「鉄系超伝導体北京国際ワークショップ」開催レポート
-2008年10月17日~19日 中国科学院物理学研究所(北京)-

中国科学院物理学研究所

2008年2月に東京工業大学・細野秀雄教授のグループが発表した鉄を含むオキシニクタイド化合物(LaFeAsO1-xFx )超伝導体は世界中の研究者に驚きをもって迎え入れられ、中国をはじめ世界中で研究フィーバーをわき起こしています。
この鉄系超伝導化合物に関する国際ワークショップ(正式名称"Beijing International Workshop on Iron (Nickel) - Based Superconductors")が10月17日から3日間にわたって北京にある中国科学院物理学研究所において開催されました。中国・日本はもちろんのことアメリカやヨーロッパからも、総勢200名近い研究者が集い、終始活発な議論が繰り広げられました。会場となった中国科学院物理学研究所(写真右)は、今回の鉄系超伝導研究を世界的に牽引する一大勢力のひとつとして、細野化合物合成の追試にいち早く成功し、「細野化合物」の元素置換で臨界温度のレコードを保持するグループでもあります。
以下に、このワークショップで議論されたことのトピックスや鉄系超伝導研究の動向を紹介しておきます。

鉄系超伝導物質の結晶構造

この8ヶ月の間に、鉄系で超伝導を示す結晶構造群には、上図に示すように4種類のものが見つかりました。それらは、(1)「1111型」:LaFeAsO1-xFx やSmFeAsO1-xFx など、(2)「111型」:LiFeAsなど、(3)「11型」:FeSeやFeTeなど、(4)「122型」:BaFe2As2など、の4種類です。またFeサイトの一部を他の遷移金属(CoやMn)で置換した物質においても超伝導現象が発現ことも発表されました。従来、超伝導の阻害要因になると考えられていた遷移金属を含む多くの材料で超伝導が見いだされたということから、さらなる元素の組み合わせによって、今後、より多くの新しい超伝導物質が探索され、発見されるのではないかと期待が膨らんでいます。

会場風景

会場からは、世界各国のこの研究への強い「意気込み」が感じられました。「意気込み」の一例として、まずドイツでは、ドレスデンのライプニッツ固体物理学研究所において同様の国際ワークショップが10月下旬に開催されるとともに、ドイツ学術振興会がこの研究に関する国家的なプロジェクトを発足させる予定であるとのことです。またアメリカでは、11月にプリンストン大学及びメリーランド大学を会場に2つの国際ワークショップが相次いで開催されるとのことです。主催国中国については、何より、今回の国際ワークショップに参加していた多くの研究者(取り分け30歳にも満たないような若い大学院生クラス)の「真剣な眼差し」が印象的で、発表者らに大変熱心に質問を投げかけていました。今後、世界中の研究者が互いに交流し情報を交換することによって、この研究がさらに加速することが期待されています。JSTは、6月に開催したシンポジウムや10月に発足した研究領域「新規材料による高温超伝導基盤技術」などを通じて、この研究の発展をサポートしています。
(参加したJST職員、古川雅士・屠耿の報告にもとづき記載)