138. 志の高さ

  官僚トップ、横綱、世界挑戦のボクサー、食品業界などなど、おかれた立場に求められる品格、分相応などが大幅に欠落しているようなニュースが山ほどあって、気持ちがなえてくる中にあって、久しぶりに元気の出るニュースが新型の万能細胞だ。京大の山中チームは、最初の成果が3種の遺伝子の中に発がん性の懸念があるものが含まれての万能細胞の作製であったが、少なくとも実験では発がん性が見えない遺伝子に置き換える成果も引き続いて論文発表した。このニュースは世界が待望するニュースでその歓迎振りも異常なまでの高まりである。

 こういったニュースに限らないが、必ずポジテイブな話には、苦味のある話が付いて回るものである。

 12月3日の日本経済新聞の科学欄に、掲載された3つの隣り合わせの記事は、日本の課題を象徴するような記事群に見えた。「新型万能細胞、文部科学省、山中教授に意見聞く」「ゲノム研究新たなブーム、医薬応用へ国際計画も」「色素増感型太陽電池、世界最高効率に、シャープ実用化へ前進」の三つである。

 万能細胞は倫理問題が完全解決したということではないがこれまでに比べれば大きな前進でホワイトハウスやバチカンが歓迎のメッセージを即発信したのに、日本政府はクイックレスポンスとは言いがたい。

 文部科学省が山中先生から意見を聞くということで、支援につながることを期待するが、不安もないわけではない。研究の支援をしようとしたら現場に行くことが先であり(今回はどうかわからないがおそらく、先生が京都から東京に呼ばれていると思われる・間違っていたらむしろ好ましいこと)資料を基に説明を受け質疑で補えば十分と思うかもしれないが、専門が違っても現場で説明を聞けば、課題も仔細はわからなくても、トータルを肌で感じることができるというものである。

ゲノムの記事にこんな記載がある。医薬研究に国際計画が進む中、「日本は流行に敏感だが、太い研究の流れが育たない,テーラーメード医療は単なるはやり言葉であった」。ゲノムについては研究会や、シンポジウムで何度も同じ嘆き節を聞いたことがある。日本は先行していたのに、気がついたら周回遅れになっていたと。万能細胞は大丈夫だといえるかは、これからのオールジャパンの(必ずしも、日本だけで取り組もうということではない時代であるのは言うまでもないが)取り組み次第である。

色素増感太陽電池が実用化に近づいた事は、地球温暖化に歯止めをかけていくのに計り知れない太陽エネルギーに助けてもらう手だてがまた一つ増える明るいニュースである。この三つのニュースを並べてみると、国の研究と民間の研究それぞれと、その間に横たわる課題がまだ多くあると感じる。繰り返される歴史を全て受け入れるわけにはいかないはずである。日本は農耕民族だからとかの説もあるが、だからといって同じ轍を踏むことは避けたいものである。結局は志の高さに帰着するのだろうと思う。個人個人の志が高くなっていけば、国の志も高くなるはずである。そうなればコンセンサスの次元が上がっていき、冒頭のようなスキャンダルも減るはずである。そして元気の出る話をみんなが応援する社会が創られていくのだと思う。

志の高さはひとつには視線がどこまで遠くに、広くに届いているかによるのだと思う。その上で今何をしたらよいかなのだと考えている。



                              篠原 紘一(2007.12.7)

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