CRDSシンポジウム

11/7CRDSシンポジウム 「科学技術イノベーションにおける統合化」講演録

科学技術とビジネスの統合化がもたらす変革 〜全産業領域でのプラットフォーマー化の可能性とその衝撃〜
冨山 和彦 株式会社経営共創基盤 代表取締役CEO

冨山でございます。私の方からは、一応「科学技術とビジネスの統合化がもたらす変革 〜全産業領域でのプラットフォーマー化の可能性とその衝撃〜」というテーマに設定していますが、中村理事長が今、最後の方に言われた話を多分受け継ぐ感じになると思います。

最初に少し個人的独白をしますと、20年ぐらい前に私、今のソフトバンクの前身にあたる、携帯会社の立ち上げに関わっておりまして、その時に携帯電話、が相当なインパクトを社会に及ぼすぞ、ということは何となくやっていてわかったわけです。それからもう一つ、ちょうどインターネットが普及している時期とかぶっていましたから、それも融合が起きるんだろうなということは、想像がついていたわけです。そうすると私はビジネスマンなので、「どういう会社の株が買いかな」というふうに考えると、割とと素直に、実際我々がビジネスをやっていたカウンターパート、例えば基地局を作ってもらっていたNEC、あるいは交換機をお願いしていた富士通、それから端末機もそのようなメーカーにお願いしていたということで、要は旧電電ファミリーの株が買いではなかろうか、というふうに、今から考えたら稚拙に考えておりました。ところが実際何が起きたかというと、こういった産業領域は、いわゆるスマイルカーブ現象って言うんですが、まさに統合化が起きてしまったわけです。そうすると、プラットフォーマーというのが出てくるわけです。今で言えばGoogleがその典型です。スマイルカーブの川上側では、キーコンポーネントサプライヤーが力を持ちます。PCならIntel、スマホならQualcommになるわけですが、そういういった人達がすごく栄える構造になって残念ながら一生懸命ものを組み立てている人は、ちょうどスマイルカーブの底にはまってしまって、なかなかビジネス的には厳しい状況が生まれました。あの時点で、まだGoogleは影と形ぐらいはありましたけど、小さなベンチャーだったわけで、その段階で想像できたらみんな大金持ちになれるわけですが、なかなか想像できなかったということです。ただ、要はそういうある種の産業構造、産業組織がガラッと変わると、それだけ極めて重大な衝撃が関係企業に及ぶわけでして、少なくともここまでのいわゆるデジタル革命、これは幾つかのフェーズがあると思うんですけど、現在のインターネット&モバイル革命までの段階までは、残念ながら必ずしも日本の産業組織としては、なかなか有利に戦いを進められなかったというような経緯があったような気がしています。

問題は今後なわけでありますが、やっぱりここでも実は統合化というのは、今までの段階でも実はキーワードだったになるわけですが、私は先程、最後に中村理事長が言われたAI化、ビッグデータ化の脈絡の中で、これからますます統合化というのはものすごく大事なキーワードだと思っている次第であります。ちなみに、この「イノベーションから産業を」という脈絡の議論で、非常によく出てくる議論というのが、よく言われている「基礎研究から産業ステージに移り、イノベーションのプロセスの中にいろんな死の谷がありますよ」という、これは時間軸におけるある種のインテグレーションの議論です。「色々な機能を連続的に統合的に繋がっていくエコシステムがないと、なかなか個々のファクターテクノロジーレベルのイノベーションが産業につながりませんよ」という、これはすごくクラシックに言われている議論です。これは時間軸の統合化と言われている、そういうシステムを作っていこうという話です。これは既に言われているので、これはあまり今日深く話をするつもりはありません。

