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最終更新日:2014年7月23日
本研究領域は、持続可能な社会の構築のために解決すべき資源・エネルギー・環境問題に元素戦略を共通概念とする物質科学・物性科学の観点から取り組み、既存の延長線上にない物質・材料の革新的機能の創出を目指します。
具体的には、「物質の特性・機能を決める特定元素の役割を理解し有効活用する」という元素戦略コンセプトの下、物質構造、界面、電子相関などの様々な機能発現に共通する問題点を多角的・系統的に解明・理解し、それらを制御することにより、物質・材料の革新的な特性や機能の創出に向けた研究開発に取り組みます。多様な元素の特性に着目して「電子状態」「原子配列」「分子構造」等の微視的な観点から目的機能を如何に発現させるかを検討すると共に、計測技術や計算科学も活用しつつ構造・機能・反応をデザインし、多様な課題解決に向けた物質・材料の革新的機能の創出を目指します。物理、化学、工学、材料科学といった分野の垣根にとらわれない異分野融合を強く意識した大胆かつチャレンジングな研究を推進します。
1970年 京都大学 工学部合成化学科 助手
1986年 京都大学 工学部合成化学科 助教授
1993年 京都大学 化学研究所 教授
2000年 京都大学 化学研究所 所長
2004年 京都大学 化学研究所 附属元素科学国際研究センター センター長
2005年 理化学研究所 フロンティア研究システムセンター センター長
2008年 理化学研究所 基幹研究所 所長
2010年 理化学研究所 基幹研究所 グリーン未来物質創成研究領域 領域長
2013年 理化学研究所 研究顧問・グローバル研究クラスタ長(現職)
射場 英紀 | トヨタ自動車(株)電池研究部 部長 |
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潮田 浩作 | 元 新日鐵住金(株)顧問/金沢大学 客員教授 |
岡田 益男 | 東北大学 未来科学技術共同研究センター(NICHe)客員教授/東北大学 名誉教授 |
高尾 正敏 | 元 大阪大学/パナソニック |
田島 節子 | 大阪大学 大学院理学研究科 教授 |
徳永 雅亮 | 元日立金属(株)副技師長 |
中村 栄一 | 東京大学 大学院理学系研究科 教授 (平成22年11月~平成23年9月) |
中山 智弘 | 科学技術振興機構 研究開発戦略センター エキスパート |
細野 秀雄 | 東京工業大学 フロンティア研究機構/応用セラミックス研究所 教授 |
前川 禎通 | 日本原子力研究開発機構 先端基礎研究センター センター長 |
三澤 弘明 | 北海道大学 電子科学研究所 教授 |
村井 眞二 | 奈良先端科学技術大学院大学 特任教授 |
村上 正紀 | 立命館大学 特別招聘教授・理事補佐/グローバルイノベーション機構長代理 |
森 初果 | 東京大学 物性研究所 教授 |
「レアメタルフリー材料の実用化及び超高保磁力・超高靱性等の新規目的機能を目指した原子配列制御等の
ナノスケール物質構造制御技術による物質・材料の革新的機能の創出」
平成19年度より文部科学省が実施している元素戦略プロジェクトは、「物質・材料の特性・機能を決める特定元素の役割を理解し有効利用するという観点から従来の材料研究を再構成し、希少元素・有害元素の代替、戦略的利用のための技術基盤を確立する」ことを目的としている。プロジェクト開始から3年が経過し、順調に成果が得られつつある。
上記のような元素戦略の目的に資する研究開発のアプローチとしては、大きく分けて以下のようなパターンが考えられる。
上記の①のケースでは、代替元素の選択肢が限られており、希少元素等を含む既存の材料の機能を超えられない場合が多い。②のケースでは、既存の材料の機能発現原理が判明したとしても、その原理の範囲内で動かせる条件には限りがあるため、大幅な機能の向上が難しい。それに対し、③の「創成型」のケースでは、目的とする機能の発現原理の本質を抉り出し、それを実現するためのアプローチを開発するため、既存の機能元素にとらわれることなく目標に到達できる可能性が高く、近年期待が高まっているところである。
本戦略目標は、「希少元素・有害元素の代替、戦略的利用のための技術基盤を確立する」という目標達成に向け、目的とする材料機能の発現原理を検証・把握し、ナノスケールの物質構造(原子配列、磁区構造、分子構造等)を制御することによって、単なる「希少元素・有害元素の代替」にとどまらない、「革新的機能材料」の創成を目指すものである。
本戦略目標においては、以下のように研究開発を進めていくことが想定される。
上述のようなナノスケール物質構造制御に基づいた本戦略目標から想定される成果の例としては、
等が考えられる。
本戦略目標は、第3期科学技術基本計画の重点推進4分野の1つであるナノテクノロジー・材料分野における「True Nano」に相当する、革新的材料開発を伴わなければ解決困難な課題と国際競争の優位を確保するための課題の解決を目指すもので、同分野の戦略重点科学技術として挙げられている「資源問題解決の決定打となる希少資源・不足資源代替材料革新技術」につながる重要施策である。資源が少ない我が国が直面する資源問題という大きな課題の抜本的解決策として、社会・産業からの要請も強い。加えて、本戦略目標が目指す希少元素の代替・戦略的利用については、革新的技術戦略において「レアメタル代替材料・回収技術」として革新的技術に選定されている。
