145. シンセシオロジー(構成学)

産業技術総合研究所が、新しいジャーナル、シンセシオロジーの創刊を記念しシンポジウムを開催した。

シンセシオロジーは造語で、一言で言うと産業技術総合研究所(以下産総研と略す)が推進する本格研究の、第2種基礎研究(これまで基礎研究というくくりに入らなかった、研究成果を束ね、保有する技術や、その改良を加えて社会に役に立つことを目指す研究である)の成果を、原著論文として公表する論文誌で、2号がすでに出ている(http://www.aist.go.jp/参照)。

 

この試みは国内の単独組織では産総研にしかできない試みとして歓迎されるに違いない。またこの試みは、東京大学がアクションプラン(http://www.u-tokyo.ac.jp/参照)を立て推進している知の構造化のコンセプトとも相通じ、手本のない中で先頭を走ろうとした時に時代の潮流となる視点でもあろう。

 

とりわけ地球規模で表面化し、深刻さを増す環境問題、エネルギー、資源問題、食糧問題、人口増、貧富格差拡大などの問題の解決には、政治力学も必要ではあろうが、なんといっても科学技術の力に頼らざるを得ない。その時にやはり問題になるのが人の質である。

シンポジウムでも話が出ていたが、第2種基礎研究に適した人材が保有すべき能力は何かといったこともこれからの議論である。とはいえ大学のカリキュラムに簡単に取り入れられるようなレベルのものでもなく、経験者を増やすことがまず必要なことであろう。

 

せっかく賞賛されて始まったことが、死の谷に落ち込まないようにする継続的な努力が必要である。それにはトップの強い感心が続くことと、学会、産業界も評価し研究者、技術者にエールを送り続けることが大事だ。

 

民間企業で上流の研究所で開発された技術を基に新しい事業を創出する過程で、第2種基礎研究に類似の仕事が必ず発生する。日々失敗のデータが山ほどたまる。そのデータは陽の目を見ないが成功のための肥料である。論文には登場しないが事業を確実に支えるデータとして無価値なデータではないのである。

 

幸運にも死の谷を越えることが出来たときに、成功の方程式を明らかにしたいものであるが、筆者の経験では事例ごとに違うといわざるを得ない。構成学の発展にとって横たわるであろう困難はノウハウ(暗黙値)をあからさまに公開することを産業界は全面的には受け付けないことから生じるであろう。

ここに対して、新論文誌「シンセシオロジー」では査読過程を公開する工夫が織り込まれていて興味深い。

産業界側がファーストオーサーになって競って投稿されていくようになれば、構成学の売りの部分のひとつのノウハウ公開への切込みがインパクトを持つようになっていくものと期待している。

 


                                   
篠原 紘一(2008.5.29)

           
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