79. 折り返しを過ぎて

科学技術振興機構の事業の中で大きなウエイトを占める、戦略的創造研究推進事業は国の将来ニーズをイメージしそれを実現するのに有用な戦略目標達成に大いに貢献が期待される研究構想をチーム型研究と個人型研究にわけて選び出し、国家予算の重点投資課題として決定し、推進している。
納税者の立場からすれば、いわゆる基礎研究の研究成果がすべて社会の役に立つとは思っていなくても、まったく役に立たないのでも具合が悪いとおもい、見方はいろいろにしても、何がしかの期待をされているとの姿勢で、研究者たちが研究に向かって行っていると信じたいものであろう。
筆者の関与している11の研究課題は原則5年間で成果を競う世界であり、初年度に選ばれた6つの研究課題は折り返しを過ぎて少しずつではあるがゴールを意識する段階にある。

中間での評価結果は科学技術振興機構のホームページ上に公開されているので確認していただければ幸いである。残念ながら、中間評価結果では、具体的には見えてこないが(基礎研究の特異性といえる部分が多少あるにしても)、 生み出される成果のレベル、波及効果の大きさなどを決定付けるのは、肝心の研究者のみならず、関係する人がどう動くかが決定的といえるくらいに重要な要素だと考えており、事務所としても緊張感を維持しながらの支援を目指しているつもりである。
と言え、中心は研究者個々の活性度である。チームを編成して研究、開発などを進めるといっても最終的には個人の活動のレベルが成果に密接に関係する。そして個人の活動が望ましい進展に結実していく必要条件は、研究者本人がやりたいことを、主体的に、かつ思い切ってやれる環境に研究者をおくことがもっとも大事になるというのが、筆者の民間での、開発、事業化を通じて得た経験的結論である。

以前にもコラムで触れたが、民間での最後の開発タスクフォースは、時限のプロジェクトであった。全社プロジェクト(正確には複数の組織が連携することで進めるといった意味合いである)を提案する際には、常にゴールの姿を明確に描く(実際にはそれは大変難しいことなのだが、リーダーの意思をそこに込めて、コミットメントするわけなのである)。描く過程でリスク評価は困難を伴うから、普通はほとんどうまく回る前提でしか考えないのが実態であろう。
会社の開発費の重点化に手を上げるわけであるから、表面に出せるストーリーは当然ポジテイブシンキングになるのはいいにしても、次に展開できない結果に終わることもないわけではない。筆者はそのような悲劇的な結末も含め、初めてプロジェクトスタートの前に真剣に、プロジェクトの終わり方を考えたのである。筆者にとっては始めて、一人で悩んだことである。

結果はといえば、3年間でどこまで進めるかについては、短縮ペースで成果が上がったことで、タスクフォースから、組織を作って継続的に開発、事業化に取り組むという好ましいシナリオで次の展開に入った。その後も、勢いは加速気味で、後輩たちも大活躍であったことから、その後もシナリオAで順調に推移すると期待していたが、そうは問屋が卸さない事態に遭遇してしまったのである。
十分ケーススタデイーをしたつもりであったが、はやり言葉[?]で言えば、想定外のことが肝心のところで大ブレーキになってしまったのである。開発技術成果の大きさや波及効果が大きかったがゆえに信じがたい展開になってしまったのである。タスクフォースは本来明確なミッションがあり、限られた時間内にそのミッションを果たして次の役割にシフトするのが一般的である。プロジェクトもほぼ類似の考え方で運営され、プロジェクト終了によって、関係者はそれぞれ次の役割に変わっていくとしても、変わりようはプロジェクトの成果に大いに関係するはずである。


基礎研究は本来が展開性を強く持つものであろうから、民間で進められるようなプロジェクトとは異なり、筋書きがあるようでいて、思いもよらぬ発見などで新たな筋書きに書き換えられることは常態に近いと認識している。
民間での経験をそっくり基礎研究に当てはめようとは思わないが、ある意味でプロジェクトの終わり方を考えてスタートすることが重要と考えるとするなら、5年間のピュアな研究成果だけを「よおやった」とほめるだけではやはり、税金が社会の役に立ち、その研究成果からある割合で次の時代に納められる税を増やし、研究にさらに回されるといった好ましい循環サイクルに入っていけないことに気づかないといけない気がするのである。5年間いい夢を見させてもらったが・・・・で済ませられない課題がいくつかあり、その課題は慢性化し、手がついていないのではないかという点が気がかりである。


                              篠原 紘一(2005.7.29)

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