もう一つ私は、空間軸のインテグレーションというのを、ますます今後大事だと思っていまして、それはどういうことかと言うと、これも近い話、ベンチャーの話は比較的わかりやすいので、ベンチャーの例をお話ししたいと思いますが、ベンチャー政策を議論する時に、イノベーションの中の一つの、日本の今の産業システムの中で言うと、欠けている、ミッシングパーツと言われている部分です。ベンチャーって言ってもいろんなベンチャーがあるんですね。新しい事業を興す時に、色々な事業がございまして、要は、知識集約度が、当該産業ビジネスで高いか低いか、それからもう1点は資本集約度が高いか低いかという、そういう視点であります。ビジネスのネイチャーっていうのは、大体この2つで、すごく決まるんです [スライド1]。実は、日本がずっと苦戦しているのは、「本格テッキー系」と言っている知識集約度も高く、かつお金も必要なベンチャーのビジネスモデルがなかなか立ち上がってこない、というゾーンです。逆に「ストリートファイター系」と呼んでいる外食とか、小売とかアパレルとか、いったモデルでは実は結構日本の会社が出てきているんです。その代表選手がユニクロであり、楽天もある意味これに近いんですけども、要は日本から出てきているわけです。ここは、割と既存のエコシステムでも十分に回っているんですね。ところが、知識集約度が高く、資本が多く必要なゾーンが今のところアメリカの独壇場になっているわけであります。ここについて結構誤解があって、「とにかくベンチャーキャピタルをいっぱい作れば、まあなんとかなんじゃないの」っていうのが、20年ぐらい前の政策の議論だったんです。では、例えばシリコンバレーがベンチャーキャピタルだけであるかというと、全然違うわけです。それはインターネットだって、あるいはGPSだって、事前にDARPAであるとか、DOEであるとか、NIHであるとか、膨大な公的資金投入があって、そのスピルオーバーで最後の最後にGoogleが登場するわけで、それが繋がっているということが彼らの強みなわけです。ですからこれを繋げていくというのは、非常に重要な議論で、先程の最初の話の、死の谷の橋を両方からかけるというような努力が、これはまさに先程のCRESTなんかもそうでしょうし、私も関わらせていただいているACCELなんかも、そういう努力を今、必死になってやっているわけであります。

ただ問題は、それをやっていくという前提で未来の話をしたいと思うんですが、今度、次に出てくるのが、いわゆるスマイルカーブ化、産業のスマイルカーブ化という現象が、今そこかしこで起きているわけで、そうすると、加えてこのプラットフォーマーポジションを、日本の産業なりが取れないと、せっかくイノベーションを起こしても、果実をプラットフォーマーに持ってかれるっていう、割と不愉快な状況が生じるわけであります [スライド30]。当然この過程で大変な税金を投入しているわけですから、それは願わくはやはり日本国民の所得なり、あるいは富にしていくべきでしょうから、これをどうしていくのかという議論があります。少しここを深掘りして議論したいんですが、これは今中村理事長が言われたように、とにかく今AI、あるいはビッグデータの時代が来ております。私は、ある意味、産業で言うとデジタル革命の最終章になるんではなかろうかと思っております。ここまでのデジタル革命と産業との関係で言うと、実はまだ自動車産業は従来の産業組織構造で生き残っているんです。ですから、プレイヤーの顔ぶれが変わっていません。あのゾーンにはまだGoogleもいなければ、Qualcommもいないわけです。少しここを深掘りして議論したいんですが、これは今中村理事長が言われたように、とにかく今AI、あるいはビッグデータの時代が来ております。私は、ある意味、産業で言うとデジタル革命の最終章になるんではなかろうかと思っております。ここまでのデジタル革命と産業との関係で言うと、実はまだ自動車産業は従来の産業組織構造で生き残っているんです。ですから、プレイヤーの顔ぶれが変わっていません。あのゾーンにはまだGoogleもいなければ、Qualcommもいないわけです。

あと、産業機械の世界も、ある意味では、そういうインパクトは受けずに、それは国内で言えば、日立、東芝、あるいは世界で言えば、SIEMENS、GEという顔ぶれでやっているわけで、多分医療機器なんかもそうなんじゃないでしょうか。問題は、このAI革命、あるいはビッグデータ革命の時代に、そういう産業組織構造が無事でいられるか否かという問いであります。私はそれなりにやっぱり、良い意味でも悪い意味でもインパクトがあると実は思っていて、例えばこの人口知能を用いた交通システムの議論があります。これは、要は運転が自動化できると、結局、実はその運転、車そのものの付加価値と、それから運転、運行管理をする価値と、どっちが価値あるんですか」という問いになってくるわけです。そうすると、それはもちろん、「自分はこのBMWのドライブテイストがいいんだから、自分で運転します」と言う人もいるかもしれませんけども、結構多くの人が、「とにかく運んでくれればいいよ」と、「朝ゴルフ行く時に運転するのは辛いから、自宅に車が来て乗っていたら寝てればゴルフ場に着いて、帰り向こうでビール飲んでも、車に乗っていれば帰ってこられる、っていう方がいいんじゃないの」って言う人が多なってくるわけです。そうすると、要は車というのはそういう統合化されたシステムの1コンポーネントに過ぎなくなってくるわけであり、そうすると、要は最終的にお金を払うユーザーからすると、コンポーネントにお金払うのか、それともそういうサービスにお金を払うのかということになる。サービスにお金を払うということになってしまうと、要はGoogleというすごくよくできたOSや検索エンジンを提供するプラットフォーマーと、ソニーの携帯電話とで、どっちにお金がいくんですかって、そういう話になっていくわけであります。

