90. 苦しいときに(前編)

「地上にある星を誰も覚えていない 人は空ばかり見てる」
「行く先を照らすのは まだ咲かぬ見果てぬ夢」


このフレーズは昨年12月28日で番組終了となった、プロジェクトX 〜挑戦者たち の主題歌「地上の星」とエンデイング曲「ヘッドライト・テールライト」の詞の一部で、時として、過ぎし日を思い起こさせたり、今おかれている状況で異なった感情を呼び起こさせてくれる、お気に入りのフレーズである。

プロジェクトXは2000年3月に第一回目「巨大台風から日本を守れ 富士山頂・男たちは命をかけた」が放送されたのを皮切りに、6年近く、200本を超えるシリーズとなった。多くのサラリーマンの応援歌的番組として、海外にも30カ国で放映されるなど、感動の輪は大きく広がった。筆者も全てを見たわけではないが、このためだけにNHKの受信料を払っていた気がしている。

最も反響が大きかったのは第2回目に放送された「窓際族が世界規格を作った VHS・執念の逆転劇」だと言う。確かにテレビを見るだけの暮らしから、テレビ番組を録画しておいて、時間をずらしてみるタイムシフトを家庭に持ち込んだと言う功績は日本が世界に誇れる数少ない発明である。映画館で映画を見ない筆者としても実に20年ぶりくらいに映画館に足を運んでVHSの映画を見て(発明した会社の日本ビクターに勤める知人から招待券をいただかなければ見ていなかっただろう)、企業で磁気記録関連の仕事に長く携わっただけに感慨深いものがあった。

プロジェクトXの主題歌、エンデイング曲は中島みゆき以外に頼める歌手はいないと、今井総括プロデユーサーが判断して依頼したのだという。話を聞いた、中島みゆきは番組のイメージを反芻し悩みぬいた。出来上がった曲はロングベストセラーとなり、プロジェクトXの現場である、黒部第4ダムのトンネルの中で歌った2002年の大晦日紅白歌合戦での歌い上げは今でも心に残っている(紅白もほとんど見ない筆者もこのシーンは見逃すことは無かった)。夏の全国高校野球、甲子園で聞く「栄冠は君に輝く」とプロジェクトXを見るたびに聞いた「地上の星」「ヘッドライト・テールライト」は何度聞いても心を揺さぶられる。歌手中島みゆきの才能に脱帽である。

プロジェクトX的シーンは挑戦の日々に、日常的に存在している。基礎研究、実用化開発、事業化など科学技術系に限らず、あらゆるプロジェクト、仕事など全てどのフェーズをとっても振り返ると、勢いのあるときもあれば、なすこと全てが裏目に出るように感じる時もあるものだ。集団で事をなしていく中で、役割分担があって、個人個人の、日常とかぶって感情の起伏をコントロールできなくなることも起こるものである。しかしチームの構成員の間で信頼関係が崩れない限り、難局は切り抜けられると思っていい。後々振り返ったときに、そのときに抱いた感情の起伏などはなかったように、記憶が再構成されてトータルでは良かったとなることも少なくない。しかし現実に渦中にいるときはそうはいかない。苦境に立たされたときにリーダーにはポジテイブ思考が大事になる。

物事プラス思考で見ていくと、アドレナリンが出て課題解決の後押しをするといわれることなどを含め人間の行動を決める脳の作用はかなり、現状の脳科学で説明のつくことかもしれないし、ここで紹介する経験的な話も、或いは脳科学から見て理にかなったアプローチかもしれないし、そうではないかもしれない(話はそれるが、昨年ある学会でナノテクノロジーに関しての特別講演を依頼されあつかましく受けた。もう一人特別講演をされたのが、気鋭の脳科学者である、ソニーの茂木健一郎氏であるが、所用でその講演を聴く機会を逃した。あそこでご挨拶できていればあれこれ伺ってみることができたのではと少し悔やんでいる)。

経験を凝縮して今伝えられることが3つある。それは次回に。



                              篠原 紘一(2006.1.20)

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