(社)未踏科学技術協会 超伝導科学技術研究会 第71回ワークショップ「鉄系高温超伝導誕生から1年、新超伝導物質の可能性を探る」開催報告

2009年3月11日、東京大学武田ホールにおいて、(社)未踏科学技術協会が主催するワークショップが開催されました。東京工業大学・細野秀雄教授のグループによる鉄系高温超伝導体の発見から1年が経過し、この鉄系高温超伝導体群の特徴や将来性を議論するとともに、次なる新超伝導体開拓に向けてのヒントを得る機会にすることを趣旨としたもので、約80名の方が会場に集まりました。ワークショップは、概ね以下3つのセッションから構成されました。各セッションで議論された内容を、簡単にご紹介いたします。

研究総括 福山秀敏東京理科大学教授 第1部では、はじめに、JSTで研究領域「新規材料による高温超伝導基盤技術」(愛称:TRIP)の研究総括を務める福山秀敏・東京理科大学教授から、「鉄系高温超伝導体登場のインパクト」と題して、当該物質に関する世界の研究動向のレビューとともに、鉄系超伝導を銅酸化物系超伝導や重い電子系の超伝導と対比させた興味深い話題提供がありました。ついで、鉄系高温超伝導物質の発見者でもあるJST/東京工業大学の神原陽一研究員による、物質発見の舞台裏および物質全般の特徴についての講演がありました。同研究員は講演の中で、鉄系高温超伝導体の発見は、透明酸化物半導体および透明磁性半導体探索の研究を端緒とした系統的な実験(元素置換等)に基づくものであるが、電気輸送物性の温度依存性に見られた挙動を見逃さずに研究を進めたことが大きなブレークスルーに繋がったとお話しされ、また細野グループが進めているエピタキシャル薄膜の作製等をはじめとする、その後現在までの展開などについても発表されました。

第2部では、物質科学としての興味および期待といった視点からの講演がありました。最前線で繰り広げられている研究成果の紹介およびその解析などを通じて、超伝導転移温度(Tc)と幾何学的および電子的構造パラメータとの相関などについて議論が展開されました。こうした相関から、今後何らかの物質設計指針が導かれ、55ケルビンの壁を破る新たな結晶構造群および物質群の発見に期待したいところです。

最後の第3部では、材料としての期待(金属系、銅酸化物系に続く第3の高温超伝導材料になるか?)といった視点からの講演がありました。応用上重要となる物性は、Tc、上部臨界磁場(Hc2)、臨界電流密度(Jc)であり、現在までに鉄系は比較的高いHc2を有することが知られています。こうしたこと等から、冷凍機冷却の高磁場マグネットとしての資質は十分にあるのではないかという発表がありました。一方線材などへの応用においては、Jcにも関心が集まります。現在までのところ、粒内のJcはかなり高いものの、粒と粒の間のJcは低いとの報告があり、このことが本質的ものであるのかそうでないのかを詳細に検証する必要がありそうです。いずれにせよ、今後より高品質な試料の作製等によってこれらの理解が進むことを期待したいところです。

なお今回のワークショップで講演者を務められた講演者のうち、ほぼ多数がTRIPで研究を進める方々たちです。今後のTRIPの研究活動に、是非ともご期待下さい。

(JST研究プロジェクト推進部 古川雅士)