さきがけ 研究者

研究課題名

物質輸送と界面反応を最適にするための電極微細構造のメソスケール制御加工

プロフィール

長藤 圭介
長藤 圭介
Keisuke Nagato

1981年 広島県生まれ。2009年 東京大学大学院 博士後期課程修了、博士(工学)。2006年 日本学術振興会 特別研究員(DC1)、2009年 東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻 助教、2012年 同講師。2012年 カールスルーエ工科大学 客員研究員。2016年 東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻 准教授、現在に至る。
研究分野:創造的生産技術、ナノ材料加工学
趣味:写真、観光

  • ※プロフィールは、終了時点のものです。

研究内容紹介

燃料電池は、水素や炭化水素の燃料の化学エネルギーを電気エネルギーに直接変換するため、ガスタービンや蒸気タービンなどの熱機関に比べて原理的に取り出せるエネルギーが高く、次世代の熱機関として期待されています。その中でも固体酸化物形燃料電池(Solid OxideFuel Cell, SOFC)は最も発電効率が高く、研究が盛んに行われていますが、製造コスト低減と実質発電効率向上がいまだに課題です。SOFC電極内の三次元微細構造の最適化は、酸化物イオン、電子、ガスが複雑に反応・輸送される際の内部抵抗を低減し、かつその微細構造を実用コストで製造する方法の開発が必要です。高温作動SOFC の燃料極では、イットリア安定化ジルコニア(Yttria-Stabilized Zirconia, YSZ)、Ni、空隙の三相から、空気極は、YSZ、ランタンストロンチウムマンガナイト(Lantan Strontium Manganite, LSM)、空隙の三相からなり、各相内で酸化物イオン、電子、反応ガスがそれぞれ輸送され、その三相界面において反応が起きます。従来のスクリーン印刷では、微粒子が電極内でランダムに配置されるため、物質輸送と界面反応は必ずしも最適ではありません。一方で、各相での物質の輸送し易さの指標として屈曲度ファクタという値があります。電子が輸送される導線に例えると、細いほど、また長いほど、抵抗が大きくなります。物質輸送方向に真っ直ぐ伸び、かつ途中にくびれのない構造が理想的、すなわち屈曲度ファクタ1ですが、従来の電極は5以上あります。そこで本研究では、屈曲度ファクタ1の構造を設計して実際に作製することを目的とします。特に、10nm(物質輸送経路幅)~10μm(化学反応が支配的な物質輸送経路長さ)というメソスケールレベルでの制御加工を目指します。
 各物質経路の中で最もネックになっている酸化物イオンの経路であるYSZが垂直に配置された構造をまず作製し、その隙間にNiまたはLSMを含浸させる方法をとります。YSZナノ構造を得るための具体的な方法としては、YSZスラリーをナノ構造型で成形するゲルキャスティング法と、ジルコニウム金属を初期材料としてYSZナノピラーを生成する再陽極酸化法を用いることを試みます。これが実現すれば、物質自体の輸送を最適にするだけでなく、化学反応が起きる有効な三相界面長さを大きくすることができ、より高いパワー密度が期待できます。その結果、材料コストや装置規模を小さくできるというメリットがあり、装置普及に貢献できます。
 YSZやNiO微細粒子は、初期粒径が10nm程度だったとしても焼結中にそれぞれ合体し、直径約1μm程度まで成長します。本方法は、最初から強制的に並べた状態にするので、焼結中の粒子成長を抑えることが期待できます。すなわち、三相界面長さを従来よりも格段に大きくすることができます。これまでに実証自体できなかった超微細構造に挑戦します。

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