70. 雨が降れば傘をさす

 『雨が降れば傘をさす』。筆者は松下幸之助語録のひとつとしてこの言葉の意味することを学んだ。
経営の神様と称えられた幸之助翁であるから経営のコツ、極意をいろんな場面で問いかけられた。人にとって大事な心は素直な心であるということを説いた際に、素直というのは雨が降れば傘をさすようなものだと補足したときの言葉であったと理解している。

素直な心は、万人が大切にしなければならない心であろう。それは、物事の本質を捻じ曲げないためにもっとも大事であると思うからである。そして、企業にとって一番大事なことは社会の公器であるという考えであろう。企業を発展させるためにする努力、利益を上げることひとつをとっても、継続的に雇用拡大を図りながら新たな投資もし、株主に対しても適切な配当をしていくなど社会の公器ゆえに不可欠の要件なのである。

最近、マスコミが頻繁に取り上げる話題である、ライブドアとニッポン放送、フジテレビの間の経営権をめぐる争い(?)があるが、違和感を感じる話がいくつも出てくるのに驚くと同時にいくつか疑問に思ったことがある。ひとつは、新株予約権の発行は、雨が降った時の傘ではなかったということが東京地裁に続いて高裁でも明示されたことに対してニッポン放送やフジテレビの経営トップは心底残念であると思ってはいるのであろうかという点である。
口を開ければ、株主に対して企業価値を高めるためにというが、ライブドアが経営権を握ったら企業価値が下がるという話は、大株主がライブドアであることを考えれば大きな矛盾を抱えた話である。
コメンテーターである、評論家、弁護士、大学の先生からは実に多様な意見、感想が毎日テレビのワイドショウー、報道番組を通じて流されている。ライブドアの堀江社長がプロ野球球団のオーナーになりたいと名乗りを上げたときも、金でどうにでも出来ると言った考え方がベースに見え隠れすると強い反発があった。それ以来逆風と壁が次から次にといった様相である。

高裁の判断が出てライブドアがニッポン放送の経営権を手にすることになって、社員や、タレントまでが強い拒否反応をあらわにしている。
今の時点で不安や懸念があるのはわかるが反応がやや異様かなという気がする。マネーゲーム的な見え方については、成り行きを見るしかないことではないのか。

過剰反応気味なのは、ニッポン放送をどう変えていき、経営者が口をそろえて言っている企業価値をどうやって高めていくかのビジョンが語られていないということに大きな要因があるのは確かであろう。「ネットとラジオ放送のシナジー効果を」というだけでは語っていることにならない。マスコミに公表することは無いにしても、ニッポン放送の社員に対してもビジョンを正式に語れるのは株主総会後であろうことは容易に察しがつく。

いまや、ビジネスモデルすら特許になるご時世である。かりにライブドアに秘策があるしても、公言して失うほうが大きいことはビジネスの世界におれば、業種を問わず理解できることだと思う。ネットと各種のメデイアが融合してイノベーションが簡単に起こせるものでもないだろうし、先行しているアメリカでもうなるような成功事例はまだ見えてきていない。だからやらないほうがいいという判断もあるが、堀江社長はだからやりたいのだろうと筆者には思える。


高裁判決を受けての記者会見で、フジテレビの社員が「ニッポン放送は誰のものですか?株主のものですか?リスナーのものですか?」という質問をしていた。比べられないことを比べてどうするのかと思うばかげた質問にも答えないといけないつらさに耐える姿は気の毒である。
外野はなぜお手並み拝見とならないのか?関係者はなぜイノベーションに挑戦をしてみようとならないのか?日本がこのてのことに未成熟であることはわからないでもないが、ニッポン放送とライブドアがどういう方向に向かっていくにせよ、雨が降れば傘をさす、社会の公器であって欲しいと願っている。



                              篠原 紘一(2005.3.25)

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