29. ナノテクインサイド

 20世紀の最大の発明ともいえるコンピューターは、いまやパソコンとして多くの人が優れた道具として活用している。
パソコンの進化は、OS,アプリケーションソフトなどの進化に支えられてきたが、ハードとしてはマイクロプロセッサー、半導体メモリー、ハードディスクの技術革新あってこそと言える。
20年余のパソコンの進化が、一大産業を築いたといえるが、民生機器のようであっても、テレビのような民生機器になりきれないのはいくつか理由があると見られる。

一つは逆説的な言い方になるが、パソコンで出来ることが何かと問われたときに、電子メールとインターネットに代表されるものの、他にも文書作成や、画像処理、やもちろん計算も出来、何でも出来るといってもいい。
こういう万能的な商品で大きな産業規模になった例外的な商品といえる。
何でも出来るものは、焦点が絞れていないために、何も出来ないものと紙一重のように、ユーザーには写ってしまたりするようなことが多い。そこが民生機器として市民権が得られない理由になることがある。
数年前、テレビがパソコンを取り込むか、パソコンがテレビを取り込むかといった動きで始まった、競争は未決着のまま、まだまだこれからも時間が過ぎていくような気がする。

別の理由としては、民生機器を買うときに機能が増えても、性能がよくなっても、そこにユーザーが付加価値として支払ってくれる金額は多くないどころか、技術が進むということはいいものが安く出来ることだと捉えているようにしか思えないくらいに、かえって安くなることを期待していると思える消費者行動をとることがあげられる。したがってパソコンも数を出そうとすると、せめて値段が上げられないならば、性能や、機能を増やして、値段を保つことが常套手段になってきた。しかし、パソコンにはすごい歴史がある。


テレビや、ビデオが逆立ちしてもかなわなかった点はパソコン同士、お互いがつながってネットワークを創製したことである。大きな文化的貢献をダブルで成し遂げた稀有の商品である。今、ディジタル機器は、基本機能に加えてネットにつなげることで市場拡大を図ろうというのが一大潮流であるが、そのコンセプトは共通なため、競争は熾烈だ。たしかに大きな産業になったパソコンも、利益を生まなくなってきている。それでもデルコンピュータのように、ビジネスモデルで健闘している戦略や、正攻法で強いものが更に強くなる先導的な戦略で、ささやかれるシリコン技術の限界説に果敢に挑んでいるインテルコーポレーションのように、明確な勝ち組が存在している。
ヘッドホンステレオで、オーディオの世界を変えたソニーの「ウォークマン」が、ブランドになってしまっているように、インテルの「ペンティアム」は、マイクロプロセッサのブランドになっている。多くのパソコンには、「インテルインサイド」のシールが貼ってあるのはお気づきの通りである。


インテルが公表してるロードマップ(技術の進歩の予測)からすると、まだシリコンのナノテクノロジーを駆使して2007年ごろには10億個のトランジスターを集積し、最新鋭のプロセッサーの10倍の速度で動作させ、コンピュータでの同時通訳や、人の顔を認識してセキュリティー対応させるなど、これまで夢のようであったことを実現できる技術を創ろうと、意気軒昂である。
研究所では、当然のことのように、シリコンの限界をにらんで、単電子トランジスタも研究しているものの、これらナノテクノロジーは、シリコンの基盤技術の上ではじめて生かされると主張している。トップダウンからボトムアップに切り替わる時期が重要ではなく、単一デバイスでいくら性能が飛躍しても、1000倍や1万倍程度の飛躍(それはそれですごいことには違いないが)では、集積化が無くては現実解にはなりえない。残念ながら、ナノテクノロジーは集積化を考えると、研究を制約してしまうので、集積化は横に置いた研究になるだろう。そうしている間に、ペンティアムの中に、ナノテクがドンドン入っていく、「ナノテクインサイド」が進化を支えることになるだろう。

コラムの最初にナノテクデバイスについてのコンセプトを主張した。マイクロデバイスに対してのナノデバイスは定着してきつつあるが、ナノテクデバイスはいまだに定着してはいない。それでも、筆者は「ナノテクインサイド」のシールを貼ったデバイス(シールをはれるスペースは無い?)は、ナノデバイスでなくても、それこそが「ナノテクデバイス」そのものなのだと考えている。



                                               篠原 紘一(2003.5.26)
                                                   
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