに応え、人材の交流や、日本の優れた技術を相手国に移転することなどを通して、地球規模課題を解決し、持続可能な社会の発展を目指す研究課題を扱っています。具体的な取り組みには、日本の研究者が開発途上国に赴いて現地の研究者とともに調査・研究をする、相手国の研究者を日本に招いて知識や技術を学んでもらう、研究に必要な機材や設備を提供する、などがあります。
 「組織としては、文部科学省所管のJSTと外務省所管のJICA(国際協力機構)が連携してプログラムを実施しています(感染症分野の研究課題は、AMED(日本医療研究開発機構)も参加)。JSTは主に日本における活動の支援を、JICAは主に相手国における活動の支援を担って、開発途上国の科学技術力の向上や人材育成、自立的・持続的活動の体制構築を図っています」(矢作)。

SATREPSの概要

SATREPSは、JSTとJICAが連携し以下3つのポイントの達成を目指しています。

  • 1.日本と開発途上国との国際科学技術協力の強化
  • 2.地球規模課題の解決と科学技術水準の向上につながる新たな知見や技術の獲得、これらを通じたイノベーションの創出
  • 3.キャパシティ・ディベロップメント※

※キャパシティ・ディベロップメント:国際共同研究を通じた開発途上国の自立的研究開発能力の向上と課題解決に資する持続的活動体制の構築、
また、地球の未来を担う日本と途上国の人材育成とネットワークの形成

~研究成果の社会実装に向けて~

これまで、個別に取り組まれてきたもの同士が手を取り合うことによって生まれる相乗効果を狙った、一石三鳥のプログラムです。

科学技術の振興

研究・開発、イノベーションの促進

国際協力

ODA・開発援助

グローバルなニーズへの対応

地球規模課題の解決とそれに対する科学技術コミュニティの貢献

ローカルなニーズへの対応

開発途上国においてローカルなニーズとして露見している課題への対応&キャパシティ・ディベロップメント

日本の能力とパワー

世界をリードする高い技術力とこれまでの研究実績
ソフトパワー

途上国の能力とポテンシャル

地球規模課題の研究フィールドや対象物、関連データや経験・知見、新たな市場・産業、グローバル・エコノミーへの貢献のチャンス

国と国、組織と組織の間に立って円滑な推進を目指す

 SATREPSグループのメンバーの一人、入職3年目の齋藤係員は法学部の出身。就職活動に際しては政策と実務をつなぐような公的職務を志向していたと振り返ります。「大学のゼミでは開発途上国の法整備支援などを研究する開発法学を学びました。そうしたことからSATREPSを知り、JSTに興味を持ちました」。
SATREPSプログラムを実施する上では、日本と相手国との間で様々な調整が必要になります。JSTとJICAの間でも連携が必要です。齋藤係員は主に日本国内における調整業務を担当し、プロジェクト全体が円滑に進むように支えています。
 グループの業務には大きく、事業全体の運営を担う共通業務と、個別のプロジェクトを扱う課題管理業務の二つがあります。
 共通業務では、矢作主査は予算と契約関連の業務を、齋藤係員は公募や委員会運営、外部有識者への委員委嘱管理、パンフレット作成などに携わっています。
 「予算・契約では、研究者の皆さんにとってよりよい制度、すなわち使いやすい研究費となるよう、国の予算であることも意識しながら、常にルールの改善を検討しています」(矢作)。
 公募の方針は文部科学省、外務省、JST、JICA、AMEDの5機関の意見を反映させて決め、さらにJST内部の意見統一も必要になります。「SATREPSは国内の研究支援プログラムと比べると関係者が多様で、意見もさまざまであるため、調整が大変です」(齋藤)。

