岩佐 豪

Takeshi Iwasa

独立行政法人 科学技術振興機構(JST)
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Metal cluster compounds

これまで1ナノメートルサイズの有機-金属複合クラスターの電子物性、特に光学特性に興味を持って研究を進めてきた.

金クラスター化合物は、バルクでは見られない発光性や磁性、あるいは触媒活性を持つ超原子として新たなナノ材料としての注目を浴びていた.しかし2007年当時になってようやく一連の金チオラートクラスターの精密合成から単離精製が達成されたところであり、構造や電子物性は未解明であった.そこで、特に安定と言われていたAu25SR18(SR=グルタチオンなど)を対象として電子物性の理解を目的としてまず構造特定を行い、Au7クラスター(core)をリング状の金チオラート錯体(cage)が保護する構造(図1)を提唱した[1].同化合物のメスバウアースペクトルに関して実験グループと共同研究を行った[2].更にイオン状態で高スピン状態になることを明らかにした[3].

その後、同じく金原子25個を持つが、2つの金13量体クラスターが1つの金原子を共有して連結した構造(図2)を持つ金クラスターの電子状態と吸収スペクトルの解析を行い、連結により新たな吸収ピークが発現することを明らかにした.更に3量体構造(図2)も存在し得ることと共に、連結した金13クラスターの数と対応して吸収ピークの数が増えることを明らかにした[4].

gold cluster compounds

Nonuniform light-matter interaction

金属や半導体のナノ構造を周期的に配列させた系では通常の物質とは異なる光学特性を持つことが知られており、ナノフォトニクスやプラズモニクスへと展開されている.同様に、高い安定性と特異な物性を示す1nm程度の大きさを持つクラスターを機能単位としたナノ集積構造においても通常の固体とは異なる光学特性を持つことが期待される.光と物質の相互作用は古くから研究が行われているが、光を介してどのようにナノ構造やクラスターの間の相互作用するかは必ずしも明らかではない.ナノメートル領域で配列した構造体においては、近接場光と呼ばれる物質近傍に局在する電磁場がナノ構造間の相互作用の担い手になるとされているが、詳細な理解がなされているとは必ずしも十分とは言えず、また物質固有の電子状態が重要になる系において理論的な研究を行うための数値計算の手法の開発も未開拓である.

通常の光学応答、例えば分子を一般的なレーザーなどによって励起する際には、伝搬光の波長が分子の大きさよりもはるかに長いため、分子を点双極子とみなした双極子近似が適用できる.ただし、双極子近似では、電場の空間構造あるいは電場が再生成される効果を含まないため、局在性が強い近接場光の空間的非一様性の効果と、光励起された物質によって電場が再生成される効果を記述できない.そこで、本研究では数ナノメートル程度の大きさを持つ物質と近接場光との相互作用を理解すると共に、多様な物質に対して適用可能な光学応答理論の開発を行った.今回は近接場光の非一様性に着目した.

電場の空間構造を取り込んだ光-物質相互作用を数値計算で取り扱う為、多重極ハミルトニアンに基づいた 定式化とプログラム開発を行ない、これらを用いて実在分子系の近接場光励起を調べた.簡単な直線分子において、近接場光の空間構造を反映した複雑な電子ダイナミクスが起こり、分子の対称性を大きく破り、結果として高調波が特異的に誘起される事を明らかにした(図3)[5].

更に、上記手法の応用例として、急峻な強度勾配を持つ近接場光励起(図 4a,b)によって物質内に非一様な 分極が生じ、これと近接場光の相互作用から物質に力学的な力が働く事を、金属球とC60分子において明らかにした. これらの力は必ずしも共鳴電子励起の条件下で最大になるわけではなく、物質内部の分極とそれを打ちけそうとする遮蔽の効果のバランスから決まることを理論的に明らかにした(図4c)[7].

nonuniform light-matter interaction

近接場光の局在性を利用することで、単一分子からでも構造並びに電子物性の情報を引き出せるとともに、新たな光物性や分光法の開拓が出来る.本計算手法を応用すれば、近接場光励起による単一分子の高調波イメージングの理論研究へと展開できる.また、今回導出した相互作用ハミルトニアンを用い、Maxwell方程式と組み合わせることで、光励起された物質内の電子による電場の再生成を取り扱えるようになり、近接場光と物質の間の相互作用をより深く理解することが出来る.

Organometallic clusters and surface vibrational spectroscopy

気相でのレーザー蒸発法では電子励起状態の関与した反応を起こすことが出来ることから、液相では存在し得なかった有機金属クラスターが合成出来ると共にそのサイズ選別も行うことが出来る. 気相合成されたクラスターの構造や物性を保持したまま単離する手法として、有機単分子膜表面への蒸着が報告されている. クラスターの構造解析には赤外反射吸収分光法(IRAS)が用いられるが、基板表面での赤外光の反射に伴う入射波と反射波の干渉の結果、表面垂直成分の電場のみが分子振動を励起する.そのため、通常の赤外分光とは選択則が異なり、理論的にIRASスペクトルを解析するには新たな手法が必要である. 本研究では、分子の双極子モーメントを基準座標で微分したベクトルを表面垂直方向に射影することで、表面での選択則を考慮し、数値計算プログラムを開発し、アルカンチオール単分子膜中に固定されたチタンアニリンクラスターのIRASスペクトル(図5右)の計算と解析を行い構造と電子状態の特定(図5左)を行った[8].

IRAS
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