Nonuniform light-matter interaction
金属や半導体のナノ構造を周期的に配列させた系では通常の物質とは異なる光学特性を持つことが知られており、ナノフォトニクスやプラズモニクスへと展開されている.同様に、高い安定性と特異な物性を示す1nm程度の大きさを持つクラスターを機能単位としたナノ集積構造においても通常の固体とは異なる光学特性を持つことが期待される.光と物質の相互作用は古くから研究が行われているが、光を介してどのようにナノ構造やクラスターの間の相互作用するかは必ずしも明らかではない.ナノメートル領域で配列した構造体においては、近接場光と呼ばれる物質近傍に局在する電磁場がナノ構造間の相互作用の担い手になるとされているが、詳細な理解がなされているとは必ずしも十分とは言えず、また物質固有の電子状態が重要になる系において理論的な研究を行うための数値計算の手法の開発も未開拓である.
通常の光学応答、例えば分子を一般的なレーザーなどによって励起する際には、伝搬光の波長が分子の大きさよりもはるかに長いため、分子を点双極子とみなした双極子近似が適用できる.ただし、双極子近似では、電場の空間構造あるいは電場が再生成される効果を含まないため、局在性が強い近接場光の空間的非一様性の効果と、光励起された物質によって電場が再生成される効果を記述できない.そこで、本研究では数ナノメートル程度の大きさを持つ物質と近接場光との相互作用を理解すると共に、多様な物質に対して適用可能な光学応答理論の開発を行った.今回は近接場光の非一様性に着目した.
電場の空間構造を取り込んだ光-物質相互作用を数値計算で取り扱う為、多重極ハミルトニアンに基づいた 定式化とプログラム開発を行ない、これらを用いて実在分子系の近接場光励起を調べた.簡単な直線分子において、近接場光の空間構造を反映した複雑な電子ダイナミクスが起こり、分子の対称性を大きく破り、結果として高調波が特異的に誘起される事を明らかにした(図3)[5].
更に、上記手法の応用例として、急峻な強度勾配を持つ近接場光励起(図 4a,b)によって物質内に非一様な 分極が生じ、これと近接場光の相互作用から物質に力学的な力が働く事を、金属球とC60分子において明らかにした. これらの力は必ずしも共鳴電子励起の条件下で最大になるわけではなく、物質内部の分極とそれを打ちけそうとする遮蔽の効果のバランスから決まることを理論的に明らかにした(図4c)[7].
近接場光の局在性を利用することで、単一分子からでも構造並びに電子物性の情報を引き出せるとともに、新たな光物性や分光法の開拓が出来る.本計算手法を応用すれば、近接場光励起による単一分子の高調波イメージングの理論研究へと展開できる.また、今回導出した相互作用ハミルトニアンを用い、Maxwell方程式と組み合わせることで、光励起された物質内の電子による電場の再生成を取り扱えるようになり、近接場光と物質の間の相互作用をより深く理解することが出来る.