129. 成功確率

 人は望んで失敗するわけではない。だからと言って、成功したいと願って努力しても報われるとは限らない。これまでの活動の集積から「成功の方程式」「成功の公式」は導き出せるのであろうか?

教育論と同じで、専門家といわれる人達がしたり顔で語るのを聞いていても、なるほどと共感できる部分もあろうが、経験的には違うなあと思える部分も決して少なくはないはずである。「成功論」も似ている。論者の数だけ「成功論」があるのかもしれない。したがってここでは、成功確率を高める上で共通的な要素がありそうだということを、経験をベースに提示してみたい。

 成功は成功するまでやめなければ誰でも得られる

 会社では幹部が持ち回りで従業員全体に毎月(会社によってそのペースは異なっているかもしれないが)総合朝会(今はフレックスが広まって昼会かもしれない)と称して経営状況を報告する場がある。その場では日ごろ感じていることや経営についての思いなども話される。あるとき、壇上の会社幹部と筆者の目が合った。話のきりのいいところで、幹部はおもむろに言った。「どうやったら成功できるかわかるか?成功するまでやめないことだ。蒸着テープは何度もやめてもらおうと働きかけたが、いうことを聞かなかった・・」

「だから今日の蒸着テープの事業がある」「成功するまでやめなければ成功する」というのは時間切れ、資金切れ、などがなければ、必ずしも詭弁とはいえないかもしれない。

 詭弁どころか、その意味するところは深いともいえる。もちろんやめないことは必要条件であって、成功確率を上げる要素として続け方の大事なことがあるはずであろう。

 成功を決めるのは何をやるかが半分、誰がやるかが半分

 筆者が所員400人近い大研究所(会社では所長の目が行き届くサイズがあって300人を超える研究所は筆者の勤務した会社にはそれまでなかった)で、デバイス開発グループを任されていたときに、よく所長と議論したことのひとつがプロジェクトを成功に導く条件についてであった。議論のときにどこかで必ず言われた皮肉は「篠原君のように20年かけて成功してもらってもねえ、会社がそこまで持たないよ」であった。議論はその時々でさまざまな展開を見せたものの、結局は例外はあるし、定量的な意味が厳密にあるわけではないが、「成功の可否は、何をやるかが半分、どうやるかが半分である。そしてどうやるかは誰がリーダシップを取るかに置き換えられる」。とは違った結論もあるのではないかと議論を繰り返したが、企業においての開発プロジェクトは特にそうかもしれないが、成功は誰が、何をやるかで決まるということを確認して終わって、これを越えるメッセージは導き出せなかった。

 成功確率を高める3つの要素

 方程式や、公式のように定量的な議論ではないが経験から成功確率を高める4つの要素がキーであると今は思っている。@人事Aお金B何をなすかの3つがC正しいことではないか。まったく一人で独立してなせることは別である。組織の規模によらず、正しい人事が行われ、お金が正しく使われ、何をなすかが正しければ成功の確率が大きくなる。

ではいったい、正しいとはどういうことかが次に問題になる。

「正しい」ということは、小さな社会(組織)大きな社会による差もあろうとは思うが、社会が受け入れ(容認レベルから大歓迎のレベルまでここにも幅があるであろう)かつ人事、お金、なすことが合わさって目標や、期待値を超えて大きな成果に結実する、それが結果として正しかったという評価をするということなのであろう。結果がすべてのように取れるが決してそうではない。「結果がすべて」と開き直るのではなく「何が正しいのか?」を繰り返し追求していく姿勢がベースにないといけない。ハウツーものに書かれている、一般論や、常識論が常に正しいとは限らない。結局は何が正しそうなのかを探し続ける事なのであろう。「人事を尽くして天命を待つ」心境にたどり着けるなら、結果も、評価も受け入れられる。そしてまた次を目指せるだろう。

 7月29日、参議院選挙で自民党が歴史的敗北を喫した。自民党も、民主党も次が大事である。これも、人事、お金、なすこと、がいずれもが国民にとって正しく進められているとは映らなかった例だと思うが、日本がより正しい方向に転換するきっかけになってほしいものである。


                              篠原 紘一(2007.8.3)

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