世界各国で進行する数々のプロジェクトを管理・運営

 進行中のプロジェクトは現在、世界38カ国70課題に及び、環境、低炭素、生物資源、防災の4つの研究領域に区分されています。職員一人ひとりが担当プロジェクトを持ち、研究者や関係機関からの問い合わせ対応、研究の進捗管理、評価などを行っています。
 現在、矢作主査が担当しているプロジェクトは、インドでのスマートシティ構築に向けての交通問題の解決と、ケニアでの地熱発電の発展です。
 「インドでは経済発展とともに交通量が激増し、大気汚染などの環境問題が深刻になっています。これには公共交通機関を利用しない人が多いなど、インドならではの特性も内包されています。そこでAIを用いた画像認識、ビッグデータ処理、センシングなどの最新技術を用いてマルチモーダル化(複数の交通機関への分散)、スマートモビリティを実現しようとしています」(矢作)。
 ケニアでは、東アフリカのグレートリフトバレー(大地溝帯)で行われてきた地熱発電の発展が成果目標です。「最新の物理探査、地質・地化学調査などを活用して地熱資源の構造を解明し、地熱エネルギーの安定供給はもちろん、温水栽培、温水プールなども含めた、包括的な地熱開発を目指しています」(矢作)。
 一方、齋藤係員が担当するのは、ミャンマーにおけるイネゲノム育種システムの構築と、ボリビアのキヌア生産技術の開発です。「ミャンマーのイネ作付面積の約半分を占める非かんがい地域など、現地の自然・社会経済環境に適した高性能なイネ品種の開発と普及を目指します。キヌアはボリビア国民にとっては主食となる穀物ですが、気候変動などによってその生産が危機に瀕しています。そのため、遺伝資源の整備、育種素材の開発、休閑地管理や耕畜連携の改善などにより、持続可能な生産技術の開発しようという研究が進められています」(齋藤)。
 どのプロジェクトも相手国の特性や需要の理解のもとに進める必要があります。例えばインドでは、政府が全土に100のスマートシティを建設する計画があり、こうした政策も背景になっています。
 SATREPSの大きな特徴は「持続性」を重視している点です。研究成果が出たらそこで終わりではなく、相手国が成果を活用し、自立的かつ持続的に発展を続けられるように促す基本姿勢は、多くの開発途上国から感謝されるようになってきました。これはまた、国連が提唱しているSDGs(持続可能な開発目標)の達成という期待に応えるものでもあります。

持続的発展を視野に、相手国の人材育成も大きな目的

 このように持続的発展のための科学技術力向上を視野に入れていることから、SATREPSは研究開発支援だけでなく、成果の社会実装や相手国の人材育成も目的のひとつとしています。矢作主査は研究者からの進捗報告や現地調査結果を聞くと、SATREPSが相手国の課題解決に貢献していることを実感するといいます。
 「特に人材育成は、個人的にも大きなやりがいにつながっています。日本に留学してきた相手国の研究者の熱心な姿勢を見たときなどは、支援をしていることに喜びを感じますし、私自身の刺激にもなります。また、日本の研究者も開発途上国の研究者と出会うことで気づきがあるようです。若い研究者同士のコミュニケーションを見ていると、将来に向けた種まきとなっているとも感じます。」(矢作)。
 齋藤係員も、両国の研究者が共同で研究する場を直接見たり、報告書を通じて担当課題の研究成果を知ったときに、やりがいを感じるといいます。
 「職員も現地調査に同行するほか、問題が発生したときなどには研究代表者、JSTの研究主幹、JICA担当者などが集まって議論をする場を設けています。そうした場では国際共同研究の難しさを痛感するだけに、担当課題から成果が生まれたときには大きなやりがいを感じますし、JST職員としてできることは何かをあらためて考えるきっかけにもなります」(齋藤)。
 新型コロナウイルス感染拡大の状況下では、対面で集まる機会は減ったものの、リモートの会議などは増え、遠隔地の研究者が議論に参加しやすくなるという利点も出てきました。今後も、日本と開発途上国との科学技術協力が絶えることはなく、さらに拡充、発展していくでしょう。

※所属部署および掲載内容は取材当時のものです
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