出資型新事業創出支援プログラム(SUCCESS)

インタビュー

起業のための準備を
JSTの助成をきっかけに加速

株式会社Kyulux
代表取締役社長 安達 淳治氏
最高財務責任者 水口 啓氏

Kyulux社は、九州大学で発明された画期的な技術を活用して、有機ELディスプレイの次世代発光技術を開発しています。国内の電機メーカーが有機ELディスプレイ生産から撤退した時期だったため、資金調達に苦労し、起業までの道のりは険しいものだったと振り返る代表取締役社長の安達淳治氏、また同氏と二人三脚で事業を推進してきた最高財務責任者の水口啓氏に、起業までの道のりとその過程で活用した制度や支援、これからのビジョンについて話をお聞きしました。

安価かつパフォーマンスの高い画期的な有機EL発光技術を開発

Q、まずは、会社概要についてご紹介ください。

安達 当社は、2012年に九州大学の安達千波矢教授と彼の研究グループが発明した「TADF(Thermally Activated Delayed Fluorescence)」という新しい発光材料を用いた、よりコストパフォーマンスに優れ、より効率的な、有機ELディスプレイや照明パネルの発光技術Hyperfluorescence™を開発しています。

Q、効率的な発光技術とは、具体的にはどのようなものなのでしょう?

安達 スマートフォンや大型テレビに用いられる有機ELディスプレイに使われている発光材料は、実はまだ不完全なものなんです。有機ELディスプレイは、電荷が光に変換されて発光します。第一世代と呼ばれる「蛍光有機EL発光材料体」は色純度が高く美しい光を出せるのですが、電荷から光への変換効率がわずか25%と非常に悪いことがネックでした。一方、第二世代と呼ばれる「燐光発光材料体」は、イリジウムというレアメタルを使うことで100%の内部量子効率(IQE)を達成できるのですが、このイリジウムは非常に高価なため、供給量が限られてしまう。さらに、青色の燐光発光体がまだ開発されていないため、そこは蛍光発光体に頼らざるを得ないのです。 そんな状況のなか、第三世代に当たる「TADF発光体」は、イリジウムを使わなくても100%のIQEを達成することができる。すなわち、TADFを蛍光発光材料と組み合わせるHyperfluorescence™であれば、純度の高い色を100%の変換効率で光らせることができるんです。安価でハイパフォーマンスなこの方法を、私たちは“究極の発光技術”と呼んでいます。

事業内容に理解が得られず、資金難を経験した起業前夜

Q、創業に至る経緯についてお聞かせください。

安達 このTADFを発明された安達先生は、第二世代の燐光発光体がプリンストン大学で発明されたときの研究メンバーだったんです。燐光発光体にはイリジウムが必要で青色を光らせられないという欠点があったので、安達先生は日本に帰国してからも第三世代の発光材料の研究を続けられていました。この研究が2009年に内閣府の最先端研究支援プログラム(FIRST)に採択されたことがブレイクスルーとなり、2012年にはTADFで100%のIQEを達成することができました。そこから実用化のためにベンチャー企業を設立する流れになり、2010年からこの研究に携わっていた私が中心となってKyuluxを創業しました。

Q、創業は2015年となっていますね。

安達 水口と出会ったのが2013年で、そこからふたりで起業の準備に入りました。資金調達のためにVCや事業会社を回ったのですが、当初は全く関心を寄せてもらえませんでした。国内の大手家電メーカー各社がディスプレイパネル事業から撤退したタイミングだったので、「もう終わった事業」みたいに思われてしまったんです。

水口 VC に勤めていた時代の伝手を辿って、知人や友人、そのまた友人のそのまた友人くらいまで回ったんですけどね(笑)。そうこうしているうちに研究支援プログラムが2013年度いっぱいで終了してしまいました。

安達 その段階ではまだ九州大学からの支援もあったので、細々とではありますが開発は継続できました。でも1年間しか費用のあてがなかったので、期限は迫っていました。3人で個人資金を投入しても先が見えていましたから、日本政策金融公庫から融資を受けつつ、海外まで対象を広げて出資企業を探しました。

水口 そこでようやく韓国の2社から出資を受けることが決まったんです。それが呼び水となって日本のVCからも資金が集まるようになり、投資条件が固まったので、JSTの出資型新事業創出支援プログラム「SUCCESS」から出資を受けることできました。

安達 JSTにはずいぶん前から相談させていただいていたのですが、(協調出資なので)民間のVCが動いて投資条件が決まらないとJST単独では動きようがなかったんですよね。

Q、SUCCESSの出資は民間からの出資と異なる部分はありますか?