事実、建機の世界というのは、実はもうこのモードに入っておりまして、実はこれは幸いかな、日本の小松製作所が、この領域ではチャンピオンです。要は、KOMTRAXという仕組みと、無人運転の仕組みを、チリとかの鉱山に納めているわけで、最近日立もそういう展開をされると新聞に出ておりましたが、要は、幸いこの世界では日本の従来メーカーというビジネスモデルだった人達が先行していて、なおかつメーカー自身が、例えば小松製作所で言えば建機っていうキーコンポーネント、要するにキラーコンポーネントを自分で持っているわけです。そのキラーコンポーネントも持っているし、顧客インターフェースとなるサービスシステムも抑えているという一種のプラットフォーマー型のビジネスモデルになっているわけです。今まで割とBtoCの物販とか、あるいはインターネット上のコンテンツ配信というのは、もう完全にこういうスマイルカーブです。儲かるのは両側だけという、QualcommとGoogleは儲かるけど、間は大変っていう、そういう構図になっているわけです。今後こういった自動車であるとか、あるいはは建機であるとか、諸々の産業機械の世界においても、むしろこのAI革命、あるいはビッグデータ化革命によって、やっぱりまたスマイルカーブ現象が起きるんではなかろうかと思います。先程、京都大学の小寺先生が関わっているCOIの話も出ていましたが、あれもある意味では医療サービス、医療機器関連で、ああいうスマイルカーブ現象が起きてしまうと、やっぱりパナソニックも間の機器を扱っているだけだと儲からなくなる可能性があるわけです。やっぱりスマイルカーブの両側を抑えにいくということが、非常に重要な意味合いをビジネスモデル上持ってくるという、そういう可能性を示唆しているわけであります。そうすると、これは冒頭申し上げた、時間軸における統合化という課題とそれからもう一つ、空間軸において、このスマイルカーブの、特に川下側ですが、これは完全に統合型になりますから、統合型のビジネスモデル、産業モデルを作っていくというチャレンジ、この二つの挑戦を上手く乗り越えていかないと、この20年間起きた残念なことが、また起きてしまう危険性があるのかなと思います。電機メーカーはこの典型ですし、私が取締役をやっているオムロンなんかもそうなんですが、オムロンは幸いほとんど両端なんですね。自動化用のコンポーネントと、こっち側の社会システムというどちらかに特化していて、あまり間のビジネスモデルがありません。間のモデルは敢えて言えば健康機器なんですが、間がこれは比較的、小さいニッチ市場なものですから、実はこの20年間のこのデジタル革命のダメージが比較的少なかったのです。今多くの電機メーカーはどちらかと言うと両方にシフトしているわけです。これは全く戦略的に正しいわけですが、問題は今のところこの領域には、Googleとかそういった圧倒的なメガプラットフォーマーな連中が登場していないわけですが、Googleの自動運転研究の動きを見ていると、明らかにこの領域を意識しているんです。これからは自動車や産業材の世界でも同じことが起きるぞ、っていうので、日本の色々な機械系のベンチャーを次々と立ち上げており、あれは明らかに、キーコンポーネント、キラーコンポーネントメーカーを抑えにいっているんだと思います。ですから今度は産業界としても、この2軸の統合化ということを、かなり強く意識してやってかなきゃいけないということと、もう一つは、やはり政策的にも、そういった産業界の展開を、技術的な意味合いにおいても、あるいは産業政策的な意味合いにおいても、場合によっては金融という意味合いにおいても、強力にサポートしていくということが、私は極めて未来志向的には重要なテーマだと考えています。

実際に、経済産業省の「日本の『稼ぐ力』創出研究会」では、産業界の相当なメンバーが集まって、今まで割と近未来の「現在形のテーマで稼ぐ力をどう高めていくか」ということを議論してきました。そしてそろそろ現在形のテーマが終わりまして、未来形のテーマに移っています。未来形のテーマとして、今とにかく重要なテーマとして考えているのは、こうした問題です。ちなみにアメリカやドイツは割とこういうことを意識して、既にいろんな手を政策的に打ってきています [スライド15]。GoogleかAmazonかは別として、産業材とか、あるいは輸送機械の世界において、また、その産業版のAmazonや産業版のGoogleが、アメリカから出てきやすいように、そういう後押しを始めているわけです。先程、Science2.0、Industrie4.0の話がありましたが、ヨーロッパはヨーロッパで、やっぱりこういった意識を明らかにもってきているわけです。要するにプラットフォームをどう抑えるかっていう、ところです。従って、これをどういうふうに政策的に対応していくのかというのは、私は非常に重大な、日本国としてのテーマであり、かつまたこういう科学の世界の人達の非常に重要な課題だと、私にはそういう認識を持っております。正直まだ少し日本の方が政策的にビハインドです。だからとにかく、一刻も早くこの問題意識を高めて、要は日米欧が同じレベルで競い合っていくということは、多分、人類全体にとってもいいことなので、そういう意味で私達自身もっと頑張んなきゃいけないなと思っている次第です。

