私どもの事務所は、宇宙開発センター(NASDA)に隣接した、つくば研究支援センター内にあります。ナノテクデバイス研究事務所の構成員は研究統括を含めて現在5名です。

私どもの名詞には科学技術振興事業団、戦略的創造研究推進事業、物理的手法を用いたナノデバイス等の創製研究事務所とあり、これが正式です。マイクロデバイスの次はナノデバイスが一般に使われていて、ナノテクデバイスの言葉は一般的ではないようです。しかし事業団の中で、ナノテクノロジーは物理系と化学、生物系に分けて運営していますから、関係者の内内ではナノ物、と ナノ化学と簡略化して使っています。ややこしい話かもしれませんが、なぜナノデバイスでなくてナノテクデバイスなのかについて少し触れます。


まず、その前提となる研究領域の私なりの理解は次のようです。国から示された戦略目標はナノメートルスケールにおける融合的革新技術の構築です。融合の意味合いについては、単なる組み合わせではなく、それぞれの分野では異なる、常識、非常識が議論や交流により接点を持ち出来ないと思われていたことが出来るようになる(夢が形になる)作用効果をイメージ出来るのではないでしょうか。ナノテクノロジーは原子100個から1000個をコントロールして扱うことで異分野のデザインルールを接近させる働きももっていてこのことが融合が進むことの本質といえると思います。研究パワーがグローバルに集中投入されていますから、膨大な知が創られ、蓄えられ、新たに体系化されていくナノテクノロジー、ナノサイエンスは複数の境界で融合領域が生成、拡張されていくことが期待されますが融合の牽引役はアプリケーションだろうと思います。

具体的にはナノメートルスケールで再現できる物理現象を応用した画期的なデバイスを実用に供せるような基盤を提案することや、その基礎となる、見る、計る、調べる、形にする、制御する技術を創製することが目標になっています。分野によりますが、磁気記録などの競争の激しい世界の基幹デバイスは、製造技術を成熟させる間もなしにスペックが飛躍するので、デバイスのイールドを歩留まりといわずに良品出現率と自虐的に言っているという笑えない話があります。正確な定義はありませんがせめて半分以上が良品でない場合は歩留まりとはいえないのだそうです。エンジニアリングとしては理屈はわからなくても再現よく物が製造できればよいという考えが製造の現場には今でもあります。

しかしナノテクノロジーを活かすということは、サイズや温度に桁違いに敏感な世界に踏み込んでいくことでも在る訳ですから、サイエンスとテクノロジーの接近と共通理解でことを進めていかないと産業に革命的な発展を期待してもそれが現実化することは困難を極めることになるでしょう。

一方これらの研究開発成果を享受する一般市民の立場からの要望は“SUSTAINABLE”ということが一番歓迎されるでしょう。後に戻りたくもないし、さりとて進化が理解を超え、戸惑うような飛躍であっても困るということだと思います。だとすればナノテクノロジーの塊がイメージされるナノデバイスよりも、科学技術の先端への挑戦と並行し、産業界のインフラの質的転換をはかりながら、部分としてナノテクノロジーを埋め込んでいくことから究極のナノの世界に段階的に攻め入る現実的なアプローチのイメージのあるナノテクデバイスを造語として使い始めたということなのです。

さて、このコラムは専門家がナノテクノロジーを語る場ではあリません。しかし国家予算の投入の大型化によって推進される、次世代の大型技術の恩恵にあずかる立場での関心は持ちたいと思います。専門家におまかせでなく、ナノの言葉が目に付くと感じてる人に対しても、ナノテクノロジーに何らかの形でかかわる方達に対しても、コーヒーでも飲みながら話題にしてもらえる切り口の提供が出来ればとの思いで続けて行こうと思います。             


                                                  篠原 紘一
(2002.6.14)

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