さらに本戦略目標は、「新成長戦略(基本方針)」(平成21年12月30日 閣議決定)の「(1)グリーン・イノベーションによる環境・エネルギー大国戦略」に掲げられた「レアメタル、レアアース等の代替材料などの技術開発」に資するものである。
なお、本戦略目標は、「物質・材料の特性・機能を決める特定元素の役割を理解し有効利用するという観点から従来の材料研究を再構成し、希少元素・有害元素の代替、戦略的利用のための技術基盤を確立する」という目標達成に向け、革新的材料の創成というアプローチを採るものであり、前出の第3期科学技術基本計画の重点4分野のナノテクノロジー・材料分野における以下の戦略重点科学技術にもつながる可能性を有する。
本戦略目標は、ナノテクノロジー・材料分野における施策の中核の1つを担う。
希少元素・有害元素をユビキタス元素で置き換えるという施策としては、平成19年度より実施されている文部科学省の「元素戦略プロジェクト」及び経済産業省の「希少金属代替材料開発プロジェクト」がある。前者の文部科学省の「元素戦略プロジェクト」は、「物質・材料の特性・機能を決める特定元素の役割を理解し有効利用するという観点から従来の材料研究を再構成し、希少元素・有害元素の代替、戦略的利用のための技術基盤を確立する」ことを目標とした施策である。本事業では、産官学の連携による提案を義務づけ、基礎から実用化につなげる課題を精選して推進している。後者の経済産業省の「希少金属代替材料開発プロジェクト」は、「非鉄金属資源の代替材料及び使用量低減技術の確立」を目的として、特に、緊急な対応が求められる元素に絞って現実的な削減目標を設定し、集中的な研究開発を進めるものである。これまで、元素種としてIn、Dy、W、Pt、Eu、Tb、Ceを特定した材料開発を推進している。これら2つのプロジェクトは、主として既存の材料を活用した「代替型」及び「改良型」アプローチにより、希少元素・有害元素の代替材料研究開発を行うものである。
それに対し本戦略目標は、前出の「元素戦略プロジェクト」との共通目標達成に向け、目標とする材料機能を発現させるナノスケール物質構造(原子配列、磁区構造、分子構造等)を材料に持たせることによって革新的機能材料の創成を狙う「創成型」という新しいアプローチにより研究開発を行うものである。このようなナノスケールの物質構造の制御という視点に立った材料機能創成の必要性については、元素戦略/希少金属代替材料開発シンポジウム等でも提言されているところである。
ナノテクノロジーは、科学技術の新しい世界を切り拓き、産業競争力の強化や新産業の創出に結びつく技術である。第3期科学技術基本計画の分野別推進戦略では、ナノ領域で初めて発現する特有の現象・特性を活かすナノテクノロジーの中で、特に従来の延長線上ではない不連続な進歩が期待される創造的な研究開発、大きな産業応用が見通せる研究開発を「True Nano」と定義している。本戦略目標は、ナノスケールの物質構造デザインによって革新的な高機能を作り出し、既存の物質・材料やありふれた元素に旧来考えられなかったような新しい特性を発揮させるとともに、眠っている未知の機能を引き出すこと等を行おうとするものである。すなわち、天然資源に乏しい我が国が、これまで要素的に蓄積されてきたナノテクノロジー・材料科学技術の成果に立脚し、ユビキタス元素を巧みに駆使することで有用機能を実現し、重要な社会的課題の解決を目指すものであり、いわば我が国のナノテクの真価を具体的に問うものと位置づけられる。したがって本戦略目標は「True Nano」の実践を明確に視野に入れたものであり、特定の材料や元素に固有であると経験的に考えられてきた機能を、固定観念にとらわれず、材料・物質の様々な形態を駆使して新しい機能を見いだす研究開発を促す、ナノテクノロジー・材料分野の根幹を支える緊急性の高いものである。
(1) 関連研究例
近年、目標とする材料機能の発現原理となるナノスケールの物質構造の制御という視点に立った材料開発の例が見られるようになり、期待が高まっている。その典型的な開発例として、透明電極材料や鉄系超伝導材料等が挙げられる。前者は、典型的なセメント成分である12CaO・7Al2O3がその結晶構造中に持つ直径0.5ナノメートルのカゴの中にある酸素イオンを電子で置き換えることにより、金属と同じような高い電気伝導性を付与することに成功したものである。後者は、電気絶縁性の層(LaO層)と金属的伝導を示す層(FeAs層)からなり従来は超伝導性を示さなかった層状化合物(LaOFeAs)において、絶縁性層であるLaOを構成する酸素イオン(O)の格子サイトにフッ素イオン(F)をあてることで超伝導を付与したものである。いずれも、ナノスケールでの構造制御を行い、材料に対して全く新しい機能が付与されたものである。
一方、「ナノテクノロジー・材料分野 科学技術・研究開発の国際比較2009年版」(JST研究開発戦略センター)によれば、本戦略目標において取り組むナノスケールの物質構造制御に関連する研究開発としては、上記の例のほか、スピントロニクス材料を中心とした磁性材料の開発等が挙げられ、これらの分野は日本が世界の先端を進んでいるとしている。
(2) 本研究分野の発展の可能性
文部科学省が開催する「元素戦略検討会」や、JST研究開発戦略センターにおける新材料設計探索ワークショップ等において研究開発のコンセプト、取り組むべき課題の議論がなされており、研究者コミュニティーに対する働きかけも行われた。それに応える形で、日本化学会、セラミクス協会、日本金属学会、日本鉄鋼協会、材料戦略委員会、応用物理学会等の学協会が、研究シーズの大規模な自発的調査やシンポジウム等を開催し、大きな議論が始まっている。産業界に対して優れた材料の提案が多くなされ、本研究分野が大きく発展することが見込まれる。