51. 携帯電話はどこに向かう?

 現状におけるナノテクノロジーがぎっしりつまっているのが携帯電話である。
ナノテクは将来技術としてもしっかりとしたシナリオを描いて進めていくことが重要であるが、一方ですでにナノテクノロジーは身近な製品に入り、それらにクリアな進化を生み出しているとの説明が一般的になされている。確かに、携帯電話市場は新しいビジネスモデルを試す上でもエキサイティングである。4月に北京に出張したときの印象では、電話として使われていて、日本のように多くの使用者が片手でキーを押しまくっている姿は目にしなかった。カメラつきの比率も、中国と日本ではまったく違っているようであった。カメラをつけたらとの発案は『そんなもん誰が買う?』との抵抗にあったそうであるが、やってみたら日本市場はあっさりそれを受け入れ一気に広まったとの経緯がある。カメラ付が主流になれば技術はどんどん進歩するもので、この夏には光学式のズーム機能を搭載する機種も登場するという。


多くの技術屋は、おもちゃみたいなズームでは、とか、画質がどうかなどとすぐ発想するが、使っている人は息を吹きかけて撮るときれいに写るとか、楽しんでいるのである。ちゃんと遊び心で使いこなしているのである。どうもこの世界は、技術サイドがまじめに考えて悩むよりやってみて、広がらないときはあっさり手を引き、次の提案をする柔軟性とスピードが結果的にいいポジションを占めるのに効果があるようにみえる。

先日テレビで弁護士が主役の番組を見た。若いカップルが不動産屋にまるめこまれて、マンションの購入契約をむすぶ。署名し、捺印する前に説明書が渡される。よく読んで確認してくれとなったが、いろいろ書かれていてわからないのでこっそり携帯で写真に取った。マンションに入ってみると、暴力団が借りていることがわかり解約したいと訴えるも取り合ってくれない。弁護士が不動産屋で書類を見ると暴力団が借りている部屋番号の記載があって、お手上げかと思ったら、携帯で取った書類にはその記載がなく、不動産屋が故意に文書偽造したことがわかり、損害賠償金までとって決着。
といった筋書きにそういう使い方があると感心していたら、デジタル万引きというのがあるという。本屋で立ち読みし必要なとこをコピー機としてカメラつき携帯を使うのだという。これはお勧めできないアイデアであるが、『携帯は話せればいい。電話なんだから。』というCMも今の日本ではむなしく響くところまで来てしまっている。

若い人はもちろんであるが、かなりの人がパソコンにはまだ抵抗感があっても携帯電話の操作に慣れてきている。ラジオ、テレビのチューナーも半導体の力であっさり携帯に収まってしまう。地上波デジタルとつながるのも時間の問題であろう。家電製品でこれまでは、マイコンの能力が上がりすぎてあれこれ機能を盛り込んでもほとんどが単能機としてしか使われてこなかったことを思うと、携帯電話は稀有な市場である。大きな市場だけに競争も激しく、スパイラル型の進歩も早い。ハードの側面とソフト的な側面がDNAの二重螺旋のように絡まりながら進歩が続くイメージである。

不連続な飛躍をこの世界にもたらす残された期待の星はハードディスクの内蔵であろう。TDK社のホームページに携帯電話に搭載できるハードディスクを可能にする、テニスのスマッシュのときに受ける衝撃の大きさに耐えるレベル(感覚的にすごいと皆が思うたとえになっているかはあるが)の磁気ヘッドの商品化の話が載っている。大概のことは専門家に聞けば、意見は必ず分かれる。半導体メモリーで十分であるか、ハードディスクが携帯電話の世界に標準搭載されるまで行くのかは、やらなくてもわかることであろうか?携帯電話市場はビッグでエキサイティングな実験市場であると見て、ハードディスクを載せてみる会社が出てくることを期待する。専門家に聞いて意見が分かれることがない技術課題は、『もっともっと長持ちする電池』の発明であろう。筆者のように、たまの電話と短いメールの返信にしか携帯電話を使っていなくても、3年ほどで電池は寿命になった。新機種に買い換えようかと迷ったくらいの電池の価格に何とかならんものかと正直思ったものである。
いずれにしても、(これぞナノテク)を試す市場として、最も評価結果が早く出る市場は当分この市場しかないのではなかろうか。


                                    篠原 紘一(2004.5.21)

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