96. For the team

選抜高校野球の決勝戦は横浜高校が21対0の大差で初出場の長崎清峰高校を降し、春3度目の優勝となった。過去の決勝戦は比較的拮抗したスコアが多かったのであるが、今回の21点は、春、夏通じて最多得点であり、零封された清峰高校にしてみれば、それまでの戦いぶりから何がなんだかわからない負けだったのではなかろうか?この大敗を乗り越えて、夏に一段とたくましくなって甲子園に戻ってきてほしいものである。選抜は、夏の大会と違った代表校の決め方なので、統計的に比較することは出来ないが、ここ10年は、沖縄の代表や、北海道の代表も力をつけ、小泉政治によって広がったさまざまな格差が取り上げられているが、高校野球に限って言えば、格差はなくなってきている。地域格差を解消は出来なくても抑える工夫のヒントが、高校野球の歴史的分析のなかにあるかもしれない。

 メール問題で国会を混乱させた民主党は、政権交代への期待度が大きく後退したかに見えたが、小沢代表、菅代表代行、鳩山幹事長によって土俵中央までより戻せるか、後半国会にまず国民が注目するところであろう。小沢代表が力説するように、政権交代がありうる力関係に根ざした緊張感は勿論のこと、現実に政権が交代することで、改革のメスが実効のある形で入ることはきわめて重要なことで、国民の期待もそこにありそうだ。即効性のあることでなくても正すべきは正していく改革をフェアに競って言って欲しいものである。

 4月5日、電気通信大学で開かれたジョン・ホール博士のノーベル賞受賞記念シンポジウムにでかけた。親交の厚い、宅間名誉教授が、博士を紹介しながら思い出を語った。博士を電通大に呼ぶ計画はいったんは昨年の12月になっていたのだという。ところが博士が10月にノーベル物理学賞を受賞して極端に忙しくなり、12月の来日はかなわず、4月5日にやっと実現したということであった。いまやレーザーはカタログ品になっているが、1960年代前半はルビーがやっと手に入るくらいで、工夫しながら自作のレーザーで研究がすすめられたのだという。どんな分野も、切り拓く時代の苦労は同じだ。ベンゼンの美しい反ストークス・ラマンリングの写真が紹介され、そのスライドには、未発表、just  enjoyed. とあり、「今ならNATUREの表紙を飾ったでしょうが・・・・」「熱心な実験家であるホール博士は、先端の研究競争相手に対しても、研究設備を作るうえで援助を惜しまなかった・・・」との話を聞いて、先端の科学の競争で最近目立つ、論文捏造や不正行為の話が研究者に作用する異様なまでのプレッシャーがといった話を思い出し考えさせられた。

 選抜優勝校の渡邊監督のインタビューで印象深かったのは、今年のチームメンバーには松坂大輔のような怪物はいないが、皆少年野球で活躍した選手で、俺が俺がというタイプだったが、甲子園で勝ち進むにしたがって、チームとしてのまとまりが生まれていったのだという。

NHKのクローズアップ現代で、新入社員が会社を選ぶ理由の一位は以前は会社の将来性であったが、今は個性を生かせる会社だという。いずれの理由も挙げた側がはっきりわかっていることではなくて、その時代のムードを表しているだけなのではなかろうか?

会社の将来性で会社を選べたのは終身雇用が崩れるとは誰も感じる要素が表立ってなかった時代であったし、今は個の尊重が声高に叫ばれている流れにあるだけのことのような気がしている。個の尊重は、それぞれが違った個性でそれぞれが違った良い面を持っているのだから、相手も尊重されることが当たり前になっていないのがいまの社会に新たな歪を生んでいる。

WBCでつけた勢いをそのままに開幕した日本のプロ野球でまた偉大な記録が生まれた。阪神タイガースの金本選手はデッドボールで手首を骨折しても、右手一本でヒットを打ちながら、904試合全イニング出続けた事でアメリカ大リーグの鉄人リプケンを超えたのである。金本は「  for the team・・」を強調した。

ジョン・ホール博士の例を引くまでも無く、あるレベルを超えると。基本的には一人でできることは限度があることに気がつき、for the team の精神が身についていくものなのだ。


                              篠原 紘一(2006.4.14)

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