平成17年10月26日
学校法人東京理科大学
独立行政法人科学技術振興機構






「窒化物半導体による水からの水素製造 」
― クリーンエネルギーからクリーンエネルギーを生み出す ―


 東京理科大学(理事長 塚本 桓世)と科学技術振興機構(理事長 沖村 憲樹)は共同で、窒化物半導体の光触媒機能を用いて水から水素を発生させることに世界で初めて成功した。
 これは東京理科大学理学部 大川和宏 助教授と科学技術振興機構のERATO創造科学技術推進事業「中村不均一結晶プロジェクト」(総括責任者 中村 修二 カリフォルニア大学サンタバーバラ校・教授)との共同研究により進めている研究の一環として得られた成果であり、現在、青色発光ダイオードや青色レーザーダイオードなど発光デバイスにおいて主要な役割を果たしている窒化ガリウム(GaN)の新たな光触媒作用の確認に成功したものである。本研究成果は、窒化物半導体を用いて電気エネルギーを光として取り出す従来の「発光」の性質の逆を利用し、光を窒化物半導体に吸収させて水を電気分解させるという原理に基づいている。
 大川助教授らの今回の成果では、窒化物半導体表面で太陽光を吸収させ、光触媒効果により直接水を分解することを可能にしている。
 太陽光より直接得られる水素はクリーンでリサイクルが可能なエネルギーとされ、今後 燃料電池などへの応用が期待される。環境負荷の少ない窒化物半導体と、地球上に豊富に存在する水を用いて水素を発生させるという今回の成果は、今後のクリーンエネルギー社会に大きく貢献する技術として期待が高まる。東京理科大学大川研究室が共同参加するJSTの同プロジェクトは、先月JSTが開催したレクチャー会の場においても、発光ダイオードの効率を高める新たな窒化物半導体開発に成功したことを報告しているが、大川助教授は同プロジェクトのグループリーダーの立場も務める。今後は共同研究を希望する企業との連携を図り、実用化へ向けた応用研究を進める予定である。





窒化物半導体による水からの水素製造


概 略
 窒化物半導体の光触媒機能によって水からの水素発生に世界で初めて成功した。
基本特許が来月初旬には成立予定である。
 環境負荷の少ない窒化物半導体を用いて、クリーンエネルギー(太陽エネルギー)からクリーンエネルギー(水素エネルギー)を生み出すことができた。今後、効率をあげることによって、クリーンエネルギー社会に貢献する技術になるだろう。


位置付け
 【歴史的】
 1972年に米国科学誌Natureに報告された本多・藤嶋効果を窒化物半導体で確認した。窒化物半導体は、1994年から青色LED材料として脚光を浴びている。この窒化物半導体に光触媒機能があり、水から水素を製造できることを実証した。
 【社会的】
 コップ一杯の水(200ml)には270リットルの水素と135リットルの酸素が含まれている。水素は、将来の熱源(コンロ等)や動力源(燃料電池等)用のガスとして期待されている。水素は燃えても水に戻り、炭酸ガスや窒素酸化物などの環境を悪化させるようなガスを全く発生させない。現在の水素製造方法は都市ガスの改質やアルコールの改質など、二酸化炭素の発生を伴う。今回の方法は、太陽光エネルギーを用いて水から水素ガスを取り出す光触媒法である。
 窒化物半導体は、GaAs系半導体等の化合物半導体の中でも特に低毒性で環境負荷の低い物質である。この物質に水素製造のための光触媒機能があることを確認した。
 【学術的】
 従来の水素発生の光触媒物質である酸化物は、バンドギャップ制御が困難であったり、両性(n型,p型)電気伝導制御が困難などの問題があった。バンドギャップや電気伝導が制御できる半導体光触媒は有害物を含むなどの問題があった。特に、従来の光触媒物質では可視域に感度をもたせることが容易でなかった。
 窒化物半導体は、バンドギャップは紫外領域から可視・赤外領域まで変化させることが可能である。即ち太陽光を用いた水素発生のための光触媒反応に有効な可視〜紫外領域を網羅することができ、更なる効率の改善が期待できる。我々はInGaNでこの可能性を実証した。
 また窒化物半導体はn型だけでなくp型伝導も容易である。従来の光触媒物質は水を酸化すると同時に自分自身も酸化・腐食させる問題があった。しかしp型物質を使うと表面での反応は酸化反応ではなく還元反応になるため、物質の腐食の問題が無くなることが期待される。我々はp型もn型同様に光触媒物質であることを示した。
 しかも窒化物半導体はAsやCdなどの有害物を含まず環境にやさしい。


現 状
 【現在の性能】
 太陽光の1.5倍のパワーのキセノン光を用いて、n型GaN光触媒からの水素の発生量は、バイアスを1 V印加時で数時間に1cc程度である。そのエネルギー効率は0.5%である。この値は光触媒として一般的なn型TiOの約2%には及ばないものの、TiOはGaNに比べてキセノン光を多く吸収できることを考慮すると、その差は格段に縮まる。
 Inを導入してInGaNとしてバンドギャップを小さくすると発生量が約1.3倍(効率0.7%)になることが確認され、改善の余地が多数あることを確認している。
 【オリジナリティ】
・窒化物半導体で水から水素発生することを世界で初めて実証した。
・p型窒化物半導体も光触媒になることを示した。
・InGaN等を用いてバンドギャップを制御すれば、効率が上がることを示した。
・この窒化物半導体を用いた水素発生の分野における特許は、大川らのグループしか出願していない。
 【他機関との比較】
 光触媒の最近の研究として、今まで盛んに研究されていた酸化物光触媒に窒素を混ぜることが行われている。例えばTiOに代わって、TaONやTiNOF、GaNZnO固溶体など(東大工学部堂免教授ら)、また窒化物でなく燐化物であるGaInP(米国National Renewable Energy Laboratory, J. A. Turnerら)などが試みられている。
 我々はアニオン(陰イオン、上記のO,N,F,Nに相当する分子の後半部)を窒素のみの窒化物に大きく踏み込んでいる。このような窒化物結晶を自前で出来るのも大きな特徴である。
 【他の技術との比較】
 注目されている水素発生技術は、4つある。1)都市ガスの改質、2)アルコールからの水素製造、3)太陽電池による水の電気分解、4)光触媒である。
 1,2)の技術では水素と共に炭酸ガスも発生するため、完全なクリーン技術ではない。3,4)はクリーン技術である。3)の太陽電池は、太陽光エネルギー → 電気エネルギー → 水素エネルギーとエネルギー変換するものであるが、4)の光触媒は、太陽光エネルギー → 水素エネルギーへの直接変換である。今後の効率次第では4)が有利になるであろう。


将 来
 【どこまで効率は上がるか?】
 効率は、構造や結晶性などの最適化によって現在の十倍以上になることが期待される。将来的には太陽光下で効率20%は可能であると思う。
 【コスト?】
 触媒として長く使えれば、コストは時間と共に低下すると期待される。太陽電池開発の歴史のように環境に優しくても、コストの面での課題は山積みである。企業との連携等が必要となるだろう。


 <本件に関する特許出願>




●本件問い合わせ先●
坂田 雅昭(さかた まさあき)
 独立行政法人 科学技術振興機構 中村不均一結晶プロジェクト事務所
 〒102-0071 東京都千代田区富士見2-4-6 宝紙業5号館ビル101
 TEL:03-3262-1243 FAX:03-3262-1481
 e-mail: sakata@nicp.jst.go.jp


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