水口 技術的な質問をたくさんいただいたので、そこに回答するのが大変でしたね。安達(淳)のプレゼンの技術が生きたのだと思います(笑)。

安達 技術的な説明を求められる分、出資を得られれば対外的に技術力の信頼が増すので、民間VCが安心して出資してくれるようになりました。特に中小のVCにとってはどこが出資を決めたかがとても重要なようです。技術について理解しているJSTが出資を決めたという事実は説得材料になりますね。

水口 助成金で技術を形にするサポートを行いつつ、出資という形で長期にわたって支援しつづけるというJSTの考え方は、ベンチャー企業にとってはとてもありがたいものだと思っています。

企業、自治体、大学などの支援を受けつつ、実用化に向けた取り組みを加速

Q、その後、開発は順調に進んだのでしょうか?

安達 有機ELディスプレイを光らせるためには、発光材料以外にもさまざまな有機材料が必要なので、他の材料を持っている材料メーカーと交渉して、材料を仕入れて組み合わせの試行錯誤を重ねました。実用化のために特に重視するのは寿命です。初期性能が高くてもそれが維持できなければ商品にはなりませんから。テレビであれば10万時間は維持できなければならないのですが、創業当初は、光の強さが半分に減退するまで、チャンピオンデータでも150時間程度しかもちませんでした。創業後1年間でこれを1500時間まで伸ばすことができましたが、それでもまだ足りません。そこで、出資を受けていた韓国のパネルメーカーの協力を得て、世界中の材料を試し、現在、5%減退するまで2万時間を超えるところまでこぎつけました。有機ELディスプレイの供給先の95%以上を占めるスマートフォンやテレビでは、まだ実用化に至っていませんが、産業用の単色ディスプレイは商品化することができました。

水口 材料開発は、いついい材料が出てくるかわからないので、ブレイクスルーが読みにくい部分があります。材料の組み合わせを効率よく研究するためには、材料分野の経験者だけでなく、デバイス研究の経験者も必要となります。

安達 開発においてはAIを使うのですが、ハーバード大学が発明したシステムのライセンスを取得し、それを使うことで、効果の高い組み合わせが見つかる可能性がそれまでの10倍以上になりました。

Q、人材の確保とシステムのブラッシュアップで実用化に向けた取り組みを加速しているのですね。他にもサポートしてくれる機関はあるのでしょうか。

安達 福岡県・福岡市のサポートは手厚いですね。福岡県が持っている財団法人に有機ELの材料の実用化を支援するセンターがあるのですが、そこが持つクリーンルームはベンチャー企業1社では持ち得ない高価なものなので、とても助かっています。九州大学の施設や設備も使わせていただいている。こういった支援はとてもありがたいです。

自分たちの強みを生かして、勇気を持って粘り強く挑戦してほしい

Q、若手研究者やスタートアップを考えている人たちにメッセージをお願いします。

安達 これからの時代は、日本が得意としているディープテック、すなわち一朝一夕では再現できない技術が必要とされると思っています。それを持って世界に挑戦してほしいですね。ただ、ディープテックは見えにくい部分なので、私たち同様、支援をもらうには時間がかかる可能性が高い。ぜひ諦めずに挑戦してほしいと思います。

水口 一歩を踏み出すときに、考えすぎてはいけないと思います。正解がない世界なので、歩きながら修正するくらいの気持ちが大切なのではないでしょうか。

Q、今後の目標と事業への思いをお聞かせください。

安達 いま私たちが挑戦しているディスプレイの新たな材料によって、皆さんがより綺麗でより高解像度な映像を、より低消費電力で見られるようになる。まずはそこが目標ですが、その先も、このユニークな発光方法を他の用途、例えばヘルスケアやバイオといった分野に展開することを考えています。まずは今の事業で成果を出し、将来的な展開につなげていきたいと思います。

〈水口啓氏は2023年9月30日にご逝去されました。謹んでご冥福をお祈り致します。〉

株式会社Kyulux

〒819-0388 福岡市西区九大新町4-1 福岡市産学連携交流センター 2号棟227号室

https://www.kyulux.com/

主な事業内容
レアメタルに頼ることなく、コストパフォーマンスに優れた、長寿命かつ高純度の発色、更には高効率な発光全てを実現するHyperfluorescence™/TADF発光技術を開発。次世代有機EL発光材料の開発・製造・販売を行う。

インタビュー一覧に戻る