128. KAIZEN

  PPK運動なるものをご存知ですか?
巷にはさまざまな頭文字を並べた表現があふれているのでわからないからといってまったく気にすることはない(BECがボーズ・アインシュタイン凝縮という低温物理現象を示すなど筆者も、基礎研究の支援にかかわるまで知らなかった。エレクトロニクスメーカーに勤務していたからトランジスタの要素であるベース、エミッター、コレクターかなと思うくらいのもので、要は個人のバックグラウンドの違い出で略語はさまざまな意味にとられて不思議はない)。

ここで取り上げたPPKは、不純物の濃度をあらわすppmやppbの仲間ではなく「ぴんぴんころり運動」、元気に生涯をおくろうということである。
日本は高齢化社会にまっしぐらである。「イノベーション25」でも当然であるが「生涯健康な社会」を中長期的に取り組むべき課題として取り上げているから、政策の後押しもこれからますます推進の力になるであろう。
しかし、一番大事なマインドは、一人一人が「変化」を受け入れる(さらに欲を言えば、好む)マインドである。

イノベーションは「革新」のイメージが強く大きな変化を想像しやすい。そのためか、個人個人には無縁の世界と感じてしまいがちである。英英辞典を見てみると、日本人にとってとっつきやすい「改善」と「イノベーション」は思ったより近いのである。(英英辞典によればinnovationはsomething new made or improved with creativityとあり、improveは日本語で「改善する」である)

 改善は、意図的に少しでも良くすることで、習熟(学習効果)などによる進歩は含まないと考えるべきであろう。一日一日、意図的に方向を少しずつ変えていくことで、気がつけば当初と反対の方向を向くことさえ実現可能なのである。こう考えると改善の効果は馬鹿にはできないし、イノベーションに貢献できることも期待してよいのである。
変える(作業でも同じことを繰り返さない)ことは脳科学から見ても、脳にとって大変良いことなのだそうである(脳自体が学習機能を持つがゆえに、脳は逆に同じ刺激に対して働きが下がるということらしい)。

人間は動物の中で、もっとも前頭前野という脳の部分が発達しているといった特徴とともに、道具を幅広く使う特徴を持っている。改善に使える道具も多い。

IE(インダストリアル・エンジニアリング)が工場で活発に適用された時代の代表的な道具の一つにビデオカメラがあった。工場にラインを敷いて作業者が張り付いて組み立てをすることでも、日本製品が強かった時代である。多くはQCサークルを多く作って、製造現場が主体的に取り組み、付加価値を生まない作業ロスを極限まで減らす努力が経営に貢献をし、熱心な作業者は絶えずメモを携帯し、気がついたことを忘れず時間外に検討、工夫を重ねる競争が常態化するといった様相であった。

 改善はものつくりだけではないが、ビデオカメラで台所で料理を作る妻をとって、無駄な動きを熱心に指摘した結果、あっという間に妻が逃げ出したという話も身近で聴いたが、これは道具の使い方を明らかに間違った例であって、道具は正しく使えば改善をもたらしてくれるものである。

「改善」は英語になった日本語である。同じく英語になった「看板方式」がマイナスに働いて(新潟中越沖地震でエンジン部品がとまって)トヨタ以下日本の6社が自動車が作れないという。自然の脅威にはかなわぬとしても看板方式の評価が下がるわけではない。小さな改善はイノベーションへの一歩なのである。


                              篠原 紘一(2007.7.20)

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