もう一つ、ちょっと具体的で生々しいテーマと言うか、じゃあどういうテーマがそれぞれのセクターにどういうふうにあるのかということを、最後に少し申し述べておきたいんですが、一つは、これも先ほどの中村理事長のお話にもちょっとあったんですがやっぱり人材であります。統合化というのは、要は一番大変なのはつなぎなんですね。時間軸も空間軸もつなぎであります。日本は残念ながら、このつなぎ型人材にちょっと弱いというパターンが、ずっとあります [スライド28]。要はアカデミアと産業のつなぎ、またあるいはアカデミアAとアカデミアBのつなぎ、産業界も実は意外と弱くて、産業Aと産業Bって意外とつながってないんです。あるいはもっと言ってしまうと、同じ産業でも企業Aと企業Bがつながってない場合が結構多いので、そういったものをつなげて縦横どうするかというのが、待ったなしの課題となっています。良くも悪くも、ある時期日本を、大変な産業を大きな産業に導いた、閉鎖的な雇用慣行、要は一つの組織に入ったらその中で、年功終身でやっていくっていう仕組みは、残念ながらつなぎ人材を育てるという意味では非常によろしくない仕組みなんです。ですから特にこういうエリートの人材と言いましょうか、トップクラスの人材の市場、労働市場っていう言い方はあまりしない、労働者っていう感じはあまりしない、人材市場です。人材市場をどういうふうにダイナミックに流動的にしてくかっていうことは、これは個々の企業のテーマでもありますので、これが非常に大きなテーマになるんだろうなと思います。それから特に大事なのは、プロジェクトマネージャーとか、プログラムマネージャーとか言われている、タイプの人材であり、とにかく、かなり本気になって作っていかないとなりません。要はシリコンバレーとかで活躍しているのはそういうベンチャーキャピタリストと言われる人たちなので、なぜああいうPDが多いかと言うと、要は基本的には日本で言ったら、いわゆるプロマネ人材に近い人達がやっているわけで、決して金融の専門家がやっているわけではありません。これがすごく大事なんだろうなと思っています。

それからも一つ、先ほどの議論の関連で言うと、どうやって強力なプラットフォーマーを作っていくかという話です [スライド29]。これは、出てくるプロセスとしては、一つは元々いたプレイヤーがプラットフォーマーに進化していくという、ですから先程の小松製作所のパターンです。もう一つは、ベンチャーが大化けしてプラットフォーマーになってしまうという、GoogleとかAmazonのモデルであります。どちらもありなんですが、距離感で言うと、「日本からGoogleを作りだそう」は、正直距離感が遠いです。むしろ、今回のある種のデジタル産業革命の最終章は、割と分野別にプラットフォーマーが分かれてくるような気がしています。AmazonのケースとかBtoCというのは、消費財を、耐久消費財というカテゴリーで物を売っていますから、最終的には同じことやっているんです。そういった意味で言うとかなりクロスオーバーなプラットフォーマーが出てきやすいんですけど、例えば建機の世界と、普通の自動車を公道で走らせる話と、あるいは医療機器と、これはかなりプラットフォーマーに求められる機能が変わってまいりますので、恐らく産業分野ごとにスペシャリスト型のプラットフォーマー・プレイヤーが出てくるのかなと思います。そうすると、元々その領域で非常に力を持っているプレイヤー、メーカーさんが、上手くビジネスモデルを進化させていけば、小松製作所のようなパターンというのは再現可能ではないかと思っていますし、むしろ日本の場合そちらの方が、成功確率が高いような気が正直しております。ただ、大企業が単独でできるかっていうと、小松製作所の場合も確かGPSの技術はロシアのベンチャーから手に入れていて、無人運転の方は、確かアメリカの方だったと思います。要は、やっぱりベンチャーとの組み合わせ、オープンイノベーションということになるわけで、その力を、どう大企業自身が高めていくかというのが、一つの大きなテーマなんだろうなと思っております。

ということで、最後にまとめると、要はデジタル革命による産業組織構造のインパクトは、今度のビッグデータ&AIフェーズでは、ひょっとすると、今まで逃げ切ってきた産業領域にも及ぶんじゃなかろうかということです。従って、そういった意味合いで言うと、これをどういうふうに私達が、この過去の10年間の失敗を今回は繰り返さずにできるかということです。今度は、むしろこの領域はメカトロ系であり、日本が強い領域ですから、色々な擦り合わせとか、そういう要素がいっぱい効く領域であり、作り込みが効く領域ですから、「今度は勝とうぜ」と、そういうことを最後に申し上げて、私の話を終わりにしたいと思います。



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