126. So, What?

  早いもので、今年度で「新しい物理現象や動作原理に基づくナノデバイス・システムの創製」研究領域(ナノテクデバイスとの略称で呼んでいる)は終了である。ナノテクノロジーとは何かと問われても、10人十色の説明であった時代にスタートし、今でも誰もが納得の簡潔で明快な説明が難しいまま、科学技術基本計画の中での重点分野としての位置づけは変わらず資金投入は巨額になっている。

ナノサイエンス、ナノテクノロジーの研究はグローバルに熾烈な競争が続き、多くの成果がつみあがってきている。少なくとも内側から見た評価はそうなのである。ところが外から見ると「使えるナノテク」「True nano」などのキーワードが使われるようになってきていることからわかるように厳しい視線が注がれてきているのである。おまけに最近は「イノベーション」がことあるごとに登場する状況である。

実は今年の4月から「ナノ科学を基盤とした革新的製造技術の創成」研究領域(研究総括

 堀池 靖浩 (独)物質・材料研究機構 フェロー)(ナノ製造の略称で呼んでいる)の領域参事を兼務していて、いま二年目の課題採択の過程にある。

 研究提案書に目を通して感じたことで、ナノテクデバイスの採択から5年の間に、変わったことと変わらないことをあげてみる。

大きく変わったのは、特許リストである。5年前は、研究提案者の出願特許リストが空欄であった提案がかなり見られたが、今回の提案書ではリストが付いているのがほとんどである(ただ、情報としては特許の意識が高くなっていることはわかるが、提案の基礎になっている特許が含まれているかどうかはほとんどわからない)。

 変わっていないのは、言い方は悪いが形容詞で飾られた表現が目立ち、科学者は以外にも定量的な表現を使わないで感覚的であるということである。おそらく学会が競争の場である科学者にいきなり産業界や、社会からの期待を伝えるようなことをやってみてもやはり伝わらないようなのである。研究が独創的であるかどうかの自己評価を求めている部分でも意外に感じるのは、新規であることと、独創的であることが等価と理解している節があるように思える例に出会うことだ。

新しい池に、最初に石を投げたのは、日本人ではないが、次に大きな石を投げたのは私で、今のところほかの人は投げに来ていないといった状況が独創といえるかとなると首を傾げてしまう。良いたとえではないが、オリジンとその次の工夫とは役割も価値も違うと思うのだがいかがであろうか?

 提案書を理解しようとわからない科学用語をグーグルで検索してみるが、なかなか得たい情報にすぐヒットしない。今アメリカで疑問文をそのまま入力すると答えが検索できるソフトを開発しているチームがあるらしい。それができるということないと思うが決して容易な開発ではないようだ。それでも楽しみにしたい開発方向だ。

提案書は誰が読み、評価するかを想定して書けといった指導を民間では受ける。そうするにはひとつ有効な方法がある。

あることをいう。そうしたら次に「so ,what?」と、評価者になったつもりで実際には自問自答をするのである。それを繰り返していくと、本質が浮き彫りになり、結論が明確な提案になっていくのである。

 


                              篠原 紘一(2007.6